甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【田原本町】本光明寺と春日神社(千代)

今回は奈良県田原本町千代(ちしろ)の本光明寺と春日神社について。

 

本光明寺

所在地:〒636-0246奈良県磯城郡田原本町千代1154(地図)

 

本光明寺(ほんこうみょうじ)は町中央部の住宅地に鎮座する真言律宗の寺院です。山号は無量山。

創建は不明。勝楽寺という寺院が前身にあたり、空海が高野山へ行く途中、当地に宿泊して彫像を祀ったのが勝楽寺の由来とのこと。勝楽寺は明治期に廃寺になったようですが、1898年に天理市にあった本光明寺が本尊などを引き継いで移転・合併し現在に至るようです。本光明寺の明治以前の沿革は不明。

本尊の十一面観音像は平安期の作で国重文に指定されているようですが、常時の拝観はできません。

 

境内

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本光明寺の境内は南向き。住宅地の生活道路に面しています。

右の寺号標は「第三十八番霊場 大和北部 無量山 本光明寺」。

山門は一間一戸、薬医門、切妻、本瓦葺。

 

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柱は角柱。

主柱(写真右)から女梁が出て、控柱(左)とのあいだに男梁が渡されています。薬医門の基本的な構造です。

内部に天井はなく、化粧屋根裏。

前後方向にわたされた梁は3つあり、梁の上では豕扠首が棟木を受けています。

 

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背面側には水引虹梁があり、木鼻は拳鼻が設けられています。

 

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山門の後方には鐘楼。

切妻、本瓦葺。

 

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柱は几帳面取り角柱。

虹梁は唐草が彫られ、木鼻は波(あるいは雲)の意匠の拳鼻。

柱上の組物は、大斗と実肘木を組んだもの。

 

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妻面。

虹梁中備えはいずれの面も蟇股でした。

妻虹梁は太い材が使われ、妻飾りは蟇股。

内部に天井はありません。軒裏は一重のまばら垂木。

 

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反対側、北面の妻。

妻飾りの蟇股は、雲間を飛ぶ鳳凰の彫刻。

破風板の拝みの彫刻は鶴。

 

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境内は玉砂利が敷かれ、石畳の参道がクランク状に曲がって伸びています。

本堂は入母屋、向拝1間、本瓦葺。

本尊は十一面観音。

 

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柱は細い材が使われ、縁側がなく各所の意匠もすっきりとしていて、現代的な清潔感のある作風だと思います。

 

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向拝柱は角面取り。古式を意識したのか、面取りが大きめ。

木鼻はシルエットこそ拳鼻ですが、よくある繰型ではなく若葉が彫られています。

組物は連三斗。木鼻が巻斗を介して持ち送りしています。

 

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中備えは蟇股。

こちらも古式を意識したのか、記号的というか抽象的な作風。

 

以上、本光明寺でした。

 

春日神社(千代)

所在地:〒636-0246奈良県磯城郡田原本町千代1158(地図)

 

春日神社(かすが-)は本光明寺の隣に鎮座しています。

創建は不明。平安期の『延喜式』に記載された「千代神社」の論社に比定されています。この千代神社は平安期の洪水で流出し、跡地に春日神社(旧社格では村社らしい)が造られたあとに復帰・再建されたようです。そのため、式内論社でありながら、格下のはずの村社の境内社という扱いになっているとのこと。その後の沿革は不明。

こちらはとくに文化財指定されているものはなく、社殿も小規模。本殿は小規模な春日造が3棟並立しています。

 

境内

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春日神社の境内は南向き。本光明寺の境内の東側に隣接しており、寺と神社を隔てる境界がないため、本光明寺の境内の一部のような状態になっています。

鳥居は石造の明神鳥居。

社号標は向かって左が「千代神社」、右が「春日神社」。千代神社は式内社なのですが、境内社という扱いだからなのか、社号標が瑞垣の影の目立たないところに立っています。

 

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拝殿は入母屋、桟瓦葺、向拝1間・切妻、銅板葺。

なぜか向拝部分だけ銅板で葺かれており、ちょっと変わった造り。

 

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向拝柱は角面取り。

左に見切れている虹梁は唐草が彫られず無地ですが、眉欠きだけ造形されています。木鼻は直角三角形のシルエットのもので、大仏様っぽい意匠。

組物は出三斗で、実肘木を介さず、桁を直接受けています。

 

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虹梁中備えは蟇股。前述の本光明寺本堂のものと似た作風。

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は唐草の意匠。

 

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破風板拝みには鰭のついた猪目懸魚。鰭は若葉の意匠。

大棟鬼板には三つ巴の紋。春日大社の紋は下り藤なので、意外に感じました。

 

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拝殿の後方には3棟の本殿が横並びに南面して鎮座し、その手前の左右には末社と思しき社殿が東西に向き合って鎮座しています。

社殿はいずれも春日造、銅板葺。見世棚造です。

3棟の本殿は、春日神社、千代神社、祇園神社。おそらく中央が春日神社で、式内社の千代神社は左側と思われます。

春日神社の祭神はタケミカヅチ、天児屋根などの春日神。千代神社は天棚機姫(あめたなばたひめ)とのこと。祇園神社は牛頭天王やスサノオ。

 

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本殿はいずれも同じような造りのため、向かって左側のみ紹介。

向拝柱は角柱。虹梁中備えは蟇股。木鼻は拳鼻。

正面に階段はなく、見世棚造になっています。

 

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正面の床下には白い板が張られ、青い色で紋章が描かれています。となりの2棟も同様の紋章でした。

 

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側面。

柱は円柱。柱上に組物はなく、直接柱を受ける簡単な造りになっています。壁面や中備えなどの欄間にも、とくに意匠はありません。

軒裏は、隅木のない古式の純粋な春日造になっています。

 

以上、春日神社(千代)でした。

(訪問日2021/10/14)