甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【岐阜市】岐阜公園と正法寺(岐阜大仏)

今回は岐阜県岐阜市の岐阜公園と正法寺について。

 

岐阜公園

日中友好庭園

所在地:〒500-8003岐阜県岐阜市大宮町1-46(地図)

f:id:hineriman:20210723142230j:plain

岐阜公園は非常に広くさまざまな施設がありますが、北の端は日中友好庭園なるエリアになっています。岐阜市と中国の杭州市の友好都市提携10周年を記念して1989年(平成元年)に造られたもの。

こちらは杭州門。杭州市の西湖に浮かぶ三潭印月という島にある門をモデルにしています。

様式は入母屋、本瓦葺。

 

f:id:hineriman:20210723142414j:plain

軒裏の様子。

垂木を受ける桁を丸桁(がぎょう)といいますが、この丸桁は本当に丸い形状をしています。

軒裏は二軒扇垂木で、地垂木(桁に近いほう)は円柱状の材が、飛檐垂木(軒先に近いほう)は角柱状の材が使われています。これは「地円飛角」といい、日本では奈良時代あたりの寺院建築で見られる意匠。言い換えると、中国大陸から寺院建築が伝来してまだあまり時が経っていないころの意匠です。

中国の建築では、近現代になっても地円飛角が使われているのでしょうか?

 

f:id:hineriman:20210723142435j:plain

門の先にある池。こちらは西湖をイメージして造られたものらしいです。

周辺に植えられている樹木が桜なので、中華風の趣はいまひとつだと思います。

 

f:id:hineriman:20210723142516j:plain

公衆トイレも中華風。しっかりと本瓦が使われています。

ちなみに内装はふつうのトイレでした。

 

岐阜公園三重塔

所在地:〒500-0000岐阜県岐阜市槻谷13-2(地図)

f:id:hineriman:20210723142630j:plain

岐阜公園三重塔は、織田信長居館跡と金華山ロープウェーの山麓駅の裏手にあります。

様式は三間三重塔婆、桟瓦葺。全高25.8メートル。

近代のものですが木造で、塔の中心を通る心柱は鎖で吊り下げて礎石から浮かせているらしく、懸垂式というめずらしい方式が採用されているとのこと。

1916年建立。設計者は伊東忠太で、大正天皇の即位記念として造られたもの。総工費5,500円。県の登録有形文化財。

 

f:id:hineriman:20210723142650j:plain

初重。

柱は円柱。柱間には桟唐戸や連子窓が見えます。

頭貫木鼻は使われておらず、古風な純和様を意識した意匠。

組物は尾垂木三手先。持ち出された桁の下には軒支輪。中備えは間斗束。

 

f:id:hineriman:20210723142706j:plain

二重および三重。山際の斜面に立地しているのですが裏手のほうは立入禁止になっていて、上層の母屋がほとんど観察できません。

組物の意匠は初重と同じのようです。軒裏はいずれも平行の二軒繁垂木。

 

以上、岐阜公園三重塔でした。

 

正法寺(岐阜大仏)

所在地:〒500-8018岐阜県岐阜市大仏町8(地図)

 

正法寺(しょうほうじ)は岐阜公園の南西に面した市街地に鎮座している黄檗宗の寺院です。山号は金鳳山。

創建は1683年。黄檗宗本山の萬福寺(京都府宇治市)の末寺とのこと。

通称は岐阜大仏(ぎふだいぶつ)で、日本三大大仏のひとつとされる岐阜大仏が県重要文化財、大仏を安置する大仏殿が市重要文化財となっています。

 

大仏殿

f:id:hineriman:20210723142940j:plain

正法寺の境内は西向き。めずらしい方角を向いていて、幹線道路に背を向けるようにして建っています。

大仏殿の様式は三重、寄棟、一重向拝1間、二重向唐破風付、桟瓦葺といったところでしょうか。寺院建築としてかなり型破りで奇怪な形式なので、あまり自信がありません...

大仏の造像と並行して造られたとのこと(パンフレットより)。江戸後期のものでしょう。市重要文化財。

 

f:id:hineriman:20210723143003j:plain

一重の向拝。この左右に出入口と拝観受付があります。

向拝柱は几帳面取り。木鼻は側面に象鼻。柱上の組物は連三斗で、斗と肘木は紅白に塗り分けられています。

虹梁はわずかにカーブして中央が高くなっています。中備えは蟇股。

 

f:id:hineriman:20210723143019j:plain

向拝の軒下。

向拝柱と母屋はまっすぐな梁でつながれています。梁の中央には角柱の束。

 

f:id:hineriman:20210723143033j:plain

母屋柱は角柱。

母屋から腕木を伸ばして小天井を張り、桁下に柱を立てることで軒を支えています。

 

f:id:hineriman:20210723143050j:plain

大仏殿の裏手を通る幹線道路から見た背面と左側面。

一重の屋根が波打っており、老朽化が目立ちます。台風に耐えきれるのか心配になってしまう外観。

 

以下、堂内は有料(200円)の区画となります

堂内はフラッシュ禁止とのことで、撮影可のようです。

f:id:hineriman:20210723143120j:plain

岐阜大仏は釈迦如来坐像で、高さ13.63メートル。

1832年(天保3年)完成。災害や飢饉の犠牲者を追悼するため1787年に発願され、完成までに40年以上の歳月を要したとのこと。

内部はイチョウ材の柱を中心に骨格が組まれ、竹材を編んで外形をつくり、その上に経文を書いた和紙を張り付けて漆塗りと金箔をかぶせています。内部が空洞で竹かごのようになっていることから籠大仏とも呼ばれ、この名称で県重要文化財に指定されています。

 

f:id:hineriman:20210723143207j:plain

内部の天井。

大仏の大きさに対して堂の大きさがぎりぎりで、やや窮屈な印象。

この写真からだと解りづらいですが、天井が大仏の後光をよけるように曲がっています。

 

f:id:hineriman:20210723143229j:plain

大仏の周りにはこのような回廊(渡り廊下)が巡らされていますが、立ち入りはできません。

回廊に入れればいろいろな角度から大仏を眺められておもしろそうですが、強度や安全確保の都合で一般公開はむずかしいのでしょう。

 

f:id:hineriman:20210723143309j:plain

大仏向かって左側、一重の隅。

2つの火打梁のあいだに丸太の材をわたし、その下につっかい棒のような柱を立てています。

 

堂内の構造を観察していると、通し柱のようなものが見当たりません。三重もある高層の仏堂だということを思うと、木造建築として少々無茶な造りをしている(あくまでも素人の所感です)と思います...

 

以上、正法寺(岐阜大仏)でした。

(訪問日2021/06/26)