今回は長野県野沢温泉村の健命寺と湯沢神社について。
現地情報
所在地 | 〒389-2502長野県下高井郡野沢温泉村大字豊郷9320(地図) |
アクセス | 上境駅から徒歩1時間 豊田飯山ICから車で20分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
健命寺
健命寺(けんめいじ)は野沢温泉村の中心市街に鎮座する曹洞宗の寺院です。山号は薬王山。
創建は室町後期で、越後の上杉氏から寄進を受けていたようです。また、信州名物・野沢菜の発祥地だという伝承もあります。
伽藍については雪国に特有の大型本堂があるほか、独特な構造をした名称不明の堂があります。
参道
健命寺の境内は南向き。
境内入口には銅板葺の高麗門が建っており、扁額は山号「薬王山」。
門の先には本堂へと続く石段があり、苔むしていて良い雰囲気だったのですが、訪問時は工事中で通行止め。迂回を余儀なくされました。
迂回路の途中にあった温泉薬師堂。
銅板葺の入母屋、軒唐破風(のき からはふ)の向拝1間。柱はいずれも角柱。
案内板(野沢組総代)によると1953年(昭和28年)の再建で、“堂内に安置されている本尊脇侍及び十二神将は、わが国現代仏像彫刻界の第一人者(故)大内青圃先生の作”とのこと。
本堂
そしてこちらが健命寺本堂。
本堂は鉄板葺の寄棟(平入)。向唐破風(むこう からはふ)の向拝1間。
年代は不明ですが、おそらく明治期以降と思われます。
屋根から向拝のような庇が突き出ていますが、その軒先は明らかに後付けのつっかえ棒で支えられています。そして庇の軒下から向唐破風の向拝が突き出ています。積雪対策でしょうか。
また、雪を落とすためか屋根の傾斜が強く、それにともなって大棟がかなり高くなっています。
向唐破風の向拝。大量の彫刻で埋め尽くされています。
棟の鬼板は唐獅子。唐破風の兎毛通と桁隠しは菊と牡丹。軒下は竜。
虹梁の中備えには題材不明の人物像。向拝柱の木鼻は唐獅子と象。写真下端には波の意匠の持ち送りが見切れています。
軒裏は二軒(ふたのき)の扇垂木。
組物から突き出る尾垂木には、象の頭の意匠が彫られています。個人的にここの意匠はなかなか秀逸だと思います。
組物で一手先に持出された桁の下には軒支輪。頭貫の木鼻は、台輪にも木鼻がついた禅宗様の意匠。
名称不明の堂
そしてこちらが健命寺の最大の見どころといえる、名称不明の堂。本堂とはす向かいに建っています。
銅板葺の宝形、2層。正面3間・側面3間。軒唐破風の向拝1間。
年代は不明ですが、彫刻の造形と作風からして本堂と同年代のものと思われます。
多宝塔でもなければ三重塔でもなく、禅宗様建築でよくある裳階付きの入母屋でもない... 他に類例を見たことのない、なんとも珍妙な建築。
1階の向拝の軒下。向拝柱は几帳面取りの角柱です。
唐破風の兎毛通は鳳凰、桁隠しは牡丹。
虹梁の中備えは竜、木鼻は唐獅子と象(あるいは麒麟?)、持ち送りは波。
持ち送りの波の彫刻。波の中に亀が泳いでいます。
向拝の左側面。
写真上端の縋破風(すがるはふ)の桁隠しは鶴。
写真中央で垂木を受けている手挟(たばさみ)は、鷹と思しき鳥が彫刻されています。ここに鳥を彫るのは珍しいです。
母屋(写真左)と向拝柱をつなぐ海老虹梁(えびこうりょう)は、なだらかなカーブを描いています。
母屋の正面は2つ折れの桟唐戸(さんからど)。
桟唐戸の上の彫刻は、地中からの光に驚く老人2人が彫られています。題材はよくわかりません...
1階部分は側面4間となっていますが、後方の1間は後付けのように見えます。
母屋の柱は円柱が使われていますが、床下は八角柱になっています。
写真左に写っている窓は、火灯窓(かとうまど)。
1階の軒裏は二軒の平行垂木。
組物は二手先の出組で、尾垂木が突き出たもの。
木鼻は、台輪に平べったい木鼻がついています。台輪にだけ木鼻をつけるのも、かなり独特。
2階部分。
1階の軒裏が平行垂木だったのに対し、こちらは扇垂木。
軒下の組物や木鼻などの意匠は1階部分と大差なしでした。
壁板は横方向に張られています。
湯沢神社
湯沢神社(ゆざわ-)は健命寺に隣接して建っています。
創建年代や祭神などは不明。本殿も覆い屋の中にあって鑑賞不可ですが、拝殿の向拝は精緻な彫刻で埋め尽くされています。
参道と拝殿
湯沢神社の境内は南向き。
入口の鳥居は木製の両部鳥居。柱の転び(傾斜)は弱め。扁額は「湯澤神社」。
なお、前述の健命寺と隣接していて柵などの仕切りもないので、湯沢神社の境内は健命寺の敷地の一部といった感じ。
拝殿は鉄板葺の入母屋(平入)。向唐破風の向拝1間。
母屋は雨戸で閉められています。
こちらの拝殿も、向拝の軒下が非常に豪華。
唐破風の兎毛通は鳳凰、桁隠しは鶴。
虹梁の中備えは竜、木鼻はこちらを振り向いた唐獅子、持ち送りは波。
持ち送りの波にはコイと思しき魚が彫られていました。タイ焼きみたいなフォルム。
本殿については覆い屋の中にしまわれており、鑑賞できず。
案内板(野沢温泉村の設置?)に小さく写真と解説があって、それによると本殿は一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)で、宝永年間(1704-1711年)に越後の工匠が造ったものとのこと。
以上、健命寺と湯沢神社でした。
(訪問日2020/05/01)