甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【近江八幡市】浄厳院 前編 楼門

今回は滋賀県近江八幡市の浄厳院(じょうごんいん)について。

 

浄厳院は琵琶湖線沿線の住宅地に鎮座する浄土宗の寺院です。山号は金勝山、寺号は慈恩寺。

当寺の前身となった慈恩寺威徳院は天台宗の寺院で、正平年間(1346-1370)に近江守護・六角氏頼によって開かれましたが、戦乱で廃絶しました。その後、安土城の築城にあたり、織田信長が金勝寺(栗東市)の浄厳坊明感を招き、1577年(天正五年)、威徳院の跡地に現在の浄厳院が開かれました。当寺の本堂や本尊は、創建時に信長の命で近江国内の他寺から移されたものです。1579年には安土城下で浄土宗と法華宗(日蓮宗)の論争が起こり、信長の斡旋により当寺の仏殿で両宗の問答が行われました(安土宗論)。江戸時代は、近江国の浄土宗の中心的寺院のひとつとして隆盛したようです。

現在の境内は安土桃山時代以降のもの。威徳院の遺構である楼門と、大規模な本堂の2棟が国の重要文化財に指定されています。ほか、本尊の阿弥陀如来坐像など多数の寺宝も重要文化財となっています。

 

当記事ではアクセス情報および楼門などについて述べます。

本堂などの伽藍については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒521-1345滋賀県近江八幡市安土町慈恩寺744(地図)
アクセス 安土駅から徒歩15分
竜王ICまたは八日市ICから車で20分
駐車場 10台(無料)
営業時間 境内は随時
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト 浄厳院HP
所要時間 30分程度

 

境内

楼門

浄厳院の境内は南向き。境内は住宅地と農地の境界にあり、境内裏(北側)にはJR琵琶湖線が通っています。

入口には石橋と石垣があり、右の寺号標は「金勝山 浄厳院」。

 

楼門は、三間一戸、楼門、入母屋、本瓦葺。

天文年間(1532-1555)の造営*1。後述の本堂とともに「浄厳院」2棟として国指定重要文化財

 

威徳院(当寺の前身)の門として、甲良大工によって造られたもの。当寺の創建にあたって改築・移築などはしていないようで、江戸時代も小規模な修理をしただけであり、改修・改変された箇所は少ないとのこと。

案内板*2によると1889年に上層が崩落したため応急処置として屋根を切妻にし、1996年の解体修理でほぼ当初の形態に復元されました。よって、上層は当初のものではありません。

案内板の解説は以下のとおり。

(※前略)

 楼門は、平面寸法や組物の構成が垂木間隔(六枝掛)を基準に計画されていること、四隅の柱を他より長く延ばすことなど中世の建築にみられる技法を用いている。一方、部材の組み方は、非常に整理された近世的なものとなっている。

 この楼門は、歴史的には佐々木氏に縁のある旧慈恩寺の楼門である。また建築技法的には中世的なものを遺しながら、整然とした近世的なものへと移行する過渡的な技法をもった建物として貴重である。

 

 平成九年三月

滋賀県教育委員会

 

下層は正面3間。

中央の柱間が広く取られ、左右には仁王像が安置されています。

 

中央の通路上の中備え。

頭貫の上に蟇股が置かれ、梁の上の間斗束が上層の床下を受けています。

蟇股の内側には、彩色された竜の彫刻。

 

向かって左の柱。

左右の柱間は、中備えに間斗束が使われています。

柱はいずれも円柱。軸部は貫でつながれ、隅の柱の上部に禅宗様木鼻がついています。

柱上の組物は二手先。

 

左側面(西面)。

側面は2間。柱間は白壁で、こちらも中備えは間斗束です。

 

上層も正面3間。扁額は山号「金勝山」。

柱は円柱で、柱間は3間とも板戸です。

軒裏は二軒繁垂木。案内板によると、中世の建築でよく見られる六枝掛(三斗の上に垂木が6本かかる配置)の木割で設計されているとのこと。

 

向かって左側。

頭貫には禅宗様木鼻が付いています。

柱上の組物は和様の尾垂木三手先。中備えは間斗束。

縁側は切目縁で、跳高欄が立てられています。

 

上層左側面。

上層も側面2間で、中備えに間斗束が使われています。

 

背面全体図。

下層は門扉に板戸が設けられています。

上層は、中央が板戸、左右は連子窓です。

楼門の左右には、本瓦葺の袖塀がつづいています。

 

手水舎

山門の先には本堂が鎮座し、参道左手に手水舎があります。

手水舎は、入母屋、桟瓦葺。

 

柱は几帳面取り角柱で、上端が絞られています。

頭貫の木鼻には、雲状の渦が彫られています。

柱上の組物は出三斗。

 

柱間には虹梁がわたされ、柱と虹梁の上には台輪が通っています。

台輪の上の中備えは蟇股。

 

楼門などについては以上。

後編では本堂などについて述べます。

*1:仁王像岩座の墨書より

*2:滋賀県教育委員会