甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲州市】若宮八幡大神社

今回は山梨県甲州市の若宮八幡大神社(わかみやはちまんだい-)について。

 

若宮八幡大神社は塩山市街の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると鎌倉時代、甲斐源氏の祖である加賀美遠光の子の、加賀美光経(小曽四郎光経)が勧請したのがはじまりとのこと。その後の沿革は不明。

現在の境内社殿は江戸後期以降のものと思われます。とくに拝殿は神社の規模のわりに大きく、内外陣にわかれた構造や各所の彫刻が特色となっています。

 

現地情報

所在地 〒404-0043山梨県甲州市塩山下於曽966-1(地図)
アクセス 塩山駅から徒歩10分
塩山ICから車で15分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

拝殿

若宮八幡大神社の境内は東向き。入口は白井甲州線という道路に面しており、道に沿って500メートルほど南へ行くと熊野神社があります。

鳥居は石造明神鳥居。

 

参道の右手には手水舎。

切妻、銅板葺。

 

参道の先には、境内の規模のわりに大きな拝殿が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、入母屋、鉄板葺。

造営年不明。私の予想になりますが、江戸後期のものでしょう。

 

正面中央には鈴のついた縄があり、虹梁には蟇股が置かれています。

蟇股の彫刻は竜だと思いますが、造形が細かくて複雑なうえ、彩色が落ちていて題材がよく解りません。

 

母屋は正面側面ともに3間。

前方(写真左)の1間通りは床の低い外陣。後方の2間通りは内陣のようですが、母屋の中心部分だけを建具で仕切り、その左右は外陣や縁側とつながった空間になっています。

当地でも他地域でも見かけない、風変わりな構造の拝殿だと思います。

 

縁側はくれ縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

内陣外陣にあわせて、縁側も床に高低差がつけられています。背面側は脇障子らしき板を立てています。

床下には丸い礎石らしきものが見えますが、その上に四角い礎石を設置して柱を立てています。おそらく四角い礎石は後補のもの。

 

柱は角柱。面取りの幅が小さく、江戸後期の技法に見えます。

柱上には、肘木とも拳鼻ともつかない部材が使われ、軒桁を受けています。

軒裏は一重まばら垂木。

 

外陣の内部。天井はなく、化粧屋根裏です。

外周の柱(側柱)と内陣の柱のあいだには、わずかに曲がった虹梁がわたされています。

 

内陣の柱も角柱で、柱上は出組。組物の木鼻は竜の頭の彫刻。

桁下の支輪板にも、白く彩色された竜らしき彫刻があります。

 

内陣の正面中央。扁額は「八幡宮」

扁額の下にわたされた虹梁の絵様は、波のような意匠。他社では見ないような、独創的な曲線だと思います。

 

内陣の隅の柱。

頭貫には、肘木と拳鼻が一体化したような、独特の意匠がついています。

 

左側面(南面)の入母屋破風。

妻飾りは、妻虹梁の上に大きな蟇股が置かれています。

 

本殿

拝殿の後方には本殿が鎮座しています。

一間社流造、鉄板葺。

造営年不明。

祭神は応神天皇(誉田別命)と仁徳天皇*1

 

向拝柱は、糸面取り角柱。柱の側面には唐獅子の木鼻。

組物は連三斗で、手挟は渦状の波の意匠。

桁隠しには懸魚がついています。

 

母屋柱は円柱。頭貫には拳鼻。

組物は出組。中備えは透かし蟇股で、波の彫刻が入っています。

妻飾りは蟇股。

 

背面および側面は横板壁。

背面の頭貫の上にも、波の彫刻の蟇股があります。

縁側は、背面以外の3面にまわされ、背面側は脇障子を立てています。

 

右側面(北面)後方から向拝を見た図。

虹梁中備えには蟇股があり、花と思しき彫刻があります。

海老虹梁は使われていません。

 

以上、若宮八幡大神社でした。

(訪問日2023/04/22)

*1:山梨県神社庁より