甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【大津市】近江神宮

今回は滋賀県大津市の近江神宮(おうみ じんぐう)について。

 

近江神宮は琵琶湖西岸の山際の住宅地に鎮座しています。

創建は1940年(昭和十五年)。当地の有志によって近江大津宮の跡地に天智天皇を祀った神社を創始することが企図され、昭和天皇の命を受けて祭祀・創建が決まりました。

境内は戦前の創建時に整備されたもので、広大な社叢の奥に社殿が並び立ちます。社殿もほとんどが創建時のもので、境内にある社殿のほぼすべてが国の登録有形文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒520-0015 滋賀県大津市神宮町1-1(地図)
アクセス 近江神宮前駅から徒歩5分
京都東ICから車で10分
駐車場 200台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 近江神宮公式ホームページ
所要時間 30分程度

 

境内

参道と手水舎

近江神宮の境内は東向き。境内の正面入口は京阪線の西側の道路に面した場所にあります。

訪問時は、境内でフリーマーケットが開かれていました。

右の扁額は「近江神宮」。

 

一の鳥居は木造明神鳥居。

1944年造営。国の登録有形文化財です。

 

参道の途中には二の鳥居。

木造明神鳥居。扁額はありません。

1940年造営。こちらも国の登録有形文化財。

 

二の鳥居をくぐると参道がクランク状に折れ曲がり、南北方向に伸びた参道の左手(西側)に手水舎があります。

切妻、銅板葺。

1940年造営。登録有形文化財。

 

主柱の内側には控柱が添えられています。1本の主柱に2本の控柱がつき、つごう12本の柱が使われています。主柱は几帳面取り角柱、控柱は面取り角柱です。柱上は舟肘木。

 

頭貫の上の欄間には、連子が張られています。

舟肘木の上には無地の虹梁がわたされ、妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みには猪目懸魚。

 

楼門

手水舎の先へ進むと参道はふたたび東向きとなり、階段の先が境内の中心部となっています。階段の上には楼門。

 

三間三戸、楼門、入母屋、銅板葺。

造営年不明。文化財の指定や登録はないようです。

 

下層は正面3間で、3間すべてが通路となっています。

 

中央の柱間。

柱間は飛貫と頭貫でつながれています。中央は頭貫の中備えに蟇股が使われています。蟇股の彫刻は若葉をアレンジした意匠で、カラフルに彩色されています。

 

向かって左の柱間。

こちらは中備えに間斗束が使われています。

柱はいずれも円柱で、頭貫に木鼻がついています。柱上の組物は三手先。

 

上層も正面3間。

欄干の影になってしまい見えませんが、柱間に板戸が設けられています。

頭貫の上の中備えは、下層と同様に中央は蟇股、左右は間斗束です。

軒裏は二軒繁垂木。

 

頭貫には木鼻がつき、柱上は尾垂木三手先。

桁下には軒支輪がつき、軒支輪と母屋とのあいだには格子の小天井が張られています。

 

背面。

通路部分には、桟唐戸をアレンジしたような格子状の開き戸が設けられています。

 

背面の上層。

中央の柱間は板戸で、板戸の上の長押は左右の柱間よりも高い位置に打たれています。左右の柱間は連子窓。

 

南面の破風。

妻飾りは豕扠首。破風板の拝みに蕪懸魚が下がっています。

 

楼門の左右には授与所や回廊がつながり、回廊内部は通路を兼ねた休憩所となっています。

 

外拝殿

楼門の先には階段があり、外拝殿(そとはいでん)が鎮座しています。中央部は通路になっており、割拝殿のような門状の構造となっています。

外拝殿は、入母屋、正面軒唐破風付、銅板葺。

1940年造営。登録有形文化財。

 

正面中央の唐破風部分の軒下。

柱間には細長い虹梁がわたされ、その上の欄間には菱形の木組みが張られています。組物の上には太い虹梁がわたされ、笈形付き大瓶束を介して棟木を受けています。

 

正面の通路部向かって右側の柱。写真右が正面方向です。

柱は円柱で、軸部は貫と長押で固定されています。

柱上の組物は連三斗で、唐破風の桁を受けています。頭貫には若葉状の木鼻がつき、組物を持ち送りしています。

 

内部の通路部分。

中央は唐破風の茨垂木、左右の柱間には小組格天井が張られています。

 

内部の柱。

柱の側面から大仏様の組物(挿肘木)が出て、虹梁を支えています。

虹梁の絵様は雲の意匠。

 

左右の柱間は壇上から突き出ており、懸造のような構造となっています。

 

向かって右側。

柱は円柱が使われ、柱間には蔀が吊るされています。

正面と側面には縁側が設けられ、欄干は跳高欄。

 

外拝殿の左右(南北)にはこのような通路がつながっています。

こちらも柱は円柱で、虹梁の上には豕扠首や蟇股が置かれています。

 

内拝殿と本殿

一般の参拝者が進入できるのは外拝殿の内部までで、その先にある内拝殿と本殿は遠目に見ることしかできません。こちらは内拝殿。

入母屋、銅板葺。

 

柱間は板戸。

柱は円柱。柱上は出三斗。軸部は貫と長押でつながれ、中備えは蟇股。

 

内拝殿(写真左手前)の奥には神門と思われる檜皮葺の棟があり、そのさらに奥には本殿が鎮座しています。

いずれも1940年造営で、登録有形文化財。

本殿は近江造(おうみづくり)とも呼ばれる独特な建築様式なのですが、その全貌を見ることはできません。文化遺産オンラインの当該ページ*1には本殿の写真が掲載されており、滋賀県特有の前室付き流造*2の前方に切妻の庇がついた様子が確認できます。

 

その他の社殿

外拝殿の北側には栖松遥拝殿(せいしょう ようはいでん)が東面しています。

 

遥拝殿は、一間社流造、銅板葺。

昭和初期に高松宮宣仁親王の邸宅に造られたもので、昭和中期に現在地に移築されました。

 

外拝殿の南側へ進むと、自動車清祓所があります。

入母屋、銅板葺。

1890年(明治二十三年)に大津裁判所本館の車寄せとして造られたもので、1971年に現在地へ移築されました。登録有形文化財。

 

屋根はむくりのついた曲線形状で、神社建築というよりは住宅建築寄りの雰囲気です。

破風板の拝みには、菊の紋のついた懸魚が下がっています。破風には木連格子が張られています。

 

柱は几帳面取り角柱。四隅の主柱に各2本の控柱が添えられ、つごう12本の柱で構成されています。柱間は貫と長押で固定されています。

柱上の組物は大斗、巻斗と舟肘木。

 

以上、近江神宮でした。

(訪問日2024/06/15)

*1:https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/166142、2024/09/13閲覧

*2:園城寺新羅善神堂や苗村神社西本殿が代表例