今回は長野県大町市の千見神明宮(せんみ しんめいぐう)について。
千見神明宮は美麻千見の集落の中に鎮座しています。
境内も社殿もいたって標準的な規模のものですが、江戸時代末期に造られた本殿は規模こそ小さいものの、古式の神明造(しんめいづくり)の特徴を各所に見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒399-9101長野県大町市美麻千見25787(地図) |
アクセス | 信濃大町駅にてバス乗車、千見バス停にて下車、徒歩10分 長野ICから車で40分、または安曇野ICから車で1時間 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道と拝殿
境内の入口は、県道31号線と何度も交差しながら並走する旧道と思しき道に面しています。
境内は大町市美麻(元 北安曇郡)にあり、隣接する小川村(上水内郡)との境界がすぐ近くを通っていることから「境の宮」の別名もあるとのこと。
鳥居は直線的な部材で造られた神明鳥居。
玉垣で囲われた境内は石垣の上にあり、鳥居をくぐるとすぐに拝殿があります。
拝殿は鉄板葺の切妻(平入)。
向拝はなく、垂木もまばら。扁額には「神明宮」とありました。
本殿
拝殿の裏には、覆いのかかった本殿があります。覆いの柱や貫がやや邪魔に感じなくもないですが、鑑賞に支障はありません。
本殿はこけら葺きの一間社神明造(いっけんしゃ しんめいづくり)。美麻村(現 大町市)教育委員会の案内板によると、本殿は1841年(天保十二年)に六右ェ門という人物によって造営されたとのこと。
六右ェ門についてはウェブで調べても一切の情報が見つからず流派などは不明。祭神については案内板に“元亀元年(724年)勧進と伝えられ”とだけあり、具体的な名前は書かれていないものの、神明宮なので伊勢神宮と同じアマテラスでしょう。
左側面を少し離れた場所から見た図。
屋根は直線的で前後対称な形状。長方形の穴が3つ空いた千木は、屋根側面の破風板と一体化したもの。この写真では見えないですが、棟には鰹木が乗っていました。そして、本殿の室外には大棟を支える棟持柱(むなもちばしら)が立てられています。これらはいずれも神明造という様式の特徴です。
正面右側から見た図。
神明造というと仁科神明宮のような正面3間・側面2間の三間社(さんけんしゃ)が標準的ですが、この千見神明宮は正面1間・側面1間の一間社(いっけんしゃ)となっています。
また、室外に立てられている棟持柱には円柱を使うのが普通なのですが、この本殿の棟持柱は八角柱になっていました。
正面の階段の欄干(昇り高欄という)には擬宝珠がついており、神明造なので向拝(階段を覆う庇)はありませんでした。
左後方から母屋と縁側を見た図。
背面にも縁側が回されており、縁側の欄干は端に反りがついた跳高欄(はねこうらん)。
床下を観察してみると、縁側の柱はいずれも円柱なのですが、母屋の柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」という定番の手抜き工作が行われています。
母屋は御神体を安置する場所なので、本殿で最も格上の空間です。しかし母屋を構成する柱は床下が手抜きされており、格下の空間である縁側の柱はしっかりと円柱に成形されています。この辺りは少々ちぐはぐな感がなきにしもあらずです。
最後に左側面の妻壁を見上げた図。
八角形の棟持柱が棟を支えている様子がよく見えます。棟持柱が円柱ではなく八角柱である理由は、前述の母屋の柱と同様、成形の手間を惜しんだ手抜きでしょう。なお、この棟持柱はあまり強度には寄与しないようで、ほとんど装飾と言っていいです。
神明造なので屋根裏の垂木は一重。妻壁には装飾がなく、非常にシンプル。神明造の様式や作法を保ちつつも、きれいにダウンサイジングできていると思います。
1841年のものなので神社としてはかなり新しい部類で、覆い屋で雨や雪から守られているおかげもあって保存状態は良好。無垢の白木が美しいです。
以上、千見神明宮でした。
(訪問日2019/11/02)