今回は長野県上田市の法住寺(ほうじゅうじ)について。
法住寺は鹿教湯温泉の入口にあたる東内地区に鎮座する天台宗の寺院です。山号は金峰山。
創建は平安時代(貞観年間)といわれ、円仁(慈覚大使)によって創建されたとのこと。伽藍は室町期の戦火で焼失しており、室町中期に再建された虚空蔵堂が現存していて国指定重要文化財となっています。
現地情報
所在地 | 〒386-0413長野県上田市東内4313(地図) |
アクセス | 上田菅平ICから車で30分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
山門
法住寺の境内は南向き。国道に面した場所に駐車場と山門があります。
山門は桟瓦葺の切妻。正面3間・側面2間、柱は角柱。三間一戸の八脚門。
正面の軒下。
柱と柱のあいだには虹梁(こうりょう)がわたされ、柱の上部には頭貫が通っています。長押の上には蟇股(かえるまた)。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。
蟇股は雲状の意匠で、中央に笹竜胆の紋がついています。
頭貫の木鼻は雲状の拳鼻。
柱上の組物は出三斗(でみつど)と連三斗(つれみつど)をあわせたもので、拳鼻の上に乗った皿斗も組物の肘木を受けています。
右側面(東面)の妻壁。
組物のあいだにはシンプルな蟇股。
虹梁の上では、結綿のない大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。大瓶束の両脇には、波の意匠の笈形(おいがた)。
内部の天井には牡丹が描かれていました。
山門をくぐって集落の中を数十メートルほど進むと、法住寺の境内に入ります。
本堂など
参道の右手には門。
桟瓦葺の切妻。一間一戸の薬医門。
本堂は鉄板葺の寄棟(平入)。
箱棟の紋は笹竜胆と菊。扁額は「法住台寺」。
参道の左手には経蔵と思われる堂。
桟瓦葺の宝形。
虚空蔵堂
境内の最奥部には虚空蔵堂(こくぞうどう)が鎮座しています。
桁行3間・梁間4間、入母屋、向拝1間、こけら葺。
母屋柱は円柱、向拝柱は角柱。前面の1間は壁のない吹き放ち。箱棟の紋は笹竜胆と菊。
案内板*1によると、棟札より1486年(文明十八年)の再建。国指定重要文化財。
正面の軒先を支える向拝柱は、几帳面取りの角柱。
2本の向拝柱は無地の虹梁でつながれています。虹梁の中央には鰐口が吊るされ、その上部には渦状の繰型だけがついた蟇股が置かれています。
向拝柱の外側についた木鼻は、シンプルな拳鼻。拳鼻に載せられた斗(ます)は連三斗の肘木を受けています。
向拝柱の上で垂木を受けている手挟(たばさみ)は雲の意匠が彫られていますが、室町中期のものなのであまり立体的な造形ではありません。
向拝の縋破風(すがるはふ)には桁隠しの懸魚がないため、向拝の軒桁は木口が露出しています。
向拝柱(左)と母屋柱(右)をつなぐ梁は、ほぼまっすぐな形状のもの。母屋の頭貫の高さから出て、向拝の虹梁の高さに降りています。底部には剣が彫られています。
扁額は「如意宝」。
母屋の頭貫の木鼻は拳鼻。渦状の繰型が経年劣化でほとんど消えてしまっています。
柱上の組物は出組。桁が一手先に持出しされています。組物のあいだには巻斗(まきと)が配置されています。
軒裏は二軒の繁垂木。
母屋の右側面(東面)。
正面3間に対して側面4間で、屋根が平入なのに奥行きの長い平面となっています。
前方1間は吹き放ちの内陣、その次の1間は引き戸、後方の2間は壁板が横方向に張られています。
縁側は、壁面と直交に板を張った切目縁(きれめえん)が4面にまわされています。欄干はなく、床下は縁束で支えられています。
母屋柱の床下は八角柱に成形されていました。
背面。
組物のあいだに間斗束(けんとづか)が置かれ、中央の柱間が引き戸になっている以外は側面とほぼ同様。
右側面の破風。
大棟は箱棟になっており、鬼板には鬼面があります。これは甲信の寺社でよく見かける意匠。
破風板からは懸魚が下がっています。
斜めから見た全体図。
入母屋というありきたりな様式ではあるのですが、棟が高く、それにともなって棟の横幅が詰まったバランス。また、縦長な平面なのに平入(棟が左右に伸びる)なのも、この独特なバランスに輪をかけています。
とはいえ決して不格好なわけではなく、屋根の箕甲や軒先の曲面がきれいに処理されていて、格好良くて個性あるシルエットになっていると思います。
内部は天井が張られ、外陣と内陣は格子戸で仕切られています。扁額は「福一満」。
内陣には厨子が安置され、その内部には虚空蔵菩薩が納められています。厨子は虚空蔵とともに国重文。
境内社
最後に虚空蔵堂の右(東側)に鎮座する境内社。こけら葺の一間社流造。
蟇股や木鼻などに古風な意匠が見られます。
以上、法住寺でした。
(訪問日2020/08/01)
*1:上田市教育委員会による設置