甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【川越市】鴨田八幡神社

今回は埼玉県川越市の鴨田八幡神社(かもだ はちまん-)について。

 

鴨田八幡神社は伊佐沼東岸の住宅地に鎮座しています。

創建は室町中期とされます。『新編武蔵風土記稿』(1830年完成)によると、太田道灌が河越城の鬼門除けとして八幡宮を祀ったのがはじまりとのこと。創建以来、当地区の氏神として崇敬されています。当初は鴨田地区北部の笹原町に鎮座していたようですが、江戸前期に川越藩主・松平信綱によって現在地へ移転されています。

現在の社殿は江戸後期以降のもの。本殿は素木の彫刻で満たされた派手な作風で造られており、市の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒350-0844埼玉県川越市鴨田1072(地図)
アクセス 南古谷駅から徒歩40分
川越ICから車で25分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道

鴨田八幡神社の境内は南西向き。正面の入口は農道に面しています。

標柱は右が「村社 八幡神社」、左が「八幡神社」。

 

参道の途中には石造明神鳥居が立っています。扁額はありません。

 

参道の左右には境内社と手水舎。

手水舎は、切妻、桟瓦葺。

 

拝殿の手前には神楽殿が北面しています。

切妻、桟瓦葺。

 

拝殿

境内の中心部には拝殿。

入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

 

向拝の虹梁。菊水の絵様が彫られ、中備えには蟇股が置かれています。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面と側面には大ぶりな木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。

 

向拝柱の上には板状の手挟。

海老虹梁は母屋正面の虹梁の少し上に取りついています。

 

母屋柱は面取り角柱。柱上は繰型のついた実肘木が使われています。

 

正面および側面の柱間は舞良戸。

縁側は切目縁で、正面と両側面の計3面にまわされています。

 

本殿

拝殿の後方には、覆屋のかかった本殿が鎮座しています。

一間社流造、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、こけら葺。

案内板*1によると、“18世紀後期の造営と考えられる”とのこと。市指定有形文化財。

 

正面の軒唐破風。

破風板の兎毛通には、菊の彫刻が下がっています。

 

虹梁は眉欠きと袖切が彫られ、牡丹の絵様が浮き彫りになっています。

虹梁中備えは竜の彫刻。竜の左右には組物があり、向拝柱の上の組物と肘木を共有しています。竜の彫刻の上には横木(肘木)が通り、巻斗が並んでいます。

唐破風の小壁には小さい虹梁がわたされ、鳳凰の彫刻が配されています。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面には唐獅子、側面には獏の木鼻がついています。

柱上の組物は、出三斗をベースとしたもの。

 

向拝柱の上の手挟には、籠彫りで菊が造形されています。

海老虹梁は大きく湾曲した形状で、母屋側は頭貫の位置に取りついています。

 

向拝の下の階段。

角材の階段が7段設けられ、階段の下には浜床が張られています。

 

母屋の正面には板戸が設けられています。

板戸の左右の羽目には彫刻があり、竜が彫られています。向かって右が昇り竜、左が降り竜。

 

右側面(南面)。

母屋柱は円柱。軸部は貫と長押で固められ、頭貫に唐獅子の木鼻があります。

柱上の組物は尾垂木二手先。頭貫の上の中備え(欄間)には、蟇股と紅葉の彫刻が入っています。

組物で持ち出された梁のあいだには支輪板があり、波状の彫刻が見えます。

 

妻虹梁は松の絵様が浮き彫りになっています。妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みには猪目懸魚。左右についた鰭は渦状の意匠です。

 

右側面の縁の下。

縁側は切目縁が4面にまわされ、床下は二手先の腰組で支えられています。腰組のあいだには波の彫刻。

腰組の下には長押が打たれ、その下の欄間も羽目板彫刻となっています。彫刻は、水仙と波間を泳ぐ鴛鴦(オシドリ)。

 

背面とその縁の下。

壁面は背面も側面も横板壁です。

背面の縁の下の羽目板は、松に鶴の彫刻。

 

左側面(北面)。

頭貫中備えの蟇股の、はらわた部分が欠損してしまっています。

 

左側面の縁の下。

こちらは雁や鶉と思われる鳥が彫られています。

 

拝殿の後方には3棟の境内社が東面していました。

 

以上、鴨田神社でした。

(訪問日2024/10/11)

*1:川越市教育委員会による設置