今回は山梨県甲州市の向嶽寺(こうがくじ)について。
向嶽寺は市の中心部に近い住宅地に鎮座している臨済宗向嶽寺派の寺院です。山号は塩山。
創建は南北朝時代で、室町期には武田氏の保護を受けたとのこと。境内については大半が非公開となっていますが、国重文の中門や市指定文化財の仏殿を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒404-0042山梨県甲州市塩山上於曽2026(地図) |
アクセス | 塩山駅から徒歩20分 勝沼ICから車で20分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | 向嶽寺 |
所要時間 | 15分程度 |
境内
山門
向嶽寺の境内は南向き。
車道に面した入口には山門があります。寺号標には「大本山 向嶽寺」。
山門は桟瓦葺の切妻。正面1間・側面2間。いわゆる四脚門(よつあしもん)。
ふつうの四脚門は前後の柱に角柱を使いますが、この門はすべての柱に円柱が使われています。
軒裏は一重のまばら垂木。内部に天井はなく、化粧屋根裏。
扁額は「禅林■窟」(■部判読できず)。柱の頭貫には、雲状の木鼻が見られます。
左側面。
門を構成する柱は、上端がすぼまった形状。
前後(写真では左右)の柱上には出三斗(でみつど)の組物があり、その上にカーブした海老虹梁をわたして中央の柱とつながっています。
中央の柱の上には台輪がわたされており、木鼻と台輪がくっついた禅宗様の木鼻になっています。
中門
参道を進むと中門が鎮座しています。
一間一戸、四脚門、切妻、檜皮葺。
造営は室町中期とされ、この寺でもっとも古い建造物。国指定重要文化財(国重文)です。禅宗様の四脚門として貴重とのこと。
右手前の標は「南帝勅願禅窟」。向嶽寺は南朝の後亀山天皇の勅願寺だったという経緯があります。
右側面。
柱間に壁板が張られていますが、前述の山門と似た造り。
前後の柱の上には出三斗があり、中央の柱とのあいだは海老虹梁でつながれています。
柱の木鼻は雲状の意匠で、中央の柱の側面に出た木鼻は禅宗様のもの。
軒裏は一重のまばら垂木。化粧屋根裏。
中門は通行禁止となっており、境内の奥へ行くには写真右の通用門をくぐります。
ちなみに、中門の両脇に立っている築地塀(ついじべい)も県指定文化財です。
背面から見た中門。
柱間にわたされた梁の柱間には、間斗束(けんとづか)が立てられています。
背面右後方。
カーブした屋根と、その局面に追従する檜皮が初夏の青空に映えます。
仏殿
境内の中心に鎮座する仏殿の前には池があり、橋がかけられています。
橋の屋根は銅板葺の切妻。柱はいずれも角柱で、梁の下には雲状の持ち送りが、妻壁には豕扠首(いのこさす)が見られ、凝った造り。
なお、橋は通行禁止のため、池の脇へ迂回して先へ進みます。
仏殿は銅板葺の入母屋(妻入)。正面3間・側面3間。裳階(もこし)付き。
造営年は1787年(天明七年)で、下山大工・石川源三郎によって再建されたとのこと。市指定文化財です。
本尊は釈迦如来。
2階建てに見えますが、下の屋根は裳階という庇(ひさし)の一種。
真正面から見ると、清白寺(山梨市)や東光寺(甲府市)などの典型的な禅宗様建築である「方三間裳階付き」という様式によく似ています。
しかし側面から見ると、裳階の下が異様に後方に長くなっており、正面5間・側面9間というアンバランスな構成。この仏殿は開山堂を兼ねているようで、おそらくそのせいで裳階の下が異様に大きくなったのでしょう。
1階部分の正面中央とその左右は、2つ折れの桟唐戸(さんからど)。
右端と左端の柱間は、釣り鐘の形状の窓がついています。これは火灯窓(かとうまど)。
柱は裳階の下も円柱で、上端がすぼまった形状のものです。
見上げると、屋根(上)も裳階(下)も軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木が平行に伸びています。
裳階の下の組物は平三斗(ひらみつど)で、あいだに間斗束(けんとづか)が置かれています。裳階の上の組物は出組の平三斗で、あいだに蟇股と詰組が置かれています。木鼻は頭貫と台輪についており、禅宗様の木鼻。
桟唐戸や火灯窓や台輪木鼻など、部分的に禅宗様の意匠は見られます。とはいえ、禅宗様建築なら屋根の軒裏を扇垂木(垂木を放射状にのばす)にしたり詰組を多用したりするのがふつうなので、この仏殿は純然たる禅宗様建築とは言えません。
仏殿の裏手には本堂などの伽藍がありますが、一般の参拝者は立入禁止。
向嶽寺は国宝の絵画・絹本著色達磨図をはじめ、多数の宝物を所有しているものの常時の一般公開はされていません。
以上、向嶽寺でした。
(訪問日2020/05/24)