甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【京都市】仁和寺 その1 二王門と本坊

今回は京都府京都市の仁和寺(にんなじ)について。

 

仁和寺は市の北西部の丘陵地に鎮座する真言宗御室派の大本山です。山号は大内山。

創建は888年(仁和四年)。光孝天皇とその子の宇多天皇によって開かれました。当初は天台宗でしたが、宇多天皇によって真言宗に改められました。天皇家の庇護を受けて隆盛しますが、応仁の乱ですべての境内伽藍を焼失し衰微しました。江戸時代は徳川家光の寄進で境内伽藍が再建されています。戦後は真言宗から独立し、御室派の大本山となりました。

現在の境内は江戸前期に整備されたもの。とくに金堂は京都御所から下賜・移築された建物で、寝殿造の遺構として貴重であることから国宝に指定されています。五重塔など多数の伽藍も国重文となっています。『徒然草』の「仁和寺にある法師」で著名なほか、桜の名所としても知られます。

 

当記事ではアクセス情報および二王門と本坊について述べます。

中門、金堂、観音堂については「その2」を、

鐘楼、御影堂、経蔵については「その3」を、

五重塔と九所明神については「その4」をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒616-8092京都府京都市右京区御室大内33(地図)
アクセス 御室仁和寺駅から徒歩3分
京都南ICから車で30分
駐車場 100台(500円)
営業時間 09:00-17:00(※冬季は16:30まで)
入場料 境内は無料、御殿などの拝観は公式サイトを参照
寺務所 あり
公式サイト 仁和寺
所要時間 90分程度

 

境内

二王門

仁和寺の境内は南向き。境内の入口には、巨大な二王門*1が建っています。

五間三戸、楼門、二重、入母屋、本瓦葺。

1641~1645年の造営。「仁和寺 14棟」として国指定重要文化財

 

下層の正面。

正面の柱間は5つあり、両端の各1間は仁王像が置かれ、中央の3間は通路になっています。

 

向かって右手前の柱。

柱はいずれも円柱が使われ、柱間には貫が通っています。頭貫木鼻はありません。

柱上の組物は三手先。中備えは間斗束。

 

下層内部。写真左が正面側です。

内部は格天井。内部を通る頭貫の上には、板蟇股が置かれています。

 

左側面(西面)。

側面は2間で、柱間は白い横板壁。

組物や中備えなどは正面と同様です。

 

上層の正面と側面。

詳細な写真が撮れませんでしたが、正面の柱間は板戸、組物は和様の尾垂木三手先、中備えは間斗束が使われているのが確認できました。

軒裏は、上層下層ともに平行の二軒繁垂木。

 

背面から見た図。

ほぼ前後対称の構造となっています。

 

本坊と勅使門

境内の南西の区画は本坊となっていて、二王門をくぐると左手に2つの門が東面しています。こちらは二王門のすぐ後ろにある本坊表門。

本坊表門は、一間一戸、薬医門、切妻、本瓦葺。

慶長年間(1596-1615)頃の造営。「仁和寺 14棟」として国重文

 

正面の軒下。

冠木から前方(写真右)に腕木(梁)を突き出し、軒桁を受けています。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

梁の上では大瓶束が棟木を受けています。

妻面の梁の大瓶束には、板状の笈形がついています。笈形とも板蟇股ともつかない微妙な形状です。

 

本坊表門の奥には御殿入口の玄関があります。

玄関は、向唐破風、檜皮葺。

 

玄関の軒下。

虹梁の上には蟇股が2つ置かれています。

唐破風の妻虹梁の上には笈形付き大瓶束。笈形は渦の意匠。

兎毛通は猪目懸魚。

 

柱は大面取り角柱。年代不明(おそらく近代のもの)ですが、古い技法を意識したのか、面取りの幅が大きいです。

柱の正面と側面には拳鼻。

柱上の組物は出三斗。

 

玄関の内部は、まばらな茨垂木の化粧屋根裏になっています。

妻面には透かし蟇股。繊細な造形です。

 

つづいて、本坊表門の北側に並立する勅使門(ちょくしもん)。勅使門とは、天皇やその使者が通る門のことを言います。

一間一戸、四脚門、入母屋、正面背面軒唐破風付、檜皮葺。

1914年造営。登録有形文化財。

 

屋根の正面には唐破風がつき、いわゆる「唐門」の形式です。左右には袖塀がつながっており、こちらの屋根は本瓦葺です。

大工棟梁は亀岡末吉。

 

手前の控柱は大面取り角柱。面取りの幅が大きいです。

柱の正面と側面には木鼻。若葉の意匠で彫刻されています。

柱上の組物は出三斗。

組物の上の妻虹梁は、渦状の絵様が白い線で彫られています。

 

正面の唐破風の妻面。欄間には波や鳳凰の彫刻がびっしりと彫られています。

妻虹梁の下は透かし蟇股、上は大瓶束が入っています。

 

門扉は桟唐戸。近代風の繊細な彫刻で埋めつくされています。

下の羽目板には、猪目(ハート形)をアレンジした幾何学的な図案が並んでいます。

上の透かし彫りの格子は、花狭間のような意匠が部分的に使われています。

 

桟唐戸の上の壁面。

こちらも蟇股や大瓶束、唐草の彫刻などがあります。

 

主柱(桟唐戸の筋の柱)は、円柱が使われています。

主柱とその前後の控柱のあいだには、腰の高さに長押が打たれ、欄間に花狭間の透かし彫りが入っています。

 

二王門と本坊については以上。

その2では中門、金堂、観音堂について述べます。

*1:たいていは王門と書くが、当寺では王門と書くようで、公式サイトや文化庁データベースでも「二王門」となっている