甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【松本市】深志神社

今回は長野県松本市の深志神社(ふかし-)について。

 

深志神社は松本市街の中心部に鎮座しています。

創建は社伝によると1339年(暦応二年)。小笠原貞宗が戦勝を祝って諏訪明神を当地に勧請したのがはじまりとされます。当初は宮村宮と呼ばれていました。1402年(応永九年)には、小笠原長基が北野天満宮から天神を勧請したようです。小笠原氏が武田氏に敗れて深志(松本)を追われると、当社は荒廃しました。小笠原氏の復帰後、1582年(天正十年)に社殿が再建され、以降は深志地区の鎮守として崇敬されています。1841年(天保十二年)以降、深志神社と公称するようになったようです。

社殿はいずれも新しいもののようですが、神楽殿や本殿などは極彩色の派手な造りとなっています。境内奥には2棟の本殿が並立し、それぞれ諏訪明神と天神が祀られています。

 

現地情報

所在地 〒390-0815長野県松本市深志3-7-43(地図)
アクセス 松本駅から徒歩15分
松本ICから車で15分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 信州松本 天神 深志神社
所要時間 15分程度

 

境内

参道

深志神社の境内は西向き。めずらしい方角を向いています。

境内は松本駅の東側の、中心市街地の一画にあります。

入口の一の鳥居は、石造の明神鳥居。扁額はなく、額塚が入っています。

鳥居の右奥の社号標は「別表社 深志神社」。

 

二の鳥居は木造の両部鳥居。扁額は「深志神社」。

 

参道左手には手水舎。

入母屋、銅板葺。

 

正面(南面)の軒下。

虹梁は、白地に金色で波状の唐草が描かれています。

虹梁の上の中備えは波の彫刻。

その上の軒桁は、菱形の花のパターンで彩色されています。安土桃山風の派手な彩色。

 

柱は几帳面取り角柱。

木鼻は正面側面ともに雲の意匠。極彩色に塗り分けられています。

柱上の組物は出三斗。

 

側面(東面)。柱間は2間。

虹梁や中備えは、正面のものと同様の意匠。

妻虹梁の上には、極彩色の雲の彫刻が一面に配されています。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

内部は格天井になっています。

天井の木枠は、黒字に金色の線が入っていて、重厚な趣。

 

参道からはずれて境内北側へ行くと、恵比寿殿という社殿があります。

案内板によると、事代主と大国主が祀られているとのこと。

 

神楽殿

参道の先には神楽殿。

鳥居と神楽殿と拝殿本殿が一直線にならんでいます。これは松本近辺でよくみられる社殿配置。

神楽殿は、入母屋(妻入)、銅板葺。

 

正面の軒下。

虹梁は白を基調とし、眉欠きは青、下面は赤く塗り分けられています。白い部分に描かれた絵様は、梅の意匠になっています。

虹梁の上には蟇股。中央部には梅鉢のような紋が見えますが、中央が五角形ではなく丸になっているため、梅鉢ではありません。

 

柱は角柱。正面側面ともに3間。

柱間は、格子戸や蔀のような外観の窓。

軒裏は一重まばら垂木。

 

背面。

正面とほぼ同じ意匠。

 

拝殿

神楽殿の先には拝殿。

入母屋、向拝3間 軒唐破風付、銅板葺。

 

向拝の中央部。

3間ある向拝のうち、中央は虹梁がかかっていません。向拝3間というよりは、1間の向拝を2つ並べたような形式。道明寺天満宮拝殿(大阪府藤井寺市)と似た構造です。

 

唐破風の小壁には、笈形付き大瓶束。束の左右の笈形は若葉の意匠で、黄緑色に彩色されています。

唐破風の兎毛通は蕪懸魚。赤を基調とし、ふちは青く塗り分けられています。

破風板の飾り金具には神紋が描かれています。遠目に見るとどちらも同じに見えますが、向かって左は天満宮の梅鉢、右は宮村宮(諏訪神社)の諏訪梶。

 

向かって左の向拝。

向拝柱は几帳面取り角柱。白を基調とし、几帳面の部分だけ赤く塗られています。

向拝柱の側面には拳鼻。柱上は出三斗。

虹梁中備えは蟇股。

 

向拝側面。

4本ある向拝柱のうち、外側の2本は手挟がありません。手挟のかわりに、母屋とつながる梁がわたされています。

 

母屋柱は円柱。柱上は出三斗と平三斗。

頭貫には拳鼻がついています。

 

左側面(北面)から見た、拝殿の全体図。

拝殿の後方には幣殿と思しき妻入の屋根が伸び、拝殿の脇には一段低い切妻の小屋がついています。

 

拝殿の側面についた小屋。

柱は円柱ですが、柱上に台輪が通っています。組物は大斗と舟肘木で、拝殿の母屋より簡略化されています。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みは鰭付きの蕪懸魚。

 

本殿

拝殿の後方は玉垣に囲われ、2棟の本殿が並立しています。左手前の小さい社殿は八坂神社。

本殿は2棟とも、一間社流造、銅板葺。

 

左が天満宮本殿で、祭神は天神こと菅原道真。右が宮村宮本殿で、祭神はタケミナカタ。

本来は宮村宮(諏訪神社)が主ですが、現状は天満宮が主に据えられている様子。公式サイトや案内板を見ても、学問の神である天神(天満宮)のほうが強調されています。

 

向かって左にある天満宮。

向拝柱は几帳面取り角柱で、紅白に塗り分けられています。

虹梁には蟇股がありますが、遠くて詳細はよく見えず。

軒桁は菱形のパターンで彩色されています。

正面の階段は5段。黒い角材が使われ、両端や中央は金具で装飾されています。昇高欄や縁側の跳高欄も、黒地に金色の金具がついています。

 

海老虹梁は、白を基調とした配色。

母屋は、長押や頭貫木鼻、支輪板が極彩色です。

見づらいですが、妻飾りは笈形付き大瓶束。こちらも極彩色。

 

向かって右の宮村宮。

建築様式や細部意匠は天満宮とほぼ同じのため、詳細は割愛。

 

大棟の前面には、それぞれの神紋が描かれています。

両社とも、千木は外削ぎ、鰹木は5本。

 

境内社

境内南側の駐車場の近くには、多数の境内社が並立しています。

こちらは愛染神社。

 

愛染神社の左側には、金山神社などの3社をまとめた社殿があります。

 

扁額は、左が「金山神社」、中央が「松尾神社」。右は扁額がないですが、案内板によると「三十四末社」。

扁額のあいだの蟇股は、波に亀の彫刻が入り、彩色されています。

 

社殿の内部には本殿が3棟。

左の金山神社は金物や鉱業の神。一間社流造、正面千鳥破風付、こけら葺。

中央の松尾神社は酒造の神。一間社流造、こけら葺。

右の三十四末社は、境内の小規模な末社をまとめたもの。一間社流造、正面軒唐破風付、こけら葺。

 

境内の南端には市神社。商売の神。

 

以上、深志神社でした。

(訪問日2022/07/10)