甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【岡谷市】洩矢神社

今回は長野県岡谷市の洩矢神社(もりや-)について。

 

洩矢神社は天竜川南岸の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝では記紀の記述と異なる伝承が残っており、タケミナカタが諏訪に入る際に当地の産土神の洩矢神を屈服させたようで、古代から祭祀が行われていたらしいです。江戸時代には諏訪高島藩の崇敬を受けています。

現在の境内は近現代のものと思われますが、本殿は江戸時代に諏訪高島藩によって奉納されたものという伝承もあります。

 

現地情報

所在地 〒394-0045長野県岡谷市川岸東1-12(地図)
アクセス 岡谷駅から徒歩20分
岡谷ICから車で15分
駐車場 3台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト 洩矢神社公式HP
所要時間 10分程度

 

境内

手水舎

洩矢神社の境内は北向き。めずらしい方角を向いていますが、後述する藤島神社と向かい合っているらしいです。

境内入口は住宅地の生活道路に面しています。

入口には石造明神鳥居が立っています。右の社号標は「洩矢神社」。

 

参道左手にある手水舎は、切妻、銅板葺。

 

手水舎の柱は面取り角柱。虹梁の位置に象鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。肘木に繰型がつき、両端が尖った形状になっています。

 

虹梁中備えは蟇股。

内部には格天井が張られています。

 

妻面は無地の妻虹梁がわたされ、笈形付き大瓶束が棟木を受けています。

破風板の拝みには蕪懸魚。懸魚の鰭は猪目をアレンジした曲線形状となっています。

 

拝殿と本殿

参道を進むと拝殿があります。

入母屋、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

 

拝殿向かって右の縁側には絵馬掛けがあります。当社は東方Projectというゲームのキャラクターにゆかりのある場所のようで、凝ったイラストの描かれた絵馬がいくつも奉納されていました。

 

向拝は1間。

虹梁には若葉の絵様が彫られ、「洩矢神社」の扁額が掲げられています。

扁額の影になってしまいましたが、唐破風の小壁にはシンプルな大瓶束が立てられています。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象鼻。

柱上の組物は出三斗。虹梁の上(写真中央右)にも出三斗があり、舟肘木と実肘木を共有して軒桁を受けています。

 

拝殿の母屋正面には格子戸が設けられています。側面は横板壁。破風板の拝みには蕪懸魚。

写真左奥に見えるのは本殿の覆屋。切妻(妻入)、銅板葺。

 

覆屋の窓から内部を覗くと本殿が見えます。祭神は当地の産土神である洩矢神。

向拝の近辺しか見えないため建築様式は特定できませんが、正面と両側面に軒がまわっているのが確認できます。屋根は妻入りの形式のようで、建築様式は隅木入り春日造か入母屋(妻入)のどちらかと思われます。諏訪地域の神社本殿はほぼすべてが流造のため、どちらにしても当地域ではめずらしい建築様式といえるでしょう。

細部意匠については、木鼻、蟇股、出組などが確認できます。海老虹梁はM字型に湾曲していて、とても個性的な形状です。

造営年は不明。伝承によると諏訪高島藩の奉納らしいです。

 

覆屋向かって左側(東側)には境内社。

鳥居と瑞垣に囲われ、四隅に小さい御柱が立てられています。

 

藤島神社

所在地:〒394-0048長野県岡谷市川岸1-1(地図)

備考 :洩矢神社から徒歩10分程度

 

洩矢神社から少し距離がありますが、川の対岸に鎮座する藤島神社(ふじしま-)もあわせて紹介。

『古事記』の「国譲り」の段では、タケミナカタ(諏訪大社の祭神)がタケミカヅチに敗れて信州の諏訪で降伏したと書かれていますが、当地の伝説では、タケミナカタが当地の洩矢神を屈服させて諏訪の領主となったと伝わります(諏訪明神入諏伝説)。その伝説によると、タケミナカタは当地に陣をかまえ、洩矢神は洩矢神社付近に陣をかまえ、天竜川をはさんで対峙し合戦に臨んだとのこと。

 

藤島神社の境内は幹線道路の歩道のとなりにあります。境内は古墳の跡地に造られたらしいですが、周辺は土地開発が進み、古墳だとわかるような痕跡は見当たりません。

参道は西向き。簡素な木造の鳥居が立ち、「藤嶋社」の扁額が掲げられています。

後方に見えるタイル壁の建物は旧片倉組事務所(1910年竣工)。製糸会社・片倉組の社屋だった建物で、国登録有形文化財。現在は印刷会社の社屋として利用されています。

 

参道の先には、瑞垣に囲われた本殿が南面しています。祭神はタケミナカタ。

本殿は、一間社流造、銅板葺。見世棚造。

母屋の正面には桟唐戸が設けられています。

 

左側面。

柱はいずれも角柱。妻飾りは角柱の束が立てられているだけです。装飾といえるような部材はなく、非常に簡素な外観。

 

以上、洩矢神社でした。

(訪問日2019/07/06,2024/11/16)