甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【南砺市】善徳寺(城端別院) 前編 山門

今回は富山県南砺市の善徳寺(ぜんとくじ)について。

 

善徳寺は城端地区の市街地に鎮座する真宗大谷派の寺院です。山号は廓龍山。城端別院(じょうはなべついん)を称しています。

創建は室町時代。1471年(文明三年)、蓮如が砂子坂(金沢市)に開いた道場が前身とされます。その後、本願寺9世の実如によって善徳寺の寺号が与えられ、越中国の真宗寺院を統括する触頭に任命されました。何度かの移転を経て、城端城主の荒木大膳の要請を受け1559年(永禄二年)に現在地へ移転したようです。江戸時代は、加賀藩前田家の庇護を受けて隆盛しました。1876年以降は、真宗大谷派別院の城端別院を称しています。

現在の境内は江戸後期以降に整備されたもの。本堂、山門、太鼓楼、鐘楼の4棟が県指定の文化財、式台や庫裏などの17棟が市の文化財となっています。

 

当記事では、アクセス情報および山門について述べます。

本堂、鐘楼、太鼓楼などの伽藍については、後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒939-1863富山県南砺市城端405(地図)
アクセス 城端駅から徒歩15分
福光ICから車で5分
駐車場 境内に数台分あり、じょうはな座に多数あり(無料)
営業時間 09:00-17:00
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト 城端別院善徳寺
所要時間 20分程度

 

境内

山門

善徳寺の境内は南向き。入口は東側にあり、二重の楼門が東面しています。

門の手前の寺号標は、向かって右が「真宗大谷派」、左が「城端別院」。

訪問時(2023/05/05)は城端神明宮の祭事で山車が曳航されており、市街地中心部の善徳寺周辺は見物客や出店でにぎわっていました。

 

山門は、三間三戸、楼門、二重、入母屋、本瓦葺。左右山廊附属。

1809年(文化六年)上棟。棟梁は当地の宮大工・山村與四郎。

県指定有形文化財。

 

下層の正面中央の柱間。

柱はいずれも円柱で、上端が絞られた粽柱です。

柱間には飛貫虹梁がわたされ、両端の下面に持送りの斗栱が添えられています。中備えは大瓶束と蟇股で、中央の大瓶束は左右に木鼻を伸ばして平三斗のような構造になっています。

柱の上部には頭貫と台輪が通っています。組物は二手先で、柱間にも組物がびっしりと並べられています(詰組)。

 

向かって左の柱間。前面に壁や建具はありません。

中備えなどの意匠は、中央の柱間と同様。

 

隅の柱には、多数の木鼻がついています。

飛貫虹梁の位置には大きな木鼻がつき、その下の持送りの位置には小ぶりな拳鼻。頭貫と台輪にも木鼻がついています。いずれも禅宗様の木鼻です。

 

柱は禅宗様の礎盤の上に立てられ、下端は飾り金具でカバーされています。金具には唐獅子の彫金があります。

 

左側面(東面)。

軒先の隅の部分には、積雪対策のためか支柱が添えられています。

側面の柱間には壁板や花狭間が張られています。

門の左右には山廊(写真左の低い屋根)があり、こちらも山門の一部として県の文化財に指定されています。

 

左側面、前方の軒下。

飛貫虹梁や中備えの意匠は正面と同様ですが、こちらは飛貫虹梁の下にもうひとつ細めの梁がわたされています。

 

側面の柱間の花狭間を、内から見た図。

花狭間を仕切る貫や束にも彫刻が入っています。

 

花狭間の下の、腰壁周辺の詳細。

腰貫(写真上)の彫刻は、卍繋ぎをくずした菱組のような意匠。腰貫と束の接続部に打たれた釘隠しは、植物の葉の意匠。束(写真の縦木)にはY字型のパターンが彫られています。

底辺の横木(土台)には、青海波のパターン。

 

内部向かって右の柱間。

正面および内部は3間ありますが、中央だけでなく左右の柱間にも門扉が設けられ、三間三戸の門となっています。ただし、訪問時は中央の扉だけが解放され、左右の扉はかんぬきで閉扉されていました。

扉は桟唐戸で、羽目板や花狭間に彫刻があります。また、扉の両脇の縦木や欄間にも花の彫刻があります。

 

桟唐戸の上の欄間。

中央の欄間は、波の彫刻。

 

内部中央の扉の上の欄間。

こちらは竜の彫刻。巧拙のほどは私には判断しかねますが、木枠からはみ出すほどの力感あふれる造形です。

 

内部中央の欄間を、背面側から見た図。裏側も抜かりなく造形されています。

 

内部の梁の様子。写真右が正面側、左が背面側です。

柱の前後方向にも虹梁がわたされ、中備えに大瓶束と蟇股が置かれています。蟇股には、何らかの故事を題材にしたと思われる彫刻が入っています。

内部には折り上げ天井が張られ、それを組物が支えています。

 

門扉の桟唐戸。

上の写真は、背面側から見た図です。

 

桟唐戸の花狭間の格子部分は、イチョウの葉のようなパターンが彫られています。

花狭間の中央には、植物の葉を題材にした意匠(寺紋?)があしらわれています。

花狭間の上の細い羽目板には、錫杖のような意匠。花を図案化したと思しき彫刻です。

 

桟唐戸の下のほうの羽目板にも、花の図案の彫刻があります。

左右の正方形の羽目板にも彫刻の跡らしきものが見えますが、ひびが入ってしまっています。

門扉の下側の軸受けは藁座ではなく、礎石に穴をあけて受けています。

 

背面の軒下。こちらも軒先に支柱が添えられています。

軒下の意匠は正面とほぼ同じでした。

 

つづいて上層。上層も正面3間。

扁額は山号「廓龍山」。

ほとんど見えないですが、柱間の建具は3間いずれも桟唐戸です。

 

頭貫と台輪には禅宗様木鼻、欄干の親柱には逆蓮がついており、禅宗様の意匠が目立ちます。

組物は尾垂木三手先。尾垂木は先端が尖っており、これも禅宗様の意匠です。

 

左側面(南面)を、後方から見た図。

軒裏は下層上層ともに二軒繁垂木。下層の垂木は平行ですが、上層は放射状(扇垂木)です。これは、二層構造の禅宗様建築でよく見られる技法です。

 

入母屋破風。

奥には虹梁や大瓶束が見えます。

破風板には菊の紋があしらわれ、拝みに三花懸魚が下がっています。

鬼板にも菊の紋があり、頂部には3本の鳥衾が伸びています。

 

左右の山廊。こちらは向かって左(南側)のもの。

桁行3間・梁間2間、切妻、桟瓦葺。

柱間には火灯窓があります。

 

左の山廊を、背面側から見た図。

柱は上端が絞られた面取り角柱。柱上の組物は出三斗のようなものが使われていますが、肘木部分に繰型がついています。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みには、切懸魚とも猪目懸魚ともつかない形状の懸魚があります。

 

反対側(向かって右)の山廊については、同様の構造のため割愛。

 

山門については以上。

後編では、本堂、鐘楼、太鼓楼などについて述べます。