甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【長野市】西光寺

今回は長野県長野市の西光寺(さいこうじ)について。

 

西光寺は長野駅の北側に鎮座する浄土宗の寺院です。山号は刈萱山(かるかやさん)

創建は寺伝によれば1201年(建仁元年)。「苅萱伝説」の苅萱道心が善光寺門前に草庵を開いたのがはじまりとされます。その後の沿革は不明。

境内は江戸後期以降のものと思われます。苅萱親子の墓とされる石塔のほか、芭蕉や一茶の句碑が立っています。

 

現地情報

所在地 〒380-0826長野県長野市南長野北石堂町1398(地図)
アクセス 長野駅から徒歩5分
長野ICまたは須坂長野東ICから車で20分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト 絵解きの寺 かるかや山 西光寺 ホームページ
所要時間 10分程度

 

境内

山門(慈光門)

西光寺の境内は西向き。めずらしい方角を向いています。

山門は、一間一戸、薬医門、切妻、銅板葺。

 

門の内部、向かって左側。写真左が正面側です。

正面側の主柱と背面側の控柱には、梁がわたされています。梁の両端は木鼻になっています。

梁の上の妻飾りは、蟇股と間斗束が一体化したような意匠。

軒裏は二軒のまばら垂木。

 

本堂

山門の先には本堂。

入母屋、正面千鳥破風付、向拝3間 軒唐破風付、本瓦葺。

1938年(昭和十三年)再建*1

本尊は阿弥陀如来。

 

手前に立てられた回向柱は、善光寺本堂前の回向柱を作ったときに出た残材が利用されているそうです。

 

向拝は3間。軒下には多数の彫刻が配されています。

垂れ幕には九曜の紋。

 

向かって左。

向拝柱は垂れ幕で見えづらいですが、几帳面取りの角柱が使われています。

柱についた木鼻は、正面が唐獅子、側面が獏。

柱上の組物は出三斗を2つ重ねたもの。

虹梁中備えの彫刻は麒麟。

 

向拝の中央には軒唐破風がついています。

中備えの彫刻は竜。

唐破風の小壁にはつがいの鶴。

軒唐破風の兎毛通は鳳凰。

 

向拝と母屋は、梁でつながれています。

梁の中央には笈形付き大瓶束が立てられています。向拝側は短い梁で組物の上につながり、母屋側は小さい海老虹梁で出組につながっています。

善光寺本堂とよく似た造り。

 

向拝と母屋をつなぐ梁は、内側の2本も同様の構造になっています。

母屋中央の扁額は山号「刈萱山」。

 

母屋柱は円柱。頭貫には木鼻がついています。

柱上には台輪が通り、中備えは蟇股。組物は出組で、持ち出された桁の下には軒支輪。

 

柱間は桟唐戸と連子窓。

縁側は切目縁。

母屋は亀腹の上に建っています。

 

側面は6間。

柱間はいずれも引き戸式の桟唐戸。

 

向かって左側面には渡り廊下がつづき、土蔵のような建物につながっています。

 

大師堂(園通殿)

境内北側には、六角形の大師堂が南面しています。

六角円堂、向拝1間、桟瓦葺。

堂内には、弘法大師こと空海(真言宗の開祖)が祀られています。当寺を開いたとされる刈萱は高野山で修行していたとのことで、おそらく当初の西光寺は真言宗の寺院だったと思われます。

 

母屋は六角形で、正面には1間の向拝が設けられています。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

虹梁中備えは牡丹に戯れる唐獅子の彫刻。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。見返り唐獅子の木鼻がついています。

柱上は出三斗。

 

向拝柱の上では、渦状に彫刻された手挟が軒裏を受けています。

海老虹梁はゆるやかにカーブした形状。向拝側は虹梁の高さから出ていて、母屋側は頭貫の中間の半端な位置に取り付いています。

母屋の扁額は「園通殿」。

 

向かって右手前の側面。

母屋柱は円柱。頭貫には木鼻。

柱上には台輪が通っています。組物は出組、中備えは蟇股。

 

正面の階段は蹴込板と蹴上板で構成されたもの。擬宝珠付きの昇高欄がついています。

縁側は切目縁で、欄干なし。母屋に合わせて六角形になっています。

 

その他の石塔など

本堂のとなりには刈萱親子の銅像。

西光寺を開いた刈萱と、その息子の石堂丸の対面する場面です。刈萱親子の物語については割愛。

 

大師堂のとなりには刈萱親子の墓とされる石塔。

右端のいちばん高い塔が石堂丸の墓。旗に隠れてしまいましたが、その左にある石塔が刈萱道心の墓とのこと。

立札には“鎌倉時代より信濃七塚の一つとして七百余年を経たる塚なり”とありますが、真偽のほどは不明。もし事実なら、常楽寺石造多宝塔(上田市)のように国重文やそれに準ずる文化財になれると思います。

 

本堂左手前には、善光寺七福神のひとつに数えられる寿老人。

となりには稲荷社も建っています。

 

山門の脇のちょっと目立たない場所には小林一茶の句碑があります。

「花の世は 仏の身さえ 親子哉」。一茶が当地にて読んだ句とのこと。

 

以上、西光寺でした。

(訪問日2022/05/12)

*1:公式サイトより。