世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲府市】黒戸奈神社 ~辺境の隠れ里にたたずむ式内社~

今回は山梨県のマイナー観光地ということで、甲府市黒平(くろべら)の黒戸奈神社(くろとな-)について。

 

黒戸奈神社は甲府盆地から程遠い孤立した集落の中に鎮座しているのですが、延喜式内社の論社とされており、長い歴史のある神社のようです。

境内は本殿がぽつんと立っているだけのミニマムな内容ですが、本殿は小規模ながらおもしろい構造になっています。

 

 

現地情報

所在地 〒400-1211山梨県甲府市黒平町3(地図)
アクセス 甲府昭和ICまたは韮崎ICから車で50分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

本殿

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境内は、昇仙峡(甲府市)から山梨市へ抜ける林道・クリスタルラインの道沿いにあり、瑞垣に囲われています。

鳥居は前後に角柱の柱がついた両部鳥居。屋根まで赤く塗装されており、反りのついた笠木は大ぶりに作られています。扁額には「黒戸奈権現神社」とあり、唐破風の庇までつけられています。

境内入口には案内板がありましたが、この集落で演じられる能についての話題で、社殿については言及されていませんでした。

 

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境内の外から見た本殿。

境内の一段高くなった場所も瑞垣で囲われており、その中に本殿が鎮座しています。

たいていの神社は本殿の前に拝殿があるのが相場なのですが、この黒戸奈神社には拝殿がなく、本殿のみ

拝殿がない理由については、創建当初から無かったのでそれを踏襲している説と、何らかの事情で再建できなかった説が考えられますが、真相は不明。

 

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本殿は銅板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)、正面は向唐破風(むこう からはふ)。

流造の本殿で正面の軒の一部が唐破風になったもの(軒唐破風)はしばしば見かけますが、正面の軒の全部が唐破風になったもの(向唐破風)はちょっと珍しいです。神社本殿は鼻隠し(垂木の木口を隠す板)を使わないのが普通なのですが、唐破風の破風板が正面側の飛檐垂木(ひえんだるき)の木口をカバーしていて、まるで鼻隠しのよう。

 

唐破風から垂れ下がる兎毛通(うのけどおし)は龍の彫刻、虹梁(こうりょう)と丸桁(がぎょう)の上には題材がよくわからない草木(?)、虹梁の両端には側面にだけ唐獅子の彫刻がついていました。全体が紅白で塗装されているのに対し、無塗装の彫刻がちょっと浮いているように見えます。この本殿は、彫刻がないほうが美しいのではと思うのは私だけでしょうか...?

 

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正面の庇の下。

階段には神社建築の作法通り角材が使われており、その下には切目縁の浜床が張られています。

階段と浜床に置かれている瓶とペットボトルは、誰かが置いて行ったお供えと忘れものです。

 

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正面左側から見た図。

流造なので、黒い破風板が「へ」の字を描いています。破風板には赤い懸魚と桁隠しが付いています。

母屋の柱は円柱、向拝の唐破風を支える柱は角柱。縁側は正面と左右側面に回されており、欄干は跳高欄(はねこうらん)。

壁と脇障子には無塗装の彫刻が配置されており、やはりどこか浮いた印象を受けます。

 

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右後方から見た背面。

正面の間口の柱間は1間でしたが、背面は柱間が2つになっています。こういった場合、一間社か二間社か迷うかもしれないですが、正面の柱間を使うのが正解なので、この本殿は一間社です。

 

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右側面の軒下の妻。

組物は柱の真上に配置するのが寺社建築(とくに神社)のセオリーですが、上の写真では梁の中央にも組物が配置されています。このような組物を詰組(つめぐみ)といい、本来は禅宗様の寺院で見られるものなのですが、甲府盆地の近辺ではなぜか神社に使われている例が散見されます。

 

詰組と虹梁の上では大きな笈形(おいがた)が棟を受けています。束は使われていません。

 

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母屋の正面側。

間口は2本の丸柱で構成されていて柱間は1つですが、少し奥まったところに扉が2枚あり柱間が2つになっています。

扉が奥まったところに設置された本殿は甲府近辺の神社でときどき見かけますが、内部が柱間2間になっているのは初めて見たのでちょっと戸惑いました。

 

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左側面から見た床下。写真左側が背面、右側が正面になります。

母屋の床上は正面1間・側面1間・背面2間で内部に扉が2つありました。しかし床下を観察すると正面2間・側面2間・背面2間で、内部の扉を仕切っていたはずの柱が見当たりません。どうしてこんなアベコベな構造になっているのか、私には見当がつきません...

 

なお、母屋の柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」という定番の手抜きがなされています。こうした手抜きは江戸期に造営された寺社でよく見かけます。

彫刻については江戸中期以降のものと断言して良いでしょう。

 

境内は社殿が本殿しかないという非常にシンプルな内容で、その本殿も流造というありきたりな様式ですが、破風板や柱などの細部をよく観察してみるといろいろと面白い箇所が散見されて見応えがあります。

ここにたどり着くには幅1.5車線の曲がりくねった林道を通るしかなく、「こんな山奥に...?」と思ってしまうような集落の中にぽつんと本殿だけが立っているので、とても印象に残る神社かと思います。

 

以上、黒戸奈神社でした。

(訪問日2019/10/26)