甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【大館市】大館八幡神社

今回は秋田県大館市の大館八幡神社(おおだて はちまん-)について。

 

大館八幡神社は大館市街の東部に鎮座しています。

創建は江戸初期。1610年に大館城代となった小場義成(佐竹西家)が、常陸国の若宮八幡宮(常陸太田市)の分霊を城の鎮守として祀ったのがはじまり。1658年(万治元年)に2代目・小場義易によって城外の現在地に社殿が遷座されています。1687年(貞享四年)には4代・佐竹義武によって若宮八幡宮本殿が造営され、現在の本殿2棟が並立する状態となりました。江戸時代は近隣の武家から崇敬されたようです。

先述のとおり、本殿2棟は江戸初期のもので、戊辰戦争の戦火を免れて現存しています。秋田県内で江戸初期にさかのぼる建築は希少であるため、国重文に指定されています。また、大館市は秋田犬の発祥地のため、狛犬が秋田犬の姿となっています。

 

現地情報

所在地 〒017-0811秋田県大館市八幡1-1-1(地図)
アクセス 東大館駅から徒歩25分、または大館駅から徒歩35分
大館北ICまたは大館南ICから車で10分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

拝殿

大館八幡神社の境内は西向き。大館城の方角を向いています。

入口には明神鳥居。

社号標には「国指定重要文化財 八幡神社 正八幡宮 若宮八幡宮 本殿二棟」。

 

拝殿の手前にある狛犬は、秋田犬をモデルにしたもの。

手足が太く力強い体形で、サイズも実際の秋田犬に準じています。

 

拝殿は、切妻、向拝1間 軒唐破風付、鉄板葺。

 

虹梁中備えは、束と蟇股。中央の蟇股は電灯の陰になっています。

唐破風の小壁には小さな束が入っています。

 

破風板の兎毛通は、波に亀の彫刻。

 

向拝柱は几帳面取り。正面と側面には木鼻。

柱上の組物は出三斗。

 

向拝柱の上では、手挟が軒裏を受けています。

海老虹梁は母屋の頭貫の位置から出て、向拝の虹梁や木鼻の位置に取り付いています。

 

向拝の下の階段。

向拝は1間ですが、階段の横幅と欄干は3間ぶんあります。

 

妻飾りは二重虹梁。下段は出三斗と蟇股、上段は笈形付き大瓶束。

破風板の拝みには鰭付きの懸魚。

 

本殿の概要

拝殿の後方には覆い屋があり、内部に収められた2棟の本殿をガラス越しに観察することができます。

手前(北側)が正八幡宮本殿で、石清水八幡宮からの勧請。奥(南側)が若宮八幡宮本殿で、鶴岡八幡宮からの勧請。

祭神は誉田別命と神功皇后。

 

2棟とも江戸初期から中期にかけてのもので、1600年代(17世紀)の建築は秋田県内では希少。また、年代がはっきりしているという点でも価値が高いです。

秋田の県北地域(鹿角・大館・能代の周辺)において最古級の建築であり、同地域の寺社建築として唯一の国指定重要文化財です。

 

正八幡宮本殿

北側の正八幡宮本殿は、一間社流造、こけら葺。

棟札より1687年(貞享四年)の造営。「八幡神社 2棟」として国指定重要文化財*1

 

向拝柱は角面取り。

柱上の組物は出三斗。安土桃山時代の作風を思わせる、派手な彩色の跡が見えます。

虹梁中備えは蟇股。七曜の紋があしらわれています。

向拝柱の外側には木鼻が設けられ、内側は斗栱で虹梁を持ち送りしています。

 

海老虹梁は母屋の頭貫の位置から出て、向拝の組物の上に降りています。母屋側は、下部を斗栱で持ち送りしています。

母屋の頭貫には木鼻。組物は連三斗で、木鼻で持ち送りされています。

 

頭貫には菱形の文様が描かれていますが、退色が目立ちます。

中備えは蟇股。植物を題材にしたと思われる彫刻が入っています。

妻飾りは大きな板蟇股。中央の丸い部分には、鳳凰の彫刻。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

縁側は切目縁で、背面を除いた3面にまわされています。背面側には脇障子を立てています。

母屋柱の床下は、八角柱になっていました。

 

若宮八幡宮本殿

南側の若宮八幡宮本殿は、一間社流造、こけら葺。

正八幡宮本殿と同様に、1687年の造営(棟札より)。「八幡神社 2棟」として国重文。

 

向拝中備えを摂りたかったのですが、南側でガラスの映り込みがひどかったため断念。

向拝柱は角面取り。柱上は出三斗。虹梁木鼻は拳鼻。

海老虹梁は正八幡宮本殿と同様、母屋頭貫から出ていて、下部に斗栱がついています。

向拝の桁隠しには懸魚がなく、小口が露出しています。

 

正面には角材の階段が5段。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

 

退色していますが、長押には菱形の文様が描かれています。頭貫には菱形の文様。

母屋柱は円柱で、柱上は連三斗。頭貫の上の中備えは蟇股。

 

妻飾りは蟇股。

円の中の彫刻は柏にミミズク。めずらしい題材です。

 

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

懸魚には扇の紋が描かれています。これは佐竹氏の家紋。

 

若宮八幡宮本殿も、母屋柱の床下が八角柱に成形されていました。

 

以上、大館八幡神社でした。

(訪問日2022/04/10)

*1:附 棟札13枚。