今回は山形県鶴岡市の水上八幡神社(みずかみはちまん-)について。
水上八幡神社は鶴岡市郊外の集落に鎮座しています。
創建は不明。往古より当地にあった水上宮が前身で、源義家によって石清水から八幡神が合祀されたようです。境内はそこまで大きなものではないですが、茅葺の本殿は室町中期のもので、当時の様式をよくとどめていることから国重文に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒999-7542山形県鶴岡市水沢字楯ノ下1(地図) |
アクセス | 羽前水沢駅から徒歩30分 鶴岡西ICから車で5分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
水上八幡神社の境内は東向き。道路のカーブに面したところに入口があります。
鳥居は石造の明神鳥居。柱と台輪が八角形。扁額は「八幡宮」。
参道の右手には手水舎。鉄板葺の切妻。
新しいものに見えますが、手水舎にしては手が込んだ造り。
境内の案内板の年表には社務所の改築や防火水槽の設置まで詳細に書かれているのですが、手水舎については言及されていませんでした。
拝殿
拝殿は桟瓦葺の入母屋(平入)。向拝1間。
1850年(嘉永3年)の再建。1951年に屋根を桟瓦葺に改修。
向拝の軒下。
向拝柱は几帳面取りの角柱。虹梁(こうりょう)の木鼻には、こちらを振り向く唐獅子が彫刻されています。
柱上の組物は皿付きの大斗(だいと)をベースにした出三斗(でみつど)。
扁額は「正八幡大神」。
拝殿の前の狛犬。造形、ポーズともに独特。
拝殿の右手には境内社。
こちら側から本殿へ進むことができます。
本殿
拝殿の裏手から階段をのぼった先には本殿が鎮座しています。
本殿は茅葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。正面3間・側面2間、向拝3間。
案内板(上郷地区自治振興会など)によると“建築様式からみては室町中期(1400年頃)と推定されている”とのこと。
祭神は淤加美神、溝くい姫神(玉依姫?)、事代主、そして誉田別命などの八幡神。
大棟は箱棟になっており、八幡宮ではあまり見かけない三つ葉のような紋が描かれています。
屋根は茅で葺かれており、神社本殿で茅葺というのはちょっとめずらしいです。
正面の軒先を支える向拝柱は、唐戸面取り(几帳面の角を丸めたもの)の角柱。
向拝柱から写真左に突き出る木鼻は象鼻。
案内板によると木鼻は江戸期、唐戸面取りは桃山期以降の工作とのこと。
柱上の組物は出三斗と連三斗(つれみつど)を組み合わせたタイプで、象鼻の上にのった斗が連三斗の肘木を受けています。
写真右上の蟇股(かえるまた)の題材は桐唐草。反対側も同様です。案内板いわく、透かし彫りの技法は鎌倉期の系統を引いているらしいです。
向拝の軒先。左端に見えるのは後補のつっかえ棒。
軒裏の垂木は二重(正面側は三重)で、繁垂木。角は面取りされています。
特徴的なのは飛檐垂木(ひえんだるき、写真上方の垂木のこと)で、先端に行くにつれて細くなっています。この技法から、京都方面の工人が造ったのではないかと推測されているとのこと(案内板より)。
正面には角材の階段が8段。
階段の下には浜床が二重に設けられています。
右側面から見た図。
向拝柱(左)と母屋(右)をつなぐ海老虹梁はあまりカーブの強くないなだらかな形状。母屋の頭貫の高さから、向拝の組物の位置に降りています。
母屋の正面には3組の扉が立てつけられています。
扉の上部には蟇股が配置されており、写真ではよく見えないですが中央は牡丹、左右は笹竜胆が彫刻されているようです。
縁側は正面と左右の計3面にまわされています。壁面と直交に板を張った切目縁(きれめえん)で、欄干は跳高欄(はねこうらん)。背面をふさぐ脇障子に彫刻の類はありません。
妻壁の飾りはシンプルな豕扠首(いのこさす)。
破風板には拝みと桁隠しの懸魚(げぎょ)が下がっています。
破風板と地垂木が強く反った造形をしており、この点も室町期らしい作風だと思います。
背面。こちらも柱間は3つ。
組物や柱間などには、とくに目立った意匠はありません。
母屋柱は床下も円柱に成形されていますが、もしかしたら板でふさがれて見えない内部は横着して角柱になっているかもしれません。
以上、水上八幡神社でした。
(訪問日2020/08/12)