今回は書評として『宮大工と歩く千年の古寺 ここだけは見ておきたい古建築の美と技』について紹介いたします。
寺社建築について解説した書籍はあまり数が多くないですが、そのほとんどは読者が建築についてある程度の知識を持っていることを前提に書かれており、そういった知識がなかったり専門用語になじみのない人にとっては難しくてとっつきにくい書籍ばかりかと思います。
そのような人に、寺社建築の入門として読んでほしいのが『宮大工と歩く千年の古寺 ここだけは見ておきたい古建築の美と技』です。
本書では実際の寺社を例にして見どころの解説をしており、題名のとおり「ここだけは見ておきたい」点がポイントを絞って易しい文体で解説されています。
また、寺社建築の書籍ははっきり言って需要が少ないのでやや高価格な傾向がありますが、本書は文庫版も販売されていて手に取りやすい価格となっています。
概要
著者
松浦昭次(まつうら しょうじ)
- 1929年、静岡県生まれ
-
1946年、父の跡を継いで宮大工となる
国宝5か所、国指定重要文化財27か所の修理に携わり、文化財専門の最後の宮大工といわれる。著書に『宮大工 千年の知恵』(祥伝社)など。
書籍情報
タイトル | 宮大工と歩く千年の古寺 ここだけは見ておきたい古建築の美と技 |
著者 | 松浦昭次 |
出版社 | 祥伝社黄金文庫 |
サイズ | A6版 260ページ ソフトカバー |
定価 | 571円+税 |
内容
全編を通して実際の寺社を例にした解説となっており、寺社建築の楽しみかたや魅力をさまざまな観点から述べつつ、各種の基本的な建築用語の説明をしています。
いずれの章も寺院建築がメインですが神社建築にも応用でき、寺社建築の入門書といえる内容となっています。
- 1章 法隆寺を歩く
- 2章 華麗なる「平安時代」を歩く
- 3章 技術の粋、多宝塔を歩く
- 4章 湖東三山と山寺を歩く
- 5章 のびやかな「中世」瀬戸内を歩く
良い点、悪い点
読んでみて良かった点と悪かった点を下記に箇条書きします。
良い点
- 宮大工が寺社を解説した書籍は貴重
- 実際の寺社を観光ガイドのように解説してくれている
- 基礎的な用語から説明がなされており、入門者にも配慮されている
- 写真や図にキャプションや矢印が配置されていて分かりやすい
- 寺院だけでなく、神社にも応用できる基礎的な内容
- 巻末に索引があり、簡単な用語辞典としても利用できる
悪い点
- 解説する寺社が偏っている(鎌倉以前の寺社で、西日本にあるものがほとんど)
- 江戸期、室町期あたりの寺社の解説がほとんどない
- 寺社や見どころについての記述は良くも悪くも著者の好みが反映されている
総評
寺社建築についての書籍は建築科の大学教授などが書いた学術的なものが多い中、本書は研究者ではない宮大工が入門者の立場から易しく解説しており、寺社建築について知りたい人はまずこれを読んでみるのが良いかと思います。
私の個人的な意見としては、解説している寺社は鎌倉期以前の非常に古いものが中心のため、江戸期の新しい寺社建築を鑑賞するうえでは今ひとつ参考にしづらい点が気になりました。
良書であり価格も手ごろですので、寺社建築についてある程度知っている人でも手に取ってみる価値は大いにあります。
以上、『宮大工と歩く千年の古寺 ここだけは見ておきたい古建築の美と技』の書評でした。