甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【上田市】別所神社

今回は長野県上田市の別所神社(べっしょ-)について。

 

別所神社は別所温泉の北側の丘に鎮座し、常楽寺と隣接しています。

創建については不明。紀州・熊野大社から勧請され、明治期まで熊野社と呼ばれていたのを現在の社名に改称したとのこと。社殿については大規模な神楽殿があるほか、江戸後期に造られた派手な春日造の本殿を見ることができます。

 

現地情報

所在地 〒386-1431長野県上田市別所温泉2338(地図)
アクセス 別所温泉駅から徒歩10分
上田菅平ICから車で30分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道

別所神社鳥居

別所神社の境内は南向き。後述の拝殿と本殿も同様です。

入口の鳥居は木製の明神鳥居。扁額は「本朝縁結大神」。

写真左の石碑は「猿田彦」とあったので、社号標ではなく道祖神の類でしょう。

 

神楽殿と拝殿

別所神社拝殿と神楽殿

参道の坂と階段を100メートルほど進むと神楽殿と拝殿が現れます。

 

別所神社神楽殿

神楽殿は桟瓦葺の切妻。

正面側は梁間に壁も柱もなく、開放的な構造。

 内部は天井がなく化粧屋根裏になっており、太い用材を組み合わせた雄大な小屋組を見ることができます。

反対側の壁も開口されていて展望台のようになっていましたが、灌木が茂っていて眺望はいまひとつでした。

 

別所神社拝殿

拝殿は桟瓦葺の入母屋(平入)、軒唐破風(のき からはふ)の向拝1間。

唐破風の中央からは亀が彫られた兎毛通(うのけどおし)が下がっています。唐破風の下の小壁には笈形(おいがた)付き大瓶束(たいへいづか)。

その下の蟇股(かえるまた)には三つ巴の紋が彫られていました。

 

本殿

別所神社本殿

拝殿の裏には本殿が鎮座しています。

一間社隅木入り春日造、銅板葺。

案内板(上田市教育委員会)によると棟札より1788年(天明八年)の造営で、棟梁は末野庄兵衛安定。末野家は塩野神社(上田市前山)の造営でも棟梁をつとめたようで、そちららは末野忠兵衛の作。末野家の作風は、江戸後期に活躍した立川流や大隅流とくらべるとやや古風とのこと。

祭神はスサノオなどの熊野権現と思われます。

 

屋根葺きについて案内板では“桟瓦葺き”と書かれていましたが、銅板葺です。なお、造営当初はこけら葺きだったとのこと。

 

本殿向拝

正面の軒を支える向拝柱は、几帳面取りされた角柱。2本の向拝柱は虹梁(こうりょう)でつながれ、中備えの蟇股には梅が彫られていました。

向拝柱に付けられた木鼻は、正面は唐獅子、側面は象。柱上の組物は出三斗(でみつど)をベースにしたもの。

 

本殿向拝

向拝の軒下を左側面(西面)から見た図。

軒裏の垂木は正面と左右にのびていて、入母屋のようになっています。垂木は二軒(ふたのき)の繁垂木で、向拝の部分は三重になっています。

向拝柱(右)と母屋(左)をつなぐ海老虹梁(えびこうりょう)は緩やかにカーブしていて、形状も意匠も江戸後期にしてはおとなしいです。海老虹梁の上では牡丹が彫られた手挟(たばさみ)が垂木を受けています。

写真右上の縋破風(すがるはふ)は、桁隠しに菊の花が3輪彫られています。

 

本殿母屋

母屋の正面には板戸があり、その両脇に彫刻がはめ込まれています。題材は竜と思われます。

母屋柱は円柱で、柱と柱をつなぎとめる長押(なげし)が打たれていますが、その釘隠しは木製で三つ巴の形になっています。

 

本殿側面

縁側は正面と左右の計3面に、切目縁(きれめえん)がまわされています。欄干は跳高欄(はねこうらん)。床下は縁束。

縁側の終端は脇障子でふさがれ、脇障子には竹が彫刻されています。

母屋柱の床下は、八角柱に成形されていました。

 

本殿側面

左側面の軒下。

頭貫の木鼻は拳鼻、頭貫の上の蟇股には菊の花の彫刻。

柱上の組物は、尾垂木が突き出た三手先。持出しされた桁の下には、雲と波の彫刻が見えます。

 

本殿背面

正面が入母屋のような構造をしていたのに対し、背面は切妻。これは隅木入り春日造の特徴。

側面と同様、こちらも三手先に持出されており、複雑な妻飾りと相まって頭でっかちな印象。

三手先に持出された妻虹梁の上には蟇股が3つ並び、中央の蟇股には亀が彫刻されています。その上にはさらに虹梁があり、笈形付き大瓶束が大棟を受けています。

 

以上、別所神社でした。

(訪問日2020/08/01)