甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【近江八幡市】長命寺 前編(日吉神社、参道、本堂)

今回は滋賀県近江八幡市の長命寺(ちょうめいじ)について。

 

長命寺は琵琶湖畔の山間に鎮座する天台宗系(単立宗派)の寺院です。山号は姨綺耶山。

創建は、寺伝によると当地にて武内宿禰が柳の木の下で長寿を祈願し、聖徳太子がその柳の木から十一面観音を彫ったのが始まりとのこと。確実な資料に長命寺が確認できるのは1074年の寄進状で、平安期には確立されていたと思われます。平安末期から室町期には守護の佐々木氏や六角氏の庇護を受けて隆盛しましたが、室町後期の伊庭氏の反乱による兵火で伽藍を全焼。その直後から江戸初期にかけて順次再建されたものが現在の境内伽藍となっています。江戸期には多数の塔頭(小寺院)を有したようで、その一部が現存しています。

境内は広く長大で、湖畔から山頂近くまでが領域となっています。伽藍は室町後期以降に再建されたものが多数現存しており、4棟の堂宇が国重文に指定され、きわめて充実した内容です。

 

当記事ではアクセス情報および参道と本堂について述べます。

三重塔、護摩堂、三仏堂、護法権現については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒523-0808滋賀県近江八幡市長命寺町157(地図)
アクセス 竜王ICから車で25分
駐車場 20台(無料)
営業時間 08:00-17:00
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 2時間程度

 

境内

日吉神社

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長命寺の境内入口は琵琶湖畔に面し、寺の鎮守と思しき日吉神社があります。読みは「ひよし」「ひえ」どちらなのか不明。

案内板(設置者不明)によると、鎌倉期の長命寺の文書にこの神社の記載があるとのこと。

 

境内は南向き。社号標は「日吉神社」。

鳥居は石造の明神鳥居。扁額は判読できず。

 

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拝殿は切妻(妻入)、桟瓦葺。

滋賀県内でよく見られる神楽殿風の拝殿で、柱間には蔀が使われています。

 

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本殿は一間社流造、銅板葺。

造営年不明。おそらく江戸中期以降のもの。

祭神はオオヤマツミ。大棟の紋は三つ巴。

 

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向拝柱は几帳面取り。

木鼻は側面に獏の彫刻。

柱上の組物は連三斗。獏の上に巻斗がのって持ち送りしています。

 

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正面はあまり神社らしくない羽目板の扉が使われています。上部は花狭間、下部は格狭間で、両者とも透かし彫り。

扉の両脇には雲状彫刻の羽目。ここは江戸中期後期の作風。

 

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母屋柱は円柱。

縁側はくれ縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。後方は脇障子でふさがれ、脇障子の羽目板彫刻は金鶏と思しき鳥が題材。

 

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頭貫木鼻は唐獅子。

柱上の組物は出組で、妻虹梁が一手先に持出しされています。持ち出された妻虹梁の下には軒支輪。

中備えは詰組と蟇股。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

 

長命寺参道

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日吉神社の脇を進むと、長命寺へ至る参道となります。

入口には石造の冠木門。石段は808段あるらしいですが、これは単に数が多いことのたとえでしょう。

 

ここから長命寺まで片道20~30分程度

日吉神社から長命寺境内の中心部まで行ける車道もありますが、車止めが設けられていて軽自動車でないと進入は難しいです。

 

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石段の途中には石垣や塀など塔頭の跡地があり、往時の隆盛の痕跡を見て取れます。

 

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長大な石段を登りつめた先には総門。冠木門と高麗門と組み合わせたような様式。

総門の右奥には手水舎。入母屋、銅板葺。

 

本堂

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総門の先には懸造のような雰囲気の本堂が南面して鎮座しています。

寺院本堂としてかなり大きい部類。見上げるアングルで視界に入ってくるため迫力があり、長い石段を登って来たのもあって、視界に入ってきたときの感動はひとしおです。

 

桁行7間・梁間6間、入母屋、檜皮葺。正面20.41メートル、側面20.50メートル。

1524年に再建されたことが勧進帳に記載されているとのこと(長命寺設置の案内板より)。国指定重要文化財

本尊は千手観音。像は寺伝によれば聖徳太子の作で、像を納めた厨子は本堂の附で国重文。

 

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後述する細部意匠は端正な和様が用いられていますが、間取り(とくに柱間)は左右非対称で独特な構造をしています。

正面は7間あり、向かって右の1間(しっくい塗りの壁)以外は、すべて建具がなく吹き放ち。

 

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右側面(東面)は前方の1間だけが吹き放ち。

 

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対して左側面(西面)は前方の5間が吹き放ちになっています。

案内板によると、再建当初は正面のすべてが吹き放ちで、右側面の前方の1間と、左側面の前方の3間が吹き放ちだったとのこと。

 

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母屋柱は円柱。大型の仏堂のため、太い柱が使われています。

軸部は長押と頭貫で固定されていますが、頭貫木鼻はありません。ここに木鼻を使わないのは純和様の古式な造り。

柱上の組物は出三斗。こちらもやはり大ぶりなものが使われています。中備えは間斗束。

 

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入母屋破風の妻飾りは、しっくい壁に豕扠首。

暗くて見えにくいですが、破風板の拝みには猪目懸魚。

大棟には鬼瓦。

 

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縁側は切目縁が4面にまわされています。正面の縁側は擬宝珠付き。縁の下は円柱の縁束が礎石の上に立てられています。

 

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右側面の縁側。

縁側は途中で高さが変えられています。おそらく低いほうが外陣、高いほうが内陣。

欄干は跳高欄。同じ縁側なのにちがった高欄が使われているのは風変わりです。

 

案内板いわく“中世の和様仏堂の好典型としても貴重な遺構であり、無駄な装飾を用いない、格調の高い建築”。おおむね的確な評ですが、私は柱間や縁側の構造が独特で興味深いと思いました。

 

日吉神社、参道、本堂については以上。

後編では三重塔、護摩堂、三仏堂、護法権現などについて述べます。