世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【富士河口湖町】冨士御室浅間神社 ~北向きの本殿は江戸時代初期の造営~

今回は山梨県のマイナー観光地ということで、冨士御室浅間神社(ふじおむろせんげん-)について。

小室浅間神社(おむろせんげん-)という別名もあるようですが、富士吉田市にある同名の神社(下浅間)と間違えないようご注意ください。

 

この日はすでに3件の浅間神社をまわっていて、「また浅間神社だけど...」と同行していた父に言うと、「なら、全ての浅間神社をまわってコンプリートしてみるのも面白くない?」と恐ろしいことを言ってきました。

浅間神社は全部でいくつあるのだろうと疑問に感じて検索してみると、山梨と静岡を中心に約1,300社があり、中には富士山の山頂のような極地に鎮座する社もあるとのこと。

余談はさておき、本題に入りましょう。

 冨士御室浅間神社へのアクセスは河口湖駅から徒歩30分程度です。

無料駐車場は境内の周囲に複数あります。今回は境内西側、河口湖の近くの駐車場に車をとめました。

 

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西参道の入り口の鳥居です。正面の表参道のほうではないので悪しからず。

 

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鳥居を通って100mくらい歩くと随神門があります。

 

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随神門から見た表参道。参道の長さ、灯籠、社叢、どれをとっても立派です。

 

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拝殿。複雑な形状をした入母屋で、平入・妻入どちらか迷いますが、正面に見える妻は千鳥破風っぽいので、平入でしょう。ご覧の通り、非常に奥行きのある建物になっています。千木は穴があいており、先端が二股に割れた形状です。

 

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拝殿正面の向拝の下側。しめ縄がかかっていて虹梁が隠れてしまっていますが、彫刻や垂木の密度は圧巻。見事としか言いようがありません。

これだけでも充分に素晴らしいのですが、御室浅間神社に来たなら是非とも本殿を見て行きましょう。本殿は拝殿の後方...ではなく、拝殿と斜めに向かい合う奇妙な位置にあります。

 

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表参道の西側、拝殿とはす向かいの位置に赤い瑞垣に囲われた社殿がありますが、これが本殿です。拝殿が南向きであるのに対し、本殿は北を向いています。本殿は重要文化財

この本殿はもともと富士山の2合目に鎮座しており、武田三代(信虎、晴信/信玄、勝頼)から篤い信仰を受けていたようです。戦後に入ると参道の利用者が少なくなったせいで道が荒れ果て、維持が困難になったため1974(昭和49)年に現在の位置へ移築したとのこと。

それにしても、なぜ北向きにしたのだろう...?

 

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賽銭箱の前からでは本殿がよく見えないので、側面に回り込んでみました。一間社で平入の入母屋。向拝は唐破風。

この本殿は江戸時代初期の1612(慶長17)年のもので、現在は銅葺きですが、移築前は檜皮葺きだったようです。

 

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瑞垣の隙間から手を突っ込んで撮った写真。

垂木は先端が金色に塗装されており、当然のように二重(二軒(ふたのき)という)になっています。組物と蟇股は極彩色で、カラフル。

 

柱の形状をよく観察すると、母屋(建物の本体)の柱は円柱ですが、向拝の柱は角柱です。これは神社建築の基本で、円柱のほうが成形に手間がかかるので、神の空間は円柱、俗人の空間は角柱といったふうに分別して格のちがいを示しているのです。

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さらによく観察してみると、母屋の柱の縁の下の部分が八角柱になっています。床上は円柱ですが、目立たない縁の下は八角柱で手抜きしている、というわけですね。

神の空間に手抜きとは何事だ、と思われる方も居るかもしれませんが、目立たない部分を省力化するのは神社建築のセオリーです。これは“手抜きした分の労力を他の目立つ場所に費やそう”という発想で、ある意味とても合理的な考え方です。この合理的な手抜きがなかったら、この本殿は幾らかあっさりした外観になっていたかと思います。

 

以上、冨士御室浅間神社でした。

(訪問日2019/03/30)