甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【岐阜市】伊奈波神社と善光寺

今回は岐阜県岐阜市の伊奈波神社と善光寺について。

 

伊奈波神社

所在地:〒500-8043岐阜県岐阜市伊奈波通1-1(地図)

 

伊奈波神社(いなば-)は岐阜市街の金華山(稲葉山)のふもとに鎮座しています。

創建は社伝によれば12代・景行天皇の時代。平安期の『延喜式』に記載された「物部神社」の後継を主張する論者のひとつです。1539年に斎藤道三が稲葉山城(岐阜城)を整備したとき、当社を城の鎮守として現在地に遷座したようです。その後は岐阜市周辺の総社として信仰されています。

現在の境内社殿は近現代に整備されたもののようで文化財指定などもありませんが、楼門や拝殿など多数の社殿が並び立っています。

 

楼門

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伊奈波神社の境内は西向き。めずらしい方角を向いています。

入口の鳥居は石造の明神鳥居。扁額なし。

 

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二の鳥居の先には神橋と楼門。

神橋は通行できないため左右を迂回して進みます。

 

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楼門は三間一戸、楼門、入母屋、銅板葺。

 

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下層。柱はいずれも円柱。

柱間は3つあり、うち1つが通路となっています。よって三間一戸。

左右の柱間は随神像ではなく奉納品の酒樽が置かれています。

 

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中央の柱間。柱はよく見ると上端がわずかに絞られ、粽になっています。

中備えは蟇股。はらわたの彫刻は、植物の葉をモチーフにしたと思われる抽象的な意匠。蟇股の股の部分(左右の端)にも葉の意匠がついています。

柱上の組物は三手先。桁を介して上層の縁側を受けています。

 

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木鼻は菊の花のような意匠。

 

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上層。

柱は円柱。中備えは中央が蟇股、左右が間斗束。

見づらいですが中央の柱間は板戸になっています。

組物は尾垂木三手先。持ち出された桁の下には軒支輪と格天井。

軒裏は二軒繁垂木。

 

神門と回廊

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楼門の先には神門と回廊。

 

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神門は一間一戸、四脚門、切妻、銅板葺。

 

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前後の控柱は角柱で、几帳面取りされています。

木鼻は正面側面ともに象鼻。雲の意匠が彫られています。

柱上の組物は出三斗。

 

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内部は上下2つの梁がわたされています。下の中備えは竜ですが、彫りが細かすぎて題材が解りにくいです。上は笈形付き大瓶束で、笈形に精巧な彫刻が施されています。

 

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門扉は桟唐戸。菊花の紋がついています。

主柱と控柱のあいだには花狭間。

 

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妻飾りにも笈形付き大瓶束があります。

破風板の金具にも菊花の紋。拝みから下がる懸魚は三花懸魚。桁隠しは雲の意匠。

 

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神門の左右には回廊があります。こちらは向かって右手のもの。

2つの切妻を組み合わせた形式で、銅板葺。

 

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柱は円柱。柱上の組物は舟肘木。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みから下がる懸魚は、H字型の独特な形状。ユニークで個性的なおもしろい意匠だと思います。

 

拝殿

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神門の脇の通路から先へ進むと拝殿があります。

拝殿は桁行5間・梁間4間、入母屋、銅板葺。

神社建築にはめずらしく、土間の床となっています。

 

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柱はいずれも円柱。上端が絞られています。

虹梁中備えは蟇股で、はらわたに彫刻があります。

組物は出組で、持ち出された桁の下には軒支輪。

 

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木鼻。

波頭にも植物の芽にも鳥の頭にも見え、よくわからない意匠。

 

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正面5間に対し、側面は4間。

柱間は板戸と蔀が使われています。

 

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拝殿(左端の軒)の先には神楽殿(中央左)と本殿(中央右)があります。

本殿は入母屋、銅板葺。

祭神は五十瓊敷入彦命(いにしきいりひこのみこと)。当地の開拓神のようです。

 

以上、伊奈波神社でした。

 

善光寺

所在地:〒500-8043岐阜県岐阜市伊奈波通1-8(地図)

 

善光寺(ぜんこうじ)は伊奈波神社の門前に鎮座している真言宗醍醐派の寺院です。山号は愛護山。別名は善光寺安乗院、または岐阜善光寺、伊奈波善光寺

創建は安土桃山時代。善光寺(長野市)の善光寺如来が織田信長によって当地に移されたことに由来します。その後善光寺如来は各地を転々としますが、織田秀信(信長の孫、通称は三法師)が当地に善光寺如来の分身を祀った堂を造りました。これが当寺の始まりのようです。

現在の伽藍は大正期に再建されたものです。

 

本堂

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善光寺の境内は西向き。

伊奈波神社の参道のすぐ脇にあり、この堂の右奥を進むとすぐ先に伊奈波神社の鳥居があります。

 

本堂は入母屋(妻入)、向拝1間・軒唐破風付。桟瓦葺。

1912年(大正元年)再建。

様式が妻入のため、山型のシルエット。本家の善光寺をなんとなく意識しているように感じます。

 

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向拝。

中備えの彫刻は竜。その上には笈形付き大瓶束。

唐破風の破風板拝みに下がる兎毛通は、鳳凰。

 

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向拝柱は几帳面取り角柱。上端が絞られています。

組物は出三斗と出三斗をベースに、二段目を長い肘木で連結したもの。

木鼻は側面にだけついていて、獏が彫られています。

 

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軒下。左が向拝側、右が母屋側。

向拝と母屋をつなぐ懸架材はありません。

 

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母屋柱は円柱。上端が絞られ粽になっています。

頭貫木鼻は波の意匠で、風変わりな形状。

台輪がまわされ、柱上の組物は出組。

軒裏は二軒繁垂木。

 

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背面の破風。

破風板の拝みには三花懸魚。入母屋破風の内部は二重虹梁になっていて、蟇股や軒支輪が見えます。

 

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後方、伊奈波神社の方角から見た図。

本家の善光寺は撞木造という様式なので背面が妻ではなく平になっているのですが、こちらの善光寺はふつうの入母屋のため背面も妻になっています。全国に多数ある善光寺リバイバル系の仏堂の中では、あまり本家に似ていない(似せていない)部類だと思います。

 

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向かって右手前には手水舎。

切妻、本瓦葺。

 

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各所の彫刻。

題材は波に千鳥、鳳凰。

 

以上、善光寺でした。

(訪問日2021/6/26)