甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【池田町】渋田見諏訪神社

今回は長野県池田町の渋田見諏訪神社(しぶたみ すわ-)について。

 

渋田見諏訪神社は池田町の南部にある住宅地の中に鎮座しています。

若干の手狭さを感じなくもない境内には、この地域にしては大きめな規模の本殿があり、各所に配置された彫刻を楽しむことができます。

 

現地情報

所在地 〒399-8602長野県北安曇郡池田町大字会染8652(地図)
アクセス 安曇追分駅から徒歩30分
安曇野ICから車で20分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道

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境内は東向きで、入口には真っ黒な両部鳥居が立っています。扁額は「諏訪神社」。

鳥居の後ろには神楽殿があるのですが、間が3メートルくらいしかなく、ちょっと狭いです。

 

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境内は鳥居・神楽殿・拝殿・本殿が一直線に並んでいます。

拝殿は切妻ですが正面側が妻入、背面側が平入で、撞木造のような構造。

 

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正面側から見た神楽殿。拝殿と向き合うようにして建っています。

鉄板葺の切妻(妻入)。正面は1間で梁間に柱がなく、側面2間、背面5間。

中央奥は一段高くなっており、このような構造の神楽殿(舞台あるいは舞屋)は中信地方でしばしば見かけます。

 

本殿

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拝殿の裏にはブロック塀に囲われた本殿があります。諏訪神社なので祭神はタケミナカタ。

本殿は銅板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)、向拝1間。

正面1間(2.9m)・側面2間(1.9m)、向拝1間(1.6m)。案内板(設置者不明)によると、1811年(文化八年)に村岡直四郎によって造営されたことが棟札よりわかっているとのこと。

棟梁の村岡直四郎については、ウェブで検索してみてもあまり情報がなく、池田町のホームページなどに“大隅流の大工であろうと言われている”と、かなり曖昧な記述があるだけでした。

 

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向拝の部分のアップ。

向拝を支える柱は、面取りされた角柱。柱の正面側には唐獅子、側面には象の木鼻が配置されています。

向拝と母屋のつなぎは、大きくカーブした海老虹梁(えびこうりょう)。その上では立体的な菊の意匠の手挟(たばさみ)。このような立体的な彫刻を籠彫(かごほり)といい、大隅流や立川流の建築でよく手挟に使われます。

母屋の前面の梁の上には、組物が置かれています。組物の真下に柱がないため、詰組と言うべきでしょうか。構造的に、前面の柱を省略した感じに見えます。

 

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右側面の妻壁。

写真下方で柱をつなぐ貫(ぬき)の上には、動物が彫られた立体的な蟇股(かえるまた)が置かれています。左側は唐獅子、右側は題材不明の獣。

虹梁は出三斗(でみつど)というタイプの組物で持出しされています。虹梁の上は、波の意匠の笈形(おいがた)が添えられた大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。

破風板には懸魚(げぎょ)が付いていますが、桁隠しはついていません。

 

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左側面。

こちら側の蟇股は、左側が波、右側が鶴。

 

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左側面の前方。

縁側の床板は壁面と平行に張られた“くれ縁”。階段の下の浜床もくれ縁です。くれ縁は切目縁よりも格下の貼りかたとされ、あまり寺社では使われません。欄干には白木の擬宝珠(ぎぼし)が乗っています。

 

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背面は蟇股などの彫刻はほぼ無く、シンプル。

こちら側は4本の円柱で構成されており、背面3間となっています。円柱は床下も手抜きなく円に成形されていました。

縁側の終端に立てられた脇障子は、両面ともに彫刻はありませんでした。

 

以上、渋田見諏訪神社でした。

(訪問日2019/11/02)