今回は山梨県甲府市の長禅寺(ちょうぜんじ)について。
長禅寺は甲府駅の北東の住宅地に鎮座している臨済宗の寺院です。山号は瑞雲山。
室町後期に信玄の母・大井夫人が開基した寺院であり、甲府五山と呼ばれる臨済宗系寺院の中で第一位の格を持っています。伽藍についてはいずれも戦後のもののようですが巨大な門や五重塔まであり、甲府市内でも屈指の充実度を誇る名刹となっています。
現地情報
所在地 | 〒400-0023山梨県甲府市愛宕町208(地図) |
アクセス | 甲府駅から徒歩10分 甲府昭和ICから車で20分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 20分程度 |
境内
山門
長禅寺の境内は南向き。
甲府駅の北口から中央本線に沿って東(酒折駅・東京方面)へ進むと、このような巨大な山門が現れます。
山門は本瓦葺の切妻。正面3間・側面2間、柱は円柱。三間一戸。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。内部に天井はなく、化粧屋根裏。内部の梁に掲げられている扁額は「長禅安國」。
柱をよく見てみると腰が膨らんだ形状をしており、これは奈良時代の寺院建築に見られるエンタシスとか徳利柱とか言った名称で呼ばれるものです。
また、組物や貫を見ても木鼻のような装飾がつけられておらず、この点も非常に古風で復古調。
仁王門
山門をくぐった先には仁王門があります。
仁王門は本瓦葺の切妻。正面3間・側面2間、柱は円柱。三間一戸。
軒裏は二軒の繁垂木。妻壁は雲肘木など普通の寺院ではあまり見かけない意匠が使われていて面白い造りなのですが、塀に阻まれてよく観察できず。
柱は上端がすぼまった形状をしており、これは鎌倉期や室町期の禅宗様建築でよく見られる粽(ちまき)と呼ばれるもの。
仁王門の内部。扁額は山号「瑞雲山」。
三重塔
仁王門は通行禁止なので、向かって右手のほうから境内の奥へ侵入すると、三重塔(写真左)が現れます。
なお、中央奥は五重塔、右は本堂です。
三重塔は銅板葺。三重。3間四方。柱は円柱。
初重(1層目)。
軒裏は赤く塗装された二軒の繁垂木。
組物は尾垂木が突き出たもので、二手先となっています。持ち出された桁の下には軒支輪が見えます。組物のあいだには古風な蟇股(かえるまた)と間斗束(けんとづか)。
蟇股に彫刻がなく、木鼻も全く使用していない古風な意匠。
縁側は切目縁(きれめえん)で、柱は床下も円に成形されていました。
二重および三重。
大まかな意匠は初重と同じですが、こちらは組物が三手先になっており、縁側に跳高欄(はねこうらん)がついています。
二重と三重が三手先、初重は二手先で、それにあわせて初重の母屋を大きめに造っている点が大法寺(長野県青木村)の三重塔とよく似ています。
私見を述べますと、後述の五重塔よりも凝っていて見応えある造りをしていると思います。
五重塔
五重塔は銅板葺。五重。3間四方。柱は円柱。
初重。
軒裏は二軒の繁垂木。組物は尾垂木の突き出た三手先。縁側はありません。
初重から四重。
二重以降は縁側どころか窓のような意匠もなく、少々のっぺりとした印象。
三重では組物の側面が白く塗装されています。
四重および五重。
五重ではなぜか東面の軒裏の垂木が5色に塗り分けられています。
全体的に凝ったところがなくあっさりとしており、語るべき点が少なくてコメントに困る造り...
本堂と中門
本堂は塀に囲われており、中門も閉められているので遠目に眺めることしかできません。
中門は銅板葺の切妻。一間一戸の四脚門(よつあしもん)。
中央の柱は上端がすぼまった円柱、前後の柱は大きくC面取りされた角柱。
こちらもまた古風な造りですが、前後の角柱には木鼻が取り付けられており、他の伽藍よりは新式な意匠となっています。
本堂は銅板葺の切妻。
大棟には鬼瓦、破風板には懸魚(げぎょ)、妻壁には内部が彫刻された蟇股が見えます。こちらも比較的新式な意匠。
その他の伽藍
こちらは五重塔の前にある名称不明の堂。
銅板葺の宝形。東向き。
賽銭箱の隣にはなぜかお椀がいくつも伏せられていました。
鐘楼。
軒裏の垂木を受ける丸桁(がぎょう)が本当に円い断面をしていたり、柱に挿肘木(さしひじき)が使われていたりと独特です。鐘楼としては異常なまでに凝った造り。
最後に庫裏。こちらはわりと標準的で落ち着いた造り。
破風板の懸魚や妻壁の蟇股は、近現代の寺社建築らしく繊細で流麗な造形。
以上、長禅寺でした。
(訪問日2020/06/20)