甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【豊橋市】東観音寺

今回は愛知県豊橋市の東観音寺(とうかんのんじ)について。

 

東観音寺は市南部の集落に鎮座する臨済宗妙心寺派の寺院です。山号は小松原山。

創建は不明。寺伝によると733年(天平五年)に行基が馬頭観音を祀ったのがはじまりらしいです。平安時代には真言宗寺院となり、鎌倉時代は当地の地頭の安達氏の崇敬を受けました。室町時代には臨済宗に改められ、戸田氏や今川氏の庇護を受けました。江戸時代には徳川家の庇護を受けて隆盛しましたが宝永地震(1707年)で津波の被害に遭い、1716年(正徳六年)に海岸沿いから現在地へ移転しました。明治時代には多宝塔が境内に移築されました。

現在の境内伽藍は江戸中期以降に整備されたものです。多宝塔は室町後期のものが宝永地震の被災を乗り越えて現存しており、国の重要文化財に指定されています。ほか、鎌倉時代の金銅馬頭観音御正体など多数の寺宝を所蔵していますが、非公開となっています。

 

現地情報

所在地 〒441-3123愛知県豊橋市小松原町坪尻14(地図)
アクセス 野依ICから車で3分、または豊川ICから車で35分
駐車場 30台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

山門

東観音寺の境内は南向き。正面の入口は県道に面しています。

右の寺号標は「臨済宗妙心寺派 東観音寺」。

 

境内に入ると、参道の途中に山門があります。

三間三戸、八脚門、入母屋、本瓦葺。

造営年不明。

 

正面は3間で、3間すべてが通路となっています(三間三戸)。中央の柱間は、左右よりも広く取られています。

 

正面向かって右の柱間。

柱は面取り角柱で、上端が絞られています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は二手先。台輪の上の中備えにも組物があり、禅宗様の詰組となっています。

 

右側面。

側面は2間。柱間には横板壁が張られています。

 

軒裏は二軒繁垂木。

垂木は放射状に配され、禅宗様の扇垂木です。

 

屋根の妻面。

入母屋破風には木連格子が張られ、破風板の拝みには蕪懸魚が下がっています。

 

通路部分。前方の1間通りは棹縁天井が張られています。

内部も柱間は貫と台輪でつながれ、通路上の台輪の上には蟇股があります。蟇股の彫刻は、唐獅子とも獏ともつかない神獣が彫られています。

 

後方の1間通りは、鏡天井が張られています。

 

背面。

柱間や軒下の意匠は正面と同様です。

 

本堂

山門をくぐると、境内の中心部へ向けて数十メートルほどの長さの参道が伸びています。

 

参道の先には本堂が鎮座しています。

桁行5間・梁間4間、寄棟、向拝1間、銅板葺。

造営年不明。

 

向かって右の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱で、側面に唐獅子の木鼻がついています。

柱上の組物は連三斗。肘木は先端に繰型がついています。

 

向拝柱の上には手挟があり、軒裏を受けています。手挟は菊の彫刻。

 

虹梁中備えは蟇股。竜の彫刻が入っています。

虹梁の下面には錫杖彫り。

 

母屋正面は5間。柱間の建具は、中央の3間が桟唐戸、左右両端の各1間は格子の入ったガラス窓。

正面と両側面の計3面に切目縁がまわされ、欄干はありません。縁側の正面側には板材の階段が設けられています。

 

正面中央の柱間。扁額は「■東普陀洛」(■部判読できず)。

 

右端の柱間。

母屋柱は円柱で、上端が絞られています。

柱間は長押と貫でつながれ、柱上に台輪が通っています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出組。こちらも肘木に繰型がついています。

台輪の上の中備えは蟇股。

 

右側面(東面)。

側面は4間。柱間は、桟唐戸、横板壁、連子窓が入っています。

側面後方の縁側は、縁束を上に伸ばして軒先を支えています。

 

背面の軒下にはこのような下屋が付加されていました。

 

正面左側。

左側面(西面)の軒下には、本坊へ通じる廊下が設けられています。

 

大棟には菊と三葉葵の紋があります。

 

多宝塔

本堂向かって右手前(南東)には多宝塔が鎮座しています。

三間多宝塔、こけら葺。

古版木の銘より1528年(大永八年)建立。地頭の戸田氏に仕えた藤田左京僚亮定光によって造られたもので、江戸中期の宝永地震ののち、1880年(明治十三年)に現在地へ移築されました。

国指定重要文化財

 

下層北面。

下層はいずれの面も3間。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干が立てられています。

 

北面の縁側には階段が設けられており、階段の部分の縁側は床板が切り取られています。

欄干の親柱には、禅宗様の逆蓮がついています。

 

柱は細い円柱が使われています。

中央の柱間は桟唐戸。左右の柱間には腰貫が通り、腰貫の下は横板壁、上は窓状の板が張られています。

 

左右の柱間の腰貫の上の板は、格狭間状の曲線系の線彫りがあり、連子窓のような縦線が入っています。

 

柱は上端が絞られ、禅宗様の粽となっています。

柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様木鼻があります。

柱上の組物は出組。台輪の上の中備えは蓑束。

軒桁の先端には、木鼻のような繰型と渦の意匠になっています。

 

中央の桟唐戸の上の中備えは蟇股。

蟇股の内側には彫刻があります。こちら(北面)の彫刻は竹に雀。

室町前期の地方の寺社彫刻にしては、非常に写実的な造形だと思います。素人の推測になりますが、この部材は江戸中期あたりの後補かもしれません。

 

東面の蟇股の彫刻は桐に鳳凰。

 

軒裏は上層下層ともに二軒繁垂木。放射状に配置されており、禅宗様の扇垂木です。

 

上層。

縦板で覆われた亀腹の上に、円形の母屋が乗っています。

上層も、上端の絞られた円柱が使われています。

柱上の組物は禅宗様の尾垂木四手先。尾垂木が非常に長く伸びているのが印象的です。

 

上層の屋根の上には宝輪。

路盤の上に反花と九輪が乗り、火炎のついた宝珠が頂部にあります。

 

本坊

本堂西側の区画は本坊となっています。こちらは本坊の南側の門。

薬医門、切妻、銅板葺。

 

柱は角柱。前方に腕木(男梁と女梁)を伸ばし、組物を介して軒桁を受けています。

内部には格天井が張られています。

 

門の先には宝物庫と思しき建物(写真左)と本坊(中央奥)があります。

 

以上、東観音寺でした。

(訪問日2024/04/14)