今回も山梨県身延町の久遠寺について。
当記事では本堂などの伽藍について述べます。
手水舎と鐘楼
斜行エレベーターを降りると本堂の左手に出ます。
写真は三門からつづく石段の終点から本堂を見た図。左は五重塔、右は手水舎です。
手水舎は本瓦葺の入母屋。柱は円柱。
手水舎にしては柱が太く、豪華な造り。当然のことながら、しっかりと水が出ていてよく手入れされています。
大鐘楼は本瓦葺の入母屋。3間四方で、柱は円柱。
入母屋破風(はふ)の内部の妻壁には、虹梁(こうりょう)や大瓶束(たいへいづか)などの意匠が見られます。
軒裏は二軒の繁垂木。
柱は計12本も使われており、柱上には三手先の組物が置かれ、木鼻にも彫刻があるなど非常に派手。
木鼻の彫刻は唐獅子なのですが、柱間にある木鼻(写真右下と左下)はよく見てみると唐獅子ではなく、唐獅子のようなシルエットをした牡丹が籠彫(かごほり)されていました。
中央の柱間に渡された梁の上には、唐獅子の顔がついた束が置かれています。また、梁の下部にある錫杖彫りも独特。
五重塔
本堂とはす向かいの位置には五重塔が立っています。
五重塔は本瓦葺で、3間四方。5層。高さ39メートル。
2008年に完成したもので、明治期の大火で焼失した塔を復元したとのこと。
1層目。写真下部中央の扉は桟唐戸(さんからど)。梁の上には彩色された蟇股(かえるまた)が置かれており、蟇股の内部には干支が彫られていました。
組物は木鼻のついた三手先で、組物のあいだには巻斗の並んだ梁や支輪があります。母屋の角部の組物からは、和様の尾垂木が出ています。
2層目以降は、1層目を簡略化した造り。蟇股があった場所は、かわりにシンプルな間斗束(けんとづか)を置いています。
本堂
本堂は本瓦葺の入母屋。
真正面から見ると、平入の入母屋に千鳥破風をつけただけのように見えますが、斜めから見ると2つの入母屋を交差させた構造になっています。
外部の柱は角柱で、向拝7間、母屋の正面も7間。側面は、奥行きが深くて数え切れず。パンフレットによると正面32メートル、側面51メートルとのこと。昭和期の造営です。
向拝の軒下。
極太の角柱に梁が渡されており、それが7つも連続する様は圧巻。
柱を観察してみると、側(がわ)は木材ですが内部は鉄筋が入っている様子でした。
堂内には自由に入ることができ、仏壇や天井絵を拝観できます。なお、堂内は撮影禁止。
また、堂内の床下(地上部)には宝物館が併設されています。見学は300円。国宝の絵図「夏景山水図」をはじめ重要文化財クラスの歴史資料や芸術作品が多数あり、おまけでお手軽な写経体験もできます。
見学してみたものの、絵の良し悪しが分からないので国宝の絵画についてはノーコメント... 写経については、私はどうしようもない悪筆なので断念しました。
祖師堂
本堂の右隣にある派手な仏堂は祖師堂。日蓮を祀る堂とのこと。1881年の造営。
本瓦葺の入母屋。正面側は妻入、後方は平入になっていて、長野市や甲府市の善光寺本堂の「撞木造」(しゅもくづくり)を彷彿とさせる構造です。
向拝は3間で軒唐破風付き。母屋は正面7間ですが、側面は奥行きが深すぎて数えられず。
妻壁の虹梁の上では、大瓶束と鬼が配置されています。鬼はカラフルに彩色されているせいかコミカルで愛嬌のある造形に見えます。
向拝の軒下。組物や彫刻はいずれも極彩色に塗装されています。
兎毛通は鳳凰、虹梁の中備えは竜、木鼻は唐獅子と象。持ち送りは籠彫の波。手挟は籠彫の菊。
母屋の扉の上に掲げられた扁額は「棲神閣」。
祖師堂の前にある香炉の東屋(?)は、小品ながら凝った造り。
軒裏は扇垂木。組物は二手先で詰組。組物のあいだには松の木と思しき彫刻。
弓なりに湾曲した虹梁の上には龍。柱は角柱で、木鼻には唐獅子と獏が彫刻されています。
極彩色の祖師殿に対し、素朴な白木の彫刻が好対照。
その他の伽藍
他にも多数の伽藍がありますが、キリがなくなってきたので以降は端折り気味に紹介します...
祖師堂の右隣には報恩閣なる建物。お祓いなどの受付のほか、参拝者用の休憩室や日蓮の生涯の解説パネルなどがあります。
内部はともかく、あまり寺院らしくない外観が特徴的。とはいえ、よくみると正面の軒のカーブは仏堂の軒先でよく見る「唐破風」に通じるものがあります。
報恩閣の右隣は拝殿。この拝殿の奥には日蓮の遺骨を納めた御真骨堂という堂があるようですが、さすがに一般の観光客は拝観できません。
拝殿は銅瓦葺の入母屋(平入)。向拝1間。
拝殿の向拝は極彩色で、前述の祖師堂の規模を落とした感じ。
兎毛通には仙人の彫刻、唐破風の小壁には鶴、虹梁の中備えは亀、虹梁の下の持ち送りは波に竜、柱の木鼻は唐獅子と獏。
拝殿の右隣には「仏殿」というちょっと雑な名称の堂。
銅瓦葺の入母屋(平入)、向拝3間。
仏殿の向拝の軒下には白木の彫刻。
中備えは鞠と牡丹に戯れる唐獅子、虹梁の下の持ち送りは題材不明の籠彫り、向拝柱は几帳面取りで木鼻は唐獅子と獏。
向拝柱と母屋柱をつなぐ海老虹梁には竜が彫刻されています。
境内の東端にあるのは客殿。
向唐破風の屋根がつき出ていますが、高すぎて雨よけにならないからか庇が設けられています。
兎毛通は鳳凰。大瓶束の結綿には唐獅子の顔。梁の下の彫刻はあまり目立たないですが精緻で、竹に虎、波に亀などが題材。
客殿の南には「甘露門」という門。
前編で述べた総門と似た造りの薬医門。梁の両端につけられた拳鼻が印象的。
先ほども鐘楼がありましたが、こちらの鐘楼はパンフレットによると「時鐘」とのこと。銅瓦葺の入母屋。
納牌堂。多宝塔のようなデザインになっており、上部は釈迦殿という名前がついている模様。
その他の伽藍はこれにておわり。最後に本堂と祖師堂と桜。
以上、久遠寺でした。
(訪問日2020/03/20)