今回は長野県栄村の常慶院(じょうけいいん)について。
常慶院は千曲川沿いの田園地帯の集落に鎮座している曹洞宗の寺院です。山号は金華山。
創建は室町時代。近辺の寺院の中では伽藍が充実していて、境内には「奥信濃の陽明門」とまで呼ばれた豪華な素木の山門があり、多少の誇張はあるものの見ごたえのある内容となっています。
現地情報
所在地 | 〒389-2703長野県下水内郡栄村堺1613(地図) |
アクセス | 横倉駅から徒歩15分 豊田飯山ICから車で40分 |
駐車場 | 5台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道と仁王門
常慶院の境内は東向き。
境内の入口には仁王門があります。扁額は「信越■禅林」(■部判読できず)。
仁王門は鉄板葺の入母屋で、三間一戸。柱は角柱。
軒裏は、天井板を軒先まで延長させたような造り。屋根はもともと茅葺だったと思われます。
扁額の両脇には火灯窓のような意匠。
山門
仁王門の先へ進むと山門(楼門)が鎮座しています。
山門は鉄板葺の入母屋。正面3間・側面2間。柱は円柱。三間三戸の楼門。
大棟の紋は卍と下り藤。
1階部分。
正面は3間あり、3間とも通行可能なので三間三戸。中央の間口が若干大きくなっています。
円柱のあいだにわたされた虹梁(こうりょう)の下部には、波に亀が彫られた持ち送り。健命寺(野沢温泉村)でも同様の題材の持ち送りがありました。
虹梁の上には台輪があり、その上には人と亀と思しきものが彫られた題材不明の彫刻。
柱の正面の木鼻は唐獅子。
柱上の組物は三手先の出組で、2階の縁側を支えています。持ち出された桁にも波の意匠が彫られています。
側面は正面と同様の意匠。
ただし木鼻は唐獅子だけでなく獏(あるいは麒麟?)も使われています。
台輪の上の彫刻は牡丹と唐獅子。
背面も正面とほぼ同様。
持ち送りには鳥が彫られ、台輪の上に波の彫刻が置かれている点が正面とは異なります。
2階部分。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木で、放射状に延びた扇垂木となっています。
扁額は「解脱」。枠にも彫刻が使われています。
組物は尾垂木が突き出た三手先。持ち出された桁の下には軒支輪やびっしりと並んだ巻斗(まきと)も見えます。
台輪の上の彫刻は、おそらく麒麟。
欄干とかぶって見づらいですが、頭貫の木鼻には菊が籠彫されています。
縁側は壁面と直交に板を張った切目縁(きれめえん)。欄干は擬宝珠付き。
内部の梁。
梁の中央には大瓶束(たいへいづか)が立てられ、その両脇には波の意匠の笈形(おいがた)が添えられています。
内部は格天井になっていますが、なぜか中央部だけは板を面一(つらいち)に張った鏡天井。
鏡天井には富士山などの画が小さく書かれていますが、題材や意図がいまひとつわかりません...
本堂
楼門の先には本堂が鎮座しています。
本堂は鉄板葺の寄棟(平入)。向拝なし。
雪を落とすためか屋根の傾斜が強く、それにともなって棟が高いです。
軒裏は一重のまばら垂木。おそらくこの本堂も茅葺だったのでしょう。
柱はいずれも角柱で、柱上にはシンプルな舟肘木があるのみ。
扁額は円い板に「金華山」とあり、その両脇の青い背景に兎が描かれています。
円い扁額というのは珍しいですし、兎が描かれるのも変わっています。この円い形状は満月を意味している、というのは考えすぎでしょうか...?
いずれにせよ、製作者のセンスと遊び心が感じられて、おもしろい扁額だと思います。
以上、常慶院でした。
(訪問日2020/05/01)