甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【小海町】諏訪神社(東馬流)と馬流駅

今回は長野県小海町東馬流(ひがしまながし)の諏訪神社(すわ-)馬流駅などについて。

 

諏訪神社(東馬流)

所在地:〒384-1101長野県南佐久郡小海町東馬流(地図)

諏訪神社の鳥居

諏訪神社の境内は西向き。

入口には石製の両部鳥居が立っており、扁額は「諏訪神社」。

鳥居の先には本殿とその覆い屋が鎮座しています。拝殿はありません。

 

諏訪神社本殿

本殿はこけら葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。

造営年代は不明ですが、彫刻の内容からして江戸後期か明治期以降と見てまちがいないでしょう。

祭神は諏訪神社なのでタケミナカタと思われます。

 

2本の向拝柱をつなぐ虹梁(こうりょう)は、真ん中あたりが高くなった形状。中央には組物が配置されて桁を受けています。これは佐久地域の神社本殿でよく見る造りです。

 

諏訪神社本殿の海老虹梁

向拝柱と母屋をつなぐ海老虹梁(えびこうりょう)は、竜が彫刻されています。これは明らかに江戸後期の作風。

同町内の諏訪神社(千代里宮上)の本殿もこのような意匠で作風がよく似ていますが、関連性は不明。

 

向拝柱は角柱で、木鼻は唐獅子と象。柱上には組物が置かれ、雲状に彫刻された手挟(たばさみ)を介して垂木を受けています。

母屋柱は円柱で、頭貫の木鼻には唐獅子。柱上には尾垂木の突き出た組物が置かれ、梁を持出ししています。

 

諏訪神社本殿左側面

左側面の壁面。

壁には彫刻がはめ込まれており、こちら側の題材は「海に舞う鶴と桜」。反対側は「波間に泳ぐ亀と松」でした。

縁側に立てられた脇障子には、雉(キジ)と思しき鳥が彫刻されていました。

 

縁側は正面と左右の計3面にまわされていて、おそらくくれ縁(壁面と平行に板を張った縁側のこと)。欄干は擬宝珠付きですが、水平材の一部が欠損しています。

とはいえ、覆い屋があるおかげで屋根と彫刻は良好な状態で保存されています。

 

諏訪神社本殿の妻壁

妻壁は非常に凝った意匠が見られます。

組物で持出しされた梁の上には鶴の彫刻。その両脇には出三斗(でみつど)の組物。

出三斗の上にも梁が渡されていて、その上では雲状の笈形(おいがた)がついた大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。

 

諏訪神社本殿背面の軒下

諏訪神社本殿背面の床下

背面側にも欄間や木鼻、脇障子に彫刻があります。

母屋を構成する柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」という定番の手抜き工作。

縁側の床下は、拳鼻のついた腰組と束で支えられています。

 

秩父事件戦死者の墓

諏訪神社の境内のすぐ隣には「秩父事件戦死者の墓」と秩父事件についての案内板があります。

秩父事件戦死者の墓碑

秩父事件は1884年(明治十七年)に埼玉県秩父を中心に起きた暴動です。

政府の経済政策によって生糸の価格が暴落したため、秩父の困窮した農民が借金の帳消しや減税を目的に「困民党」を結成し武装蜂起。秩父では警察によって鎮圧されたものの、残党が十国峠を越えて信州に入って打ちこわしを行い、佐久郡の農民がこれに加わりました。この時点で400人ほどの軍勢だったようですが、馬流駅近辺で警官隊の攻撃を受けて潰走。

この攻撃で13人が犠牲になり、当地の農民も流れ弾を受けて亡くなったようです。遺体は集落の住人によって諏訪神社の境内に埋葬されました。

 

この墓碑は秩父事件の首謀者の孫らによって、犠牲者の供養のため1933年に立てられたもの。

案内板によると事件後しばらくは“「騒動」「暴徒」として恐れられて省みる者もなかった”ようですが、事件から100年以上経った現在では、圧政に立ち向かった民衆として再評価されつつあるとのこと。

 

小海線 馬流駅

表題の諏訪神社の最寄り駅は、小海線の馬流駅(まながし-)になります。

小海線といえば長野県・山梨県を代表するローカル線の1つ。全線が電化されていないため気動車が使われていたり、JR路線の中でもっとも標高の高い場所を走ったりすることで知られています。

馬流駅入口

そしてこちらが馬流駅の入口。いちおう断っておきますが、裏口でもなければ民家の通路でもありません

塀に貼られた看板には「この先はホームのため行き止まり」「自動車がUターンする場所はありません」「車両通行止」という警告。

 

この先に駅があるとはとても思えない路地を数メートルほど進むと、果たして馬流駅のホームが現れました。

ちなみに写真左に移っている建物は駅舎ではなく民家です。

 

ホームの反対側、諏訪神社の近辺から見た馬流駅全景。非電化のため架線なし。

住宅地と畑のあいだにホームと線路だけ作ったという感じ。単線のためホームは1面だけで、駅を利用するには上述の路地から入るしかありません。

長野県に数多くあるローカル線の駅の中でも、これほど地域に密着(物理的に)した駅がほかにあるでしょうか...?

 

以上、小海町東馬流の小ネタ集でした。

(訪問日2020/02/23)