世をひねる

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲州市】金井加里神社

今回は山梨県甲州市の金井加里神社(かないかり-)について。

 

金井加里神社は甲州市の山間にある重伝建・上条集落の近くに鎮座しています。

創建は不詳で、社伝によれば室町後期からの歴史があるとのこと。現在の社殿は江戸初期に造られたもので、特に本殿は檜皮葺で「二間社入母屋」という他では類例のないめずらしい様式となっており、各所の意匠や構造も含めて非常におもしろい内容です。

 

現地情報

所在地 〒404-0025山梨県甲州市塩山下小田原1005(地図)
アクセス 勝沼ICから車で20分
駐車場 なし ※福蔵院に20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

金井加里神社までの近道

近くにある福蔵院という寺院を目印に行ったものの、そこから金井加里神社境内を探すのに手間取ったので、神社までの近道をここに記しておきます。

福蔵院本堂

こちらは福蔵院の本堂。

福蔵院の駐車場は上条集落の見学者は自由に使用でき、神社も上条集落の一部というあつかいのようなので、この駐車場を使うと良いでしょう。

 

福蔵院境内

本堂の左手にこのような道があり、ここを進んでブドウ畑のある一帯まで進むと、「上条集落見学ルート」という立札があります。それに従って進むと神社の境内に行き当たります。

 

境内

随神門と拝殿

金井加里神社随神門

境内は南向き。入口には随神門が建っています。

随神門は鉄板葺の切妻。正面3間・側面2間。柱は角柱。三間一戸です。

 

右に立っている社号標は「山梨県指定重要文化財 金井加里神社」。

 

随神門の軒裏

軒裏は二軒(ふたのき)のまばら垂木。

柱上の組物は出三斗(でみつど)で、柱間には蟇股(かえるまた)と間斗束(けんとづか)が見えます。

 

金井加里神社拝殿

拝殿は鉄板葺の入母屋。

特にこれといった意匠はありませんでした。

 

本殿

金井加里神社本殿

拝殿の裏には本殿が鎮座しています。

本殿は檜皮葺の二間社入母屋(にけんしゃ いりもや)。正面2間・側面2間、正面に千鳥破風(ちどりはふ)、向拝1間。

案内板(甲州市教育委員会)によると1668年(寛文8年)の再建。県指定文化財で、附(つけたり)として保存されている棟札には“大工竹内越前 藤原幸宗”と記されているとのこと。

祭神は、案内板によると白山権現・金山彦命・ヤマトタケル。山梨県神社庁によると大国主・スクナビコナの2柱。

 

建築様式としては平入の入母屋になります。そして正面に千鳥破風がついているため、屋根の大棟がT字となっています。このような入母屋本殿は諏訪神社(甲州市初鹿野)など例が多数あり、山梨県内ではさほど珍しくありません。

T字の大棟は箱棟で、三つ巴の門が描かれています。破風の内部には格子。

 

本殿向拝

正面の軒先を支える向拝柱は、C面取りされた角柱。江戸初期のやや古いものなので、C面の幅が広めになっています。

2つの向拝柱は虹梁(こうりょう)でつながれており、虹梁の両端には木鼻がついています。虹梁の上の中備えは、平三斗(ひらみつど)というタイプの組物。

向拝柱の柱上の組物は出三斗で、虹梁中備えの平三斗とともに軒桁を受けています。しかしよく見ると、出三斗・平三斗と軒桁のあいだは「通し肘木」という横長の部材を介しています。ここは、ふつうなら実肘木という短い部材を使う箇所です。

 

本殿母屋正面

母屋(写真左奥)の正面には、2組の扉が立てつけられています。正面の間口が2つあるので、この本殿は二間社という様式です。

神社本殿のほとんどは一間社か三間社で、二間社は全体の1割未満です。そして希少な二間社のほぼ全ては流造(ながれづくり)という切妻の様式のものであり、この本殿のように「入母屋で二間社」という例は私の知るかぎり他にありません

 

母屋の正面には木階(きざはし:角材の階段)が7段。木階には欄干(昇高欄)がついています。

縁側は壁面と平行に板を張ったくれ縁が4面にまわされており、欄干は擬宝珠付き、床下は縁束で支えられています。

 

本殿軒下

左側面から見た向拝。

向拝の軒下は垂木が三重になっており、軒先から2番目にあたる飛檐垂木(ひえんだるき)の曲線もみごと。

母屋柱は円柱で、頭貫には木鼻がつけられています。

 

母屋頭貫

母屋(左)と向拝(右)はゆるやかにカーブした海老虹梁(えびこうりょう)でつながれていますが、注目してほしいのは海老虹梁の母屋側。海老虹梁の付け根が、手前に見える木鼻の向こうに隠れてしまっている様子が見えます。

たいてい、海老虹梁の母屋側は母屋柱の軸上からのばされるものなのですが、この本殿の海老虹梁は母屋柱よりも若干内側からのばしている点が非常に独特。案内板によると下記のとおり。

複雑な屋根の形式をまとめるために、向拝の間口を本体の間口よりやや狭くし、また本体の柱間も、奥行きを間口より少し短くするなど、設計に巧妙な工夫をこらしている。作者は、当時の地方の棟梁として、第一級の技量を持っていた工匠である。

 

本殿側面

柱上の組物は出組。桁が持出しされています。

こちらの組物は前述の向拝と異なり、実肘木(さねひじき)という部材を介して桁を受けています。

 

本殿背面

正面2間ですが、背面も同様に2間。

組物の構造や木鼻は正面や側面と同じです。縁側は背面にもまわされており、背面側は脇障子でふさがれています。

軒裏は二軒の繁垂木で、入母屋なので前後左右の四方に垂木が延びています。

 

本殿屋根

最後に屋根のアップ。

2つの棟が直角でT字に交わり、箱棟がかくっと曲がっているシルエットが印象的。二間社入母屋という珍妙な様式ではありますが、屋根葺きには檜皮が使われており、背景の緑に映えます。

また、前述した海老虹梁の周辺の構造もおもしろく、全体から細部にいたるまで各所から個性があふれ出ていて、甲信の神社本殿の中でもオンリーワンの好物件と言えるのではないでしょうか。

 

以上、金井加里神社でした。

(訪問日2020/05/24)

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