甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【飯田市】元善光寺(坐光寺)

今回は長野県飯田市の元善光寺(もとぜんこうじ)について。

 

元善光寺は市北部の座光寺の住宅地に鎮座する天台宗の寺院です。山号は定額山。別名は坐光寺(ざこうじ)

創建は602年(推古天皇十年)とされます。当地に住む本田善光が、難波の堀江(現在の大阪市)で捨てられていた阿弥陀如来像を持ち帰り、現在地に「坐光寺」を開いたのが始まりといわれます。阿弥陀如来像は642年に勅命で芋井(現在の長野市)へ移され、本田善光の名を冠した善光寺(信濃善光寺)が開かれました。それを受けて、坐光寺は元善光寺と呼ばれるようになりました。その後の沿革は不明。

善光寺の前身となった寺院であり、北向観音(上田市)と同様に「善光寺だけでは片参り」と言われています。境内伽藍については近現代のもので、文化財指定などはとくにありません。

 

現地情報

所在地 〒395-0001長野県飯田市座光寺2638(地図)
アクセス 元善光寺駅から徒歩10分
座光寺スマートICから車で5分
駐車場 70台(無料)
営業時間 09:00-16:30
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 元善光寺 – 南信州飯田のお寺
所要時間 15分程度

 

境内

山門

元善光寺の境内は南向き。

境内は斜面の住宅地の一画にあり、駐車場の先にこのような門が立っています。

 

階段を昇った先には山門

一間一戸、薬医門、切妻、桟瓦葺。

 

柱は角柱。

前方に腕木を持ち出し、その先の桁で軒裏を受けています。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

 

山門向かって左手には矢場。

軒下には金的中の額が奉納されていました。

 

本堂

山門の先には本堂が鎮座しています。

訪問時は御開帳だったようで、堂の前に回向柱が立てられています。また、堂内の内陣にあがることもできました。

本尊は善光寺式阿弥陀三尊。

 

本堂は、梁間3間・桁行7間?、入母屋(妻入)、桟瓦葺。

本山の善光寺本堂を意識したのか、妻入の入母屋となっています。とはいえ建築様式は撞木造ではなく、さらに裳階がない(屋根が単層)ため、善光寺本堂とはあまり似ていません。

造営年不明。案内板やパンフレットや公式サイトにも年代の記載が見つからず、文化財指定もとくにないようです。

 

向拝はありません。

母屋の正面中央の扁額は、右縦書きで「元善光寺」。

母屋柱は円柱で、組物は出組。桁下は軒支輪。

軒裏は二軒繁垂木。

 

柱の頭貫木鼻は、正面が唐獅子、側面が獏。

柱の上には台輪が通っています。

 

右側面(東面)。

軒下に小屋がついていますが、これは本堂の後方にある宝物館へつづく通路と思われます。

 

側面の軒下。

こちらにも唐獅子や獏の木鼻がついています。

台輪の上の中備えは蟇股。

 

正面の入母屋破風。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

懸魚の陰になってしまいましたが、妻飾りは虹梁と大瓶束。虹梁の下には蟇股と出三斗が並んでいます。

 

堂内には、善光寺のご多分に漏れず「戒壇巡り」がありました。1人1回に限り無料で入場できるようです。

堂内は撮影禁止のため、写真は割愛。

 

鐘楼

参道左手、本堂のはす向かいには鐘楼。

切妻、桟瓦葺。

梵鐘は戦後に鋳造されたもの。

 

柱は角柱。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

組物は出三斗。中備えは木鼻のついた平三斗。

内部は格天井。

 

切妻破風。

破風板の拝みには鰭付きの懸魚。

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は雲の意匠。

 

鐘楼の内部には古瓦が並べられています。

瓦に彫られた紋は、善光寺の寺紋の「右離れ立ち葵」なのですが、中には「違い鷹の羽」のものも混じっていました。

 

以上、元善光寺でした。

(訪問日2022/06/18)