甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【長和町】松尾神社

今回は長野県長和町の松尾神社(まつお-)について。

 

松尾神社は旧中山道・笠取峠の東側の集落に鎮座しています。

本殿は江戸末期に立川流の宮大工によって造られた三間社で、この近辺の神社の中では大規模な部類に入ります。ほか、境内社も多数あり、社地は決して広くないものの見どころの多い境内となっています。

 

現地情報

所在地 〒386-0602長野県小県郡長和町長久保791(地図)
アクセス 上田菅平ICまたは東部湯の丸ICから車で40分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道と鳥居

松尾神社の入口鳥居

境内入口には両部鳥居が立っています。この鳥居は柱が赤い鉄板で補強されており、前後に立っている稚児柱(ちごばしら)には石材が使われています。

変わった造りですが、同町内の諏訪神社(古町) の境内社の鳥居も同様の造りをしていました。

扁額は「松尾神社」。鳥居は西向きに立っており、朝の参拝だったため太陽がまぶしく感じました。なお、後述の拝殿や本殿は南向きです。

 

余談になりますが、たいていの寺社は南向きか東向きにつくられています。とくに東向きの寺社の場合は、夕方に参拝すると西日に向き合うことになり、まぶしくて写真が撮りにくいです。

 

拝殿

松尾神社の拝殿

鳥居をくぐって参道を進むと、南向きの拝殿があります。

拝殿は鉄板葺の入母屋、向拝1間。垂れ幕の紋は葵。

案内板*1の解説は下記のとおり。

拝殿は文政十年(1827)佐久郡茂田井村の別府平左衛門秀信の建築で入母屋造りの向拝付です。虹梁(こうりょう)が低い位置にあり、古式の建築様式を意識した造作となっています。

 

松尾神社拝殿の向拝

向拝の軒下。木鼻には唐獅子の彫刻が使われています。

案内板によると虹梁(2つの唐獅子のあいだに渡されている梁のこと)が低いとのことですが、特筆するほど低くはない気がします...

 

境内社

順番で行くと次は本殿ですが、そのまえに境内社を。

松尾神社の境内社と丸石神

拝殿の右手にある末社。

別段めずらしいものはないですが、写真右端に写り込んでいるのは甲州名物(?)のはずの丸石神。信州では諏訪地域でたまに見かけますが、東信地方では初めて見ました。

 

松尾神社境内社の靖国神社

こちらは靖国神社。戦没者を祀ったものでしょう。

屋根には千木と鰹木がのっていて神明造(しんめいづくり)っぽい外観ですが、正面に向拝柱がついた妙な造りになっています。ふつう、神明造に向拝はありません。

しかも石製で、屋根にはコケがびっしり。

 

松尾神社境内社、山神社の鳥居

拝殿の左手には、境内社の両部鳥居が立っています。

扁額の字は「山神社」。

 

松尾神社境内社、山神社の本殿

山神社は鉄板葺の一間社神明造(いっけんしゃ しんめいづくり)。

先ほどの靖国神社とちがって、正面の軒先を支える向拝柱がありません。

室外に立てられた柱が棟を受けており、破風(屋根の側面)からは鞭懸(むちかけ)という4本の棒が出ています。

 

本殿

松尾神社本殿の遠景

本殿は拝殿よりも高い場所に建っており、境内社の山神社の本殿の前を横切って進むと本殿を間近で鑑賞できます

 

松尾神社本殿の軒下

本殿は銅板葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)で、正面3間・側面1間、向拝3間。

案内板の解説は以下のとおり。

本殿は諏訪の宮大工、三代立川和四郎富重の建築で、万延元年(1860)に再々建されたもので総欅三社の高床造り三間一面の流造りです。欄間には龍が巻まき(原文ママ)おこす波に亀が泳ぎ、鶴が舞い遊んでいる津堅や貫の木鼻には象の鼻など見事な彫刻が施されています。

案内板によれば祭神は大山咋命(おおやまくいのみこと)とのこと。しかし本殿の正面には扉が3組あり、3柱の神が祀られていると考えるほうが自然です。あとの2柱については不明。

 

松尾神社本殿の向拝

向拝の軒下。

写真中央の向拝柱は角柱ですが、左奥の母屋の柱は円柱

角柱と円柱は湾曲した海老虹梁(えびこうりょう)でつながれており、海老虹梁の上で屋根裏の垂木を受けている手挟(たばさみ)は立体的な籠彫(かごほり)になっています。

 

向拝の角柱は几帳面取りで、木鼻には唐獅子や象の彫刻が配置されています。

この木鼻の題材(モチーフ)や造形は、立川流らしい作風です。

 

扉の上の欄間にも彫刻がありましたが、写真では暗くてよく見えないので割愛。

 

松尾神社本殿の側面

にぎやかだった向拝から一変、側面は目立つ装飾が少なく、江戸後期のものとは思えないほどシンプル

母屋の円柱の上には組物で持出しされた梁がありますが、梁の上の妻壁には束(つか)もなく非常にさみしいです。この妻壁の部分だけ木材の色がちがっていますが、これは修復の跡でしょうか...?

 

松尾神社本殿の背面

最後に背面。正面の柱間は3間ありましたが、こちらも3間。

母屋の柱をよく見ると、床下は八角柱になっています。これは江戸期の寺社建築では定番といえる手抜き工作

側面と同様、これといった装飾はなく、シンプルなだけに木目の美しさが際立っています。全体的にこの本殿は木材の保存状態が良いように見えますが、それだけに前述の妻壁がどうしてあんな風になったのか謎です。

 

以上、松尾神社でした。

(訪問日2019/12/28)

*1:長和町教育委員会による設置