甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【市川三郷町】熊野神社(大塚)

今回は山梨県市川三郷町大塚(おおつか)の熊野神社(くまの-)について。

 

熊野神社は町東部の集落に鎮座しています。

創建は不明。境内には丹塗りの本殿があり、彩色された蟇股を見ることができます。本殿縁側に安置されている狛犬は室町中期のもので、初期の石造狛犬として貴重とのこと。

 

現地情報

所在地 〒409-3611山梨県西八代郡市川三郷町大塚(地図)
アクセス 甲斐上野駅から徒歩30分
甲府南ICまたは増穂ICから車で15分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

随神門

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熊野神社の入口は南西向き。集落の生活道路に面しています。

後述の社殿はいずれも北西向き。めずらしい方角です。

 

社号標は「村社熊野神社」。

鳥居は石造の明神鳥居。扁額なし。

 

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参道の右手には手水舎。切妻、鉄板葺。

随神門は三間一戸、八脚門の柱を2つ省略した形式(六脚門?)、切妻、鉄板葺。

大棟の紋は武田菱。

 

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写真左の円柱の正面には象鼻。側面にも同形の大きな象鼻。

柱は吹き放ちの正面側が円柱、後方が角柱。なんともめずらしいことに、円柱角柱が使い分けされています。随神門で柱を使い分けている例は初めて見たので驚きました。

円柱の上には出三斗が置かれているのに対し、後方はシンプルな舟肘木が使われています。

 

寺社建築において吹き放ちの空間は壁のある空間より格下であり、格下の空間には角柱や簡素な意匠を用いるのがセオリーですが、この随神門はセオリーに真っ向から反した造りをしています。

 

拝殿

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拝殿は入母屋、向拝1間、銅板葺。

山梨県神社庁によると昭和期の改修とのこと。

 

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向拝柱は几帳面取り。上端が絞られています。柱上には皿付きの出三斗。

木鼻は正面側面ともに象鼻。作風は前述の随神門のものと似ています。

虹梁中備えには蟇股。

向拝と母屋はまっすぐな懸架材でつながれています。

母屋の扁額は「熊野神社」。

 

本殿

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拝殿の後方には赤い塀に囲われた本殿が鎮座しています。

桁行正面1間・背面2間・梁間1間、一間社入母屋、向拝1間、銅板葺。

造営年は不明。江戸中期かそれ以降と思われます。

祭神はイザナミ、速玉男命、事解男命。

 

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向拝柱は角面取りされた角柱。側面には唐獅子の木鼻。

柱上には連三斗。虹梁中備えは蟇股。

連三斗の上では繰型のついた手挟が軒裏を受けています。海老虹梁等の懸架材はありません。

 

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正面には黒い板戸。扁額は判読できず。

母屋柱は円柱で、軸部は長押と頭貫で固定、柱上には台輪がまわされています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

組物は出組。桁下には軒支輪。

 

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中備えには蟇股が配置され、はらわたには彩色された彫刻があります。

こちら(北東面)は鹿らしき獣、反対側は月と兎でした。

 

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背面。こちらは2間で、中備えは省略されていました。

縁側は切目縁が3面にまわされています。脇障子は羽目板が欠損していました。

 

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破風板の拝みには蕪懸魚。入母屋破風は木連格子。

大棟は箱棟で、前面の紋は武田菱、鬼板の紋は九曜。

 

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縁側には狛犬。

安山岩製で1405年の銘があるとのこと。

 

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最後に、随神門の前から望んだ八ヶ岳。

 

以上、熊野神社(大塚)でした。

(訪問日2021/01/30)