今回は長野県のマイナー観光地ということで、岡谷市今井(いまい)の十五社神社(じゅうごしゃ-)について。
十五社神社は岡谷ICから諏訪湖へ向かう途中、住宅街の中にある丘のような社叢の中に鎮座しています。本殿は規模も造りも標準的なものですが、舞屋が風変わりな造りをしていて、神社建築好きならば「おや?」と思わずにいられない興味深い内容になっています。
現地情報
所在地 | 〒394-0004長野県岡谷市神明町4-1-2(地図) |
アクセス |
岡谷駅から徒歩40分 岡谷ICから車で5分 |
駐車場 | 5台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
境内入口
こちらが十五社神社の入口。手前の通りは、飛ばしてくる車が多いので横断注意。
鳥居から向かって右には手水舎があります。狛犬は木製です。
手水舎は蟇股(かえるまた)に彫刻があったり、木鼻に雲の意匠があったり、村の鎮守といった感じの神社にしては手が込んでいます。
舞屋
鳥居をくぐり、50段程度の短い階段を登ろうとすると、首題の舞屋が見えてきます。1801年の建立とのこと。
ぱっと見で楼門かと思ってしまいそうになりますが、案内板(岡谷市教育委員会設置)に“今井十五社舞屋”とあったので、舞屋でまちがいないでしょう。
懸造(かけづくり)の舞屋が、参道の上に覆いかぶさるように建っており、参拝者はその床下をくぐって拝殿へ向かうことになります。
鳥居、舞屋(神楽殿)、拝殿、本殿が一直線に並ぶ社殿配置はよくありますが、「参拝者に舞屋の下をくぐらせる」という設計は初めて見たのでちょっと驚きました。しかも、この舞屋は正面の柱間が偶数(4間)になっているので、建物の中心が参道のセンターラインとずれてしまっています。
驚いたことはそれだけではありません。写真は舞屋を背面から見た図。
まず、神社建築において茅葺き屋根は格式が低いとされるため避けられる傾向があるのですが、この舞屋は屋根が茅で葺かれています。次に、寄棟は基本的に寺院と住宅に多く使われる様式で、神社ではマイナーな様式になるのですが、この舞屋は寄棟です。
屋根だけで2箇所も神社建築のセオリーに反しており、懸造りの“くぐり舞屋”という奇妙な構造... 少なくとも、私はこれに類するような舞屋(神楽殿)は他に見たことがないです。
津島社
拝殿と本殿に移る前に、境内社の紹介を。
諏訪大社の紋が賽銭箱にありますが、津島社と言うので祭神は牛頭天王でしょう。
津島社はこけら葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)、向拝に軒唐破風(のき からはふ)付き。1929年の建立とのことで、かなり新しいものです。
しかし、きれいな画が撮れず、わかりにくい写真になってしまいました。いちおうの補足として書いておくと、母屋の柱は丸柱で梁は二手先、左右に脇障子があり、縁の下は4手先の組物になっています。これだけ補足しておけば、神社建築好きなら社殿のだいたいの姿はイメージできるはず...?
拝殿と本殿
拝殿は標準的な入母屋(ひらいり)、向唐破風(むこう からはふ)付き。
写真中央に写っているのは一之御柱です。
向拝部分は彫刻が多数あります。懸魚には鶴、虹梁の中央には竜、虹梁の両端の木鼻には唐獅子と象。
本殿は図のように覆いがかかっていますが、ガラスの隙間から覗いて見ることができます。
肝心の屋根がよく見えないですが、こけら葺の一間社流造、1863年の造営とのこと。
母屋は丸柱で、向拝は角柱。石の土台の上に立っており、正面の階段の下には浜床があります。
脇障子と縁の下には彫刻がありましたが、私の腕前ではきれいな写真が撮れませんでした。ご了承下さい。
背面。母屋の柱間が1つだけなので、これは一間社。屋根はやはりよく見えなかったですが、垂木の向きからして平入りであり、流造で間違いないです。
縁側は背面にも設けられており、縁の下は四手先の組物で支えられています。脇障子の彫刻の題材はカササギだそうですが、あいにく裏側からでは葉っぱしか見えず...
覆いがついているせいで社殿が見づらいのは困りものですが、その社殿は非常にきれいな状態で保たれているので、覆いに文句を付けるわけには行きません。とはいえ、覆いの隙間から見える外観と案内板の情報を照らし合わせ、推理するのもけっこう面白かったりします。
社殿の解説は以上になります。この神社は、もともとの雰囲気もなかなか良い感じなのですが、神社建築のセオリーとか見方とかを知っていると面白さが跳ね上がると思います。
以上、十五社神社(今井)でした。
(訪問日2019/07/06)