甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【小千谷市】魚沼神社

今回は新潟県小千谷市の魚沼神社(うおぬま-)について。

 

魚沼神社は小千谷市の住宅地に鎮座しています。

創建は崇神天皇(1世紀ごろ)の時代とされ、平安期の『延喜式』に記載された「魚沼神社」にあたるとされる式内論社です。境内には門や本殿があるほか、神宮寺別当の遺構である室町期の阿弥陀堂が重要文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒947-0031新潟県小千谷市土川2-12-22(地図)
アクセス 小千谷駅から徒歩50分
小千谷ICから車で5分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道

魚沼神社入口

魚沼神社の境内入口は北向き。

鳥居の先で参道が右に折れるので、後述の随神門や拝殿・本殿は東向きです。

鳥居は明神鳥居。前後の稚児柱が八角になったもの。扁額は「魚沼神社」。

 

魚沼神社手水舎

手水舎は鉄板葺の切妻。

紙垂と縄が掛けられてはいるものの、水が出ておらず。

 

随神門

魚沼神社随神門

参道を進むと随神門があります。

鉄板葺の切妻で、正面3間・側面1間。柱は円柱。三間一戸。

八脚門でも薬医門でもない、なんとも言えない造りの門。中央だけ棟が高くなっているのが特徴的。

 

随神門の軒下

軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。

柱から突き出る木鼻は、頭貫だけでなく台輪にもつけられています。

 

随神門側面

左側面。

妻飾りはシンプルな大瓶束(たいへいづか)。

こちら側は頭貫の木鼻が欠損していました。

 

随神門背面

背面。

壁板は縦方向に張られています。

こちら側も一部の木鼻が欠損。

 

阿弥陀堂

魚沼神社阿弥陀堂

門をくぐると参道の左手に阿弥陀堂が鎮座しています。

阿弥陀堂は茅葺の宝形。正面3間・側面3間。柱は円柱。

案内板(小千谷市教育委員会)によると“実肘木(さねひじき)に永禄六年乙丑(1563)の文字が確認されている”とのこと。室町後期あたりの造営のようです。国指定重要文化財。

内陣には阿弥陀如来と大日如来が安置されているとのこと。

 

阿弥陀堂正面

母屋の正面。

中央の扉は桟唐戸(さんからど)。そのほかの柱間は、壁板が横方向に張られています。

扉の上には長押(なげし)が打たれ、その上も板が張られているだけ。

 

阿弥陀堂軒下

阿弥陀堂を構成する円柱は、上端が少しすぼまった形状をしています。これは禅宗様の意匠。

柱上の組物は出三斗(でみつど)と平三斗(ひらみつど)。木鼻は、頭貫だけでなく台輪にも木鼻が付けられた禅宗様のもの。

軒裏は一重のまばら垂木。軒があまり深く出ていないのは、積雪対策のようです。

 

阿弥陀堂側面

左側面。

縁側は正面だけに設けられています。

 

阿弥陀堂背面軒下

阿弥陀堂背面床下

背面も、側面と同様の意匠。

柱の床下は、八角柱になっていました。「床上は円柱だが床下は八角柱」という工作は室町期に出現します。

 

阿弥陀堂の組物と木鼻

木鼻と組物(斗栱)。

案内板によると“斗栱その他絵様繰形に室町時代末期の特色をあらわしており”、“鎬(しのぎ)つき拳鼻・象型の頭貫鼻・梁や肘木の丁寧な絵様は注目に値する”らしいです。

個人的な感想になりますが、特筆するほど秀逸なようには見えません...

 

拝殿と本殿

魚沼神社拝殿

境内の中央には拝殿と本殿があります。両者ともさほど凝ったところのない造り。

拝殿は銅板葺の入母屋(妻入)で、向唐破風(むこう からはふ)の向拝1間。

 

拝殿向拝

向拝の向唐破風の軒下。

向拝柱はC面取りされた角柱。柱上の組物は舟肘木。虹梁の上には蟇股(かえるまた)。蟇股の上では大瓶束が棟を受けています。

 

向拝内部

向唐破風の内部は、格天井が張られています。

向拝を向唐破風にして内部に格天井を張る造りは、甲信ではまったくと言っていいほど見ないですが、新潟県ではよく見かけます。この地域の寺社建築の特色なのでしょうか。

母屋の扉は桟唐戸で、その上の扁額は「彌彦大明神」。この神社は江戸期まで上弥彦大明神と呼ばれていた歴史があるようです。

 

拝殿軒下

拝殿の母屋と向唐破風の軒の収まり。

ふつうの向拝は母屋の屋根の軒先を延長させて庇にするものですが、この拝殿は母屋の壁面のやや低い位置から向唐破風を伸ばしています。

 

魚沼神社本殿

拝殿の裏には、板の囲いが設けられた本殿があります。

本殿は銅板葺の流造。桁行・梁間がよくわからないので、一間社か三間社かの判断もできません。

造営年代は不明ですが、あまり古いものには見えません。明治期以降でしょうか。

祭神は弥彦神社(弥彦村)と同じで天香山命(アメノカグヤマノミコト)。

 

囲いのせいでほとんど見えないうえ、屋根のバランスもあまり良いとは思えません。とはいえ、懸魚や桁隠しの造形は悪くないと思います。

 

本殿妻壁

妻壁の意匠。

妻虹梁は3重になっており、平三斗や蟇股、笈形(おいがた)付きの大瓶束が見えます。

ほか、撮影しようにも壁に阻まれてまともな写真が撮れなかったので、本殿については以上。

 

魚沼神社本殿

拝殿と本殿の右(北面)にあった切株。

切株でさえこれだけの大きさなので、伐られる前は相当の大木だったのでしょう。

 

魚沼神社阿弥陀堂

最後に、拝殿の南側から見た阿弥陀堂。

国重文の阿弥陀堂は非常に質素な造りのうえ、拝殿・本殿はあまり見どころがあるとは言い難いです。やや玄人向けな内容かもしれないですが、貴重な室町期の建築が見られたので来て良かったと思えました。

 

以上、魚沼神社でした。

(訪問日2020/05/01)