甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【静岡市】静岡浅間神社 その5(麓山神社、大歳御祖神社)

今回も静岡県静岡市の静岡浅間神社について。

 

その1では総門について

その2では楼門について

その3では舞殿、拝殿、本殿について

その4では少彦名神社、八千戈神社について述べました。

当記事では麓山神社、大歳御祖神社について述べます。

 

麓山神社

前回述べた八千戈神社の左脇を通り石段を登ると、山(賎機山)の中腹に摂社の麓山神社(はやま-)が南面しています。

こちらは麓山神社拝殿で、桁行5間・梁間4間、入母屋、銅瓦葺。

1824年(文政七年)造営。「神部神社浅間神社」23棟として国指定重要文化財(国重文)*1

 

正面は5間。向拝はなく、前方の1間通りは壁や建具のない吹き放ちの空間になっています。

縁側はくれ縁が4面にまわされ、欄干は跳高欄。

 

正面中央の柱間は虹梁がわたされ、しめ縄がかかっています。

虹梁の上の頭貫は、極彩色の花のパターンが描かれています。その上の台輪は唐草が描かれ、中央には牡丹の絵が配されています。

台輪の上の中備えは蟇股。梅の彫刻が入っています。蟇股の左右の壁面には雲が描かれています。

 

柱は上端が絞られた円柱で、軸部は長押と貫でつながれています。隅の柱の頭貫の位置には唐獅子の木鼻。

柱上の組物は出三斗と平三斗。

中備えの蟇股は、草木や鳥獣が彫られています。

 

正面から1間奥まった柱間には建具が入っています。

正面中央の建具は桟唐戸で、虹梁の上に掲げられた扁額は「麓山神社」。左右各2間の建具は半蔀。

 

右側面(東面)。

前方の1間通りには随神像が置かれています。後方の3間は舞良戸。

 

右側面の軒下の意匠。

こちらの蟇股も草木や鳥獣が題材です。

 

背面。

中央1間は桟唐戸、その左右の各1間は半蔀、左右両端の各1間は舞良戸。

こちらも中備えの蟇股に彫刻があります。

 

右側面の入母屋破風。

破風板の拝みには鰭付きの懸魚。

妻飾りは豕扠首。豕扠首の束と竿のすきまには、菊水の彫刻が入っています。

 

麓山神社拝殿の後方には、透塀に囲われた本殿が鎮座しています。

木の影になって見づらいですが、中央左が中門、その左右につながって本殿を囲っているのが透塀、中央奥の高い棟が麓山神社本殿です。

3棟とも1822年(文政五年)造営で、「神部神社浅間神社」23棟として国重文*2

 

中門および透塀。

中門は、一間一戸、平唐門、銅瓦葺。

門扉は格狭間のついた桟唐戸が使われています。

 

透塀は、一周延長30間、本瓦葺。

柱間には赤い連子が使われ、腰壁には赤い部材の筋交いが入っています。

 

麓山神社本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、銅瓦葺。

 

向拝部分。

向拝柱の上の手挟は、菊水の意匠。

向拝柱と母屋柱は、大きく湾曲した海老虹梁でつながれています。

破風板の飾り金具には三葉葵の紋があり、桁隠しは雲の彫刻です。

 

母屋柱は長押と頭貫でつながれ、頭貫には唐獅子の木鼻があります。

柱上の組物は出組。中備えは蟇股で、竹に雀などの彫刻が入っています。

妻飾りは豕扠首。束の左右には牡丹と唐草、竿の左右には雲の彫刻。

拝みには蕪懸魚が下がり、鰭は雲の意匠です。

 

大歳御祖神社

境内の南側の区画には、静岡浅間神社(正式名称は「神部神社・浅間神社・大歳御祖神社」)を構成する3社のうちの1社である大歳御祖神社(おおとしみおや-)が南面しています。

もとは独立した神社だったためか、境内南側の丁字路に面した場所に明神鳥居が立っています。右の社号標は「大歳御祖神社」。

 

鳥居をくぐると、左手に手水舎があります。

切妻、銅板葺。

 

中央に主柱を立て、その前後に控え柱を立てており、四脚門に近い構造です。

 

鳥居の先には随神門。

三間一戸、四脚門、切妻、銅板葺。

 

正面3間で、中央の1間は通路、左右各1間には随神像が置かれています。

柱は円柱で、軸部は貫でつながれています。

 

柱上の組物は、舟肘木を2つ並べた独特なものが使われています。

妻飾りには、笈形とも蟇股ともつかない部材が入っています。

 

随神門の先には拝殿。

拝殿は、入母屋、正面軒唐破風付、銅板葺。

 

正面中央の唐破風の部分。

破風板の兎毛通には、猪目(ハート形)の穴の開いた懸魚が下がっています。

母屋の頭貫の上の中備えは蟇股。その上の唐破風の小壁には、間斗束と蟇股を組み合わせたような部材が使われています。

先述の随神門と似た作風です。

 

右側面。

母屋柱は円柱で、柱上は舟肘木。中備えは間斗束があります。

 

右側面(東面)の破風。

破風板には懸魚が下がり、妻飾りは豕扠首です。

 

拝殿の後方には本殿が鎮座していますが、間近で見ることはできません。

写真中央の高い棟は本殿で、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、銅瓦葺。

手前の低い棟は透塀で、一周延長38間、銅瓦葺。

写真には写っていないですが本殿の手前には透塀に接続した中門があり、様式は、一間一戸、平唐門、銅瓦葺。

 

本殿、透塀、中門の3棟は1826年(文政九年)造営。「大歳御祖神社」3棟として国重文*3

 

大歳御祖神社の本殿

訪問時、拝殿にこのような写真があったため参考として掲載しておきます。

大歳御祖神社本殿は極彩色、漆塗りとなっています。規模や様式、作風は、先述の麓山神社本殿に似ています。

 

以上、静岡浅間神社でした。

(訪問日2019/11/29,2024/04/13)

*1:附:絵図1枚、棟札3枚

*2:本殿 附:絵図2枚、棟札1枚

*3:本殿 附:絵図1枚、棟札2枚