甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【上越市】江野神社

今回は新潟県上越市の江野神社(えの-)について。

 

江野神社は国道8号沿線にある集落の裏山に鎮座しています。

創建は不明ですが、頚城郡(くびきぐん)に13ある式内社の1つであるとされる式内論社です。

社殿については特に文化財指定されておらず様式も至って標準的ですが、細部の意匠が凝っていて見ごたえあり。境内や社叢については、神社らしい雰囲気がありながらも海の見える高台となっており、単純に散策コースとしても楽しめる内容です。

 

現地情報

所在地 〒949-1602新潟県上越市名立区名立大町1335(地図)
アクセス 名立駅から徒歩15分
名立谷浜ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

参道

江野神社入口

江野神社の境内入口は西向き。後述の社殿は東向きとなっています。

鳥居は石製の明神鳥居。扁額は「江野神社」。

鳥居の先は視界が開けた明るい石段になっており、左手の眼下には名立地区の集落と国道8号線と日本海を望むことができます。

 

江野神社参道

石段を登ると参道が右に折れ、社叢が茂ってなんとなく暗い、いかにも神社らしい参道へと変貌。

 

手水舎

江野神社の手水舎と稲荷社

参道を進むと右手に手水舎と稲荷社が現れます。

手水舎は銅板葺の入母屋。

 

手水舎の軒下

手水舎の軒下。

柱は几帳面取りされた角柱。虹梁(こうりょう)の上には詰組、下には持ち送りが使われ、台輪にも木鼻が取り付けられています。

しめ縄や紙垂(しで)がきれいな状態で、よく手入れされている様子。

 

稲荷社

江野神社の稲荷社

手水舎の左隣には稲荷社。社名を示す札や扁額はありませんが、正面に狐の象があるので稲荷社としておきます。

稲荷社は銅板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。土台はコンクリートブロック。

 

稲荷社の右側面

右側面。

壁面には、狐の親子が流麗かつ柔らかな造形で彫刻されています。

壁面の上には長押が打たれ、長押の柱間には詰組が見られます。妻飾りは笈形(おいがた)付き大瓶束(たいへいづか)。

 

稲荷社の左側面

左側面。

縁側に立てられた脇障子にも彫刻があり、こちらは唐獅子が彫られています。

母屋の正面の扉は桟唐戸(さんからど)。その両脇にも竜と思しき彫刻が見えます。

 

社殿として小規模ではありますが、彫刻の造形が良くて各部の意匠も凝っているため、小ささを感じさせません。

 

拝殿

江野神社拝殿

手水舎から数メートルほど進むと、南向きの拝殿が鎮座しています。

拝殿は銅板葺の入母屋(平入)、向拝1間。

 

拝殿の向拝

向拝の軒先を支える柱は、几帳面取りされた角柱。

角柱の正面と側面には波の意匠の彫刻が付いていますが、唐獅子と象のようなシルエットをしています。

 

拝殿の虹梁

向拝の軒下にわたされた虹梁の両端には青海波の模様が刻まれています。ふつう、虹梁には植物のツタが渦を巻いた意匠が彫られるのですが、この拝殿の虹梁は海の波のような意匠。独創的でなんとなく遊び心を感じます。

虹梁の上の彫刻はおそらく中国の故事を題材にしたものですが、私の貧しい知識では題材を特定できず。

 

拝殿の向拝の軒下

母屋の正面の扉は桟唐戸。扁額は「江野神社」。

母屋柱は円柱で、柱上の組物は尾垂木が突き出た二手先。組物で持出しされた桁の下には、軒支輪が見えます。

また、写真左端に見切れている手挟(たばさみ)の彫刻も精緻です。

 

拝殿側面の軒先

拝殿の右側面。やはり新潟県は雪国なので、出の深い軒先につっかえ棒が設けられています。

側面の柱間は3間。細部の意匠は、正面側ととくに差異ありません。

 

拝殿の神木

拝殿の向拝の軒下には、このようなものが置かれています。

立札の内容を要約すると、台風で折れた木が男女の陰部に見えたので祀っています...といったところ。

 

本殿

江野神社本殿

拝殿の裏手には本殿が鎮座しています。

本殿は銅板葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。側面2間・背面3間。

正面側は通路でふさがれているため、向拝の間数は確認できず。

 

造営年代は不明ですが作風は拝殿と似ていて、おそらく明治期以降のものでしょう。

祭神はスサノオなど。諏訪系の神(タケミナカタなど)も合祀されているようです。

 

本殿の向拝軒下

写真中央の湾曲した海老虹梁(えびこうりょう)の左には、唐獅子の木鼻がわずかに見えますが、通路の屋根のせいでよく見えないのが惜しいです。

海老虹梁の下も、窓のついた壁でふさがれていて本殿の構造がよくわかりません。

 

本殿の妻壁

妻壁はかなり凝った意匠を見ることができます。

頭貫の上の欄間には波と花が彫られており、造形も非常に良いと思います。

その上には妻虹梁、蟇股と出三斗(でみつど)、小さい妻虹梁の上に大瓶束。

 

本殿壁面

壁面や脇障子はあっさりしており、一切の装飾がありません。

縁側は3面にまわされ、擬宝珠付きの切目縁(きれめえん)が縁束で支えられています。

 

本殿背面

背面の柱間は3間。

こちらもあっさりとしており、目立つ装飾は柱上の組物についた木鼻くらいです。

母屋の円柱の床下は、成形を八角柱で止めているのが確認できます。

 

境内の眺望

最後に帰り道の境内からの眺め。日本海と「道の駅 名立」が見えます。

社叢が茂って薄暗い境内と、鳥居の向こうで日に照らされた海と集落が好対照。

 

以上、江野神社でした。

(訪問日2020/04/30)