甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【坂城町】坂城神社

今回は長野県坂城町の坂城神社(さかき-)について。

 

坂城神社は坂城町の中心部近くに鎮座しています。

自治体名を冠するだけでなく埴科郡(はにしなぐん)の延喜式内社の1つに比定される古社で、戦国期には村上氏や武田氏の庇護を受けていたようです。社殿は江戸初期あたりのやや古いもので、決して派手ではないものの禅宗様の要素や独特の意匠が見られ、小規模ながらおもしろい内容となっています。

 

現地情報

所在地 〒389-0601長野県埴科郡坂城町大宮1205(地図)
アクセス 坂城駅から徒歩10分
坂城ICから車で10分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道

坂城神社一の鳥居

坂城神社の境内は南向き。

一の鳥居は木製の両部鳥居で、笠木に反りがついていません。扁額はなく、額束になっています。

さほど車通りの多い道ではないものの、当然ながら鳥居の下ですれ違いできないので、対向車がいるときは退避する必要があります。

 

坂城神社の境内

鳥居の先へ進むと、瑞垣に囲われた境内の敷地に入ります。

訪問時はちょうど桜の季節でした。

 

手水舎

坂城神社の手水舎

参道の右手には手水舎。銅板葺の切妻。柱は内に転び(傾き)がついています。

しっかりと水が出ており、ひしゃくもきれいなものが置かれていてよく手入れされている様子。

私の主観になりますが、北信地方(とくに長野市・千曲市のあたり)の手水舎は参道の右手にあることが多いように思います。

 

坂城神社の手水舎の軒下

手水舎の軒下はなかなか凝った意匠が見られます。

梁の上には波をかたどった蟇股(かえるまた)。柱は几帳面取りされており、側面には象のようなシルエットの木鼻が付いています。

軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。内部に天井はありません。

 

狛犬

坂城神社二の鳥居

参道を進むと二の鳥居があり、その先に拝殿があります。

二の鳥居は石製の明神鳥居。貫(しめ縄がかかっている水平材)がやや大きめのバランス。

 

坂城神社の狛犬

坂城神社の狛犬

参道の左右には、独特なプロポーションの狛犬が屋根で保護されています。

坂城町の指定文化財で、江戸中期のものとのこと。

案内板(坂城町教育委員会)によると“全体小形であるが、胴はよくしまり、胸の張りも広く、引き締まった姿”であり、“造形的にみて、中世の面影が認められる”らしいです。

 

拝殿

坂城神社拝殿

拝殿は桟瓦葺の入母屋(平入)。向拝なし。

屋根の上にはしゃちほこ。白い幕には梶の葉が描かれており、これは諏訪の系統の神社の紋です。

 

坂城神社拝殿の軒下

軒裏は一重の繁垂木。扁額は「坂城神社」。

軒下に目立つ意匠はとくに無く、木鼻のついた平三斗(ひらみつど)の組物があるくらいでした。

 

本殿

坂城神社本殿

拝殿の裏には板塀に囲われた本殿が鎮座しています。

本殿は銅板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。1688年の造営

主祭神は大国主。ほか、大国主の子である事代主とタケミナカタ(諏訪大社の祭神)などが合祀されているとのこと。

 

坂城神社本殿の向拝

正面の軒先を支える向拝柱は、C面取りされた角柱。造営が古い本殿ほど角柱のC面の幅が大きい傾向がありますが、この角柱のC面は江戸初期~中期のものにしては大きめです。

向拝柱の側面には、雲状の意匠の木鼻。正面の階段は、角材ではなく板材を組み合わせたものとなっています。

 

向拝柱が角柱であるのに対し、母屋柱は円柱。

母屋の正面の扉は桟唐戸(さんからど)。梶の葉の紋が金色で描かれています。扉の上の蟇股にも梶の葉があり、諏訪の系統であること執拗にアピールしています。

 

坂城神社本殿の海老虹梁

向拝(左)と母屋(右)をつなぐ海老虹梁(えびこうりょう)は、ゆるやかなカーブを描いて垂木すれすれの場所を通っています。

母屋の組物は出組ではないのですが、3つ並んだ斗(ます)が重なっていて少し複雑な構成をしています。

写真右下に見切れている母屋の頭貫の木鼻は、渦巻き状の拳鼻。しかし頭貫の上にある台輪にも木鼻が付いており、禅宗様の木鼻となっています。

 

坂城神社本殿の妻壁

左側面の妻壁。

梁の上では大瓶束(たいへいづか)が棟を受けていますが、大瓶束の両脇には角柱の棒材が斜めに添えられていて、豕扠首(いのこさす)と融合したような意匠。

神社の妻壁の意匠は、古風な社殿には豕扠首を、派手で新しい社殿には大瓶束をつかう傾向があります。しかしこの本殿の妻壁は、豕扠首と大瓶束のハイブリッドとなっています。

このような意匠は初めて見たので感心しました。

 

大瓶束の下で梁を受けているのは間斗束(けんとづか)。

 

坂城神社本殿の縁側

縁側は3面にまわされており、壁面と直交に板を張った切目縁(きれめえん)です。見切れてしまっていますが欄干は跳高欄(はねこうらん)。背面をふさぐ脇障子には、彫刻などの装飾は使われていません。

 

坂城神社本殿の背面軒下

背面の軒下。

こちらも、頭貫だけでなく台輪にも木鼻がついています。

側面の張りは持出しされていませんでしたが、背面の桁は出組になっていて一手先に持出しされています。

 

坂城神社本殿の背面床下

背面。こちらは縁側がありません。

江戸時代の造営なので、母屋柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」となっています。長押の上は円柱、下は八角柱になっている様子がはっきりと観察できます。

 

坂城神社本殿の屋根

屋根は箱棟になっており、上には千木と鰹木。棟の正面の紋は梶の葉。

千木は置き千木で、先端が垂直にカットされた外削ぎ。長方形の風穴があいています。鰹木は5本。

 

以上、坂城神社でした。

(訪問日2020/04/14)