兵庫県神戸市
無動寺(むどうじ)
2025/05/01撮影
概要
無動寺は北区の山間に鎮座する高野山真言宗の寺院です。山号は若王山。
創建は不明。寺伝によると飛鳥時代の創建で、聖徳太子の命を受けた鞍作止利が当地に仏像を祀ったのがはじまりで、のちに聖徳太子によって伽藍が整備され「福寺」または「普救寺」と名付けられたらしいです。
史料が残っていないため創建年や中世の沿革は不明ですが、鎮守社の若王子神社(にゃくおうじ-)*1は『摂陽郡談』(1701年成立)によると北条時政(1138-1215)の創建とされ、1297年(永仁五年)に橘長綱によって本殿が建立されたことから、遅くとも鎌倉後期には確立されていたと思われます。江戸時代には荒廃していたようで、江戸中期に当地出身の僧・本然房真源(眞源)によって再興され、1752年(宝暦二年)に伽藍が再建されました。明治初期に廃仏毀釈によって無動寺は廃寺となりましたが、1875年に末寺と統合することで存続しています。若王子神社は、もとは若王子権現と呼ばれていましたが、明治初期に無動寺から分離され現在の社号に改めています。
無動寺の現在の伽藍は江戸中期の再建のようです。堂内の仏像6体は平安時代と室町時代のもので、うち5体が国の重要文化財です。かつての鎮守社である若王子神社の本殿はめずらしい板葺き屋根で、室町前期の建築であることから国の重要文化財に指定されています。
現地情報
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| 所在地 | 〒651-1254兵庫県神戸市北区山田町福地101(地図) |
| アクセス | 箕谷駅から徒歩40分 神戸西ICから車で15分 |
| 駐車場 | 5台(無料) |
| 営業時間 | 09:00-17:00(冬季は16:00まで) |
| 入場料 | 境内は無料(本堂拝観は300円) |
| 寺務所 | あり(要予約) |
| 公式サイト | 高野山真言宗 無動寺 |
| 所要時間 | 20分程度 |
文化財情報
境内
本堂

無動寺の境内は南向き。
山道の途中に駐車スペースがあり、そこから境内に向けて参道が伸びています。
右の寺号標は「高野山真言宗 無動寺」。

参道右手には手水舎。
切妻造、桟瓦葺。

柱は角柱。梁や桁を直接受けています。
破風板の拝みには梅鉢懸魚。

境内の中心部には、本堂が南向きに鎮座しています。
桁行3間・梁間3間。宝形造、銅板葺。
寺記では1752年(宝暦二年)に伽藍が再建されたようですが、現在の伽藍が当時のものかどうかは不明。

正面中央の柱間。
虹梁の上には火灯窓のような意匠があります。頭貫の下には吹き寄せの格子が張られ、窓枠は頭貫の上まで伸びています。風変わりな意匠だと思います。


母屋柱は円柱。頭貫には拳鼻。
柱上の組物は大斗と肘木を組んだもの。中備えはありません。
飛貫の下には連子が張られています。

本堂のはす向かいには「厄除不動明王」が北面しています。
宝形造、銅板葺。

本堂向かって右側(東側)には鐘楼。
切妻造、銅板葺。

柱は円柱。桁を直接受けています。
頭貫と台輪には禅宗様木鼻がありますが、通常のものよりも横幅が長いです。台輪の上の中備えは蟇股。

妻飾りの部分は、冠木の上に束を立てて棟木を受けています。
破風板の拝みには蕪懸魚。

境内東側には庫裏(客殿?)が南面しています。
入母屋造、茅葺。
若王子神社

本堂向かって左(境内北西)へ進むと、若王子神社(にゃくおうじ-)の入口の鳥居があります。
石造明神鳥居。

鳥居の右奥には境内社。
一間社流造、とち葺。

若王子神社への参道の途中にも境内社があります。
見世棚造、一間社春日造、板葺。

参道の先には、覆屋のかかった本殿が東向きに鎮座しています。
覆屋は、切妻造、銅板葺。1964年に造られたもの*2。

本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、板葺。
棟札より1408年(応永十五年)造営。国指定重要文化財。

向拝は3間。
柱間は貫でつながれ、3間いずれも中備えがありません。
柱上の組物は出三斗。

向かって左の隅の柱。
向拝柱は面取り角柱。室町前期の古い建築のため、面取りの幅が大きいです。
隅の柱の組物は連三斗。軒桁を直接受けています。

隅の向拝柱と母屋柱とのあいだには、繋ぎ虹梁がわたされています。向拝側は組物の上から出て、母屋側は頭貫の少し下に取りついています。

向拝の中央寄りの2本の柱は、繋ぎ虹梁のかわりに手挟が使われています。

向拝の下には角材の階段が7段。中央の1間の幅だけ設けられています。

階段の下には浜床。
浜床は2段の構成になっており、向拝柱と母屋とのあいだは床が一段高いです。


階段の左右の高い浜床には木造狛犬。

母屋正面は3間。
垂れ幕には巴と五三の桐の紋。
正面の建具は、引き違いの格子戸。

頭貫に掲げられた扁額は「若一王子権現」。
母屋柱は円柱で、柱上は出三斗。中備えはありません。

隅の母屋柱。こちらは柱上に連三斗が使われています。母屋の組物は、実肘木を介して軒桁を受けています。
頭貫の位置には斗栱がつき、連三斗を持ち送りしています。

左側面(南面)。
側面は2間。前方は板戸、後方は横板壁。

縁側は切目縁が3面に設けられ、欄干は跳高欄。側面後方に脇障子を立てています。
縁の下は縁束で支えられ、縁束は礎石の上に据えられています。

妻虹梁は絵様などの装飾や彫刻のない無地のもの。
妻飾りは豕扠首。

背面は3間。柱間は横板壁。
母屋柱も礎石に据えられ、床下も円柱に成形されています。軸部の固定には長押が多用されています。

右側(北面)の破風。
破風板は曲線形状ですが、屋根は板葺のため角ばった形状となっています。
破風板には蕪懸魚が4つ下がっています。

正面の軒先。
軒裏は二軒繁垂木。飛檐垂木(軒先に近いほうの垂木)は先端がわずかにすぼまった形状です。
茅負と裏甲の先には、板葺き屋根を構成する板材が突き出ています。


若王子神社本殿の北側には境内社。
見世棚造、一間社流造、板葺。
向拝柱の上の組物が大胆に省略され、向拝柱が柱として機能していません。そのせいで、軒先の大部分が片持ちになってしまっています。


本殿南側にある「岩田大明神」も似た造りで、向拝に組物がありません。
ただしこちらは虹梁中備えの蟇股が軒桁を受けていて、向拝の軒桁が下から支持されています。
以上、無動寺でした。
*1:文化庁の文化遺産オンラインには「若王子神社本殿(わかおうじじんじゃほんでん)」、兵庫県神社庁のサイトには「福地若王子神社(フクヂジャクオオジジンジャ)」とある。なお、所在地の読みは福地(ふくち)が正しい。
*2:兵庫県神社庁のサイトより