今回は長野県佐久穂町の平林神社(ひらばやし-)と千手院(せんじゅいん)について。
平林神社
所在地:〒384-0611長野県南佐久郡佐久穂町平林226(地図)
平林神社(ひらばやし-)は羽黒下駅のある集落に鎮座しています。
境内に案内板などはなく詳細不明ですが、本殿には詰組が使われていて甲州(山梨県)の神社からの流れを感じる作風となっています。
境内
平林神社の境内は西向き。入口には石製の明神鳥居。
拝殿は切妻(妻入)。本殿の覆いと一体化したタイプのもので、こうした拝殿は佐久地域でしばしば見かけます。
扁額は「平林神社」。
拝殿および覆い屋の内部には本殿が鎮座しています。
本殿はこけら葺きの一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。
母屋柱は円柱、向拝柱は角柱。縁側はくれ縁のようで、欄干はついていません。
造営年代は不明。特に文化財指定もされていないようなので、江戸初期かそれ以降のものでしょう。全体的に質素で、年代推定が難しい見た目をしています。
右側面。覆い屋の屋根は鉄板葺ですが、化粧天井裏になっています。
本殿の屋根の上には外削ぎの千木と3本の鰹木。破風板からは懸魚と桁隠しが垂れ下がっています。
覆い屋の格子がやや邪魔ですが、母屋側面の組物は木鼻のついた出組。
一間社なので正面も側面も1間なのですが、組物の配置を見ると詰組(柱間に置く組物のこと)になっています。神社本殿に詰組を使う例は山梨県(とくに郡内地方)に多いですが、佐久地域はもちろん長野県内でもほぼ見られません。
背面側も、頭貫の柱間に詰組が配置されています。
屋根のこけらや壁板の保存状態がかなり良く、それだけに全体を見られないのが惜しいです。できれば背面の床下も見ておきたかったところ。
以上、平林神社でした。
千手院(津金寺)
所在地:〒384-0611長野県南佐久郡佐久穂町平林263(地図)
千手院(せんじゅいん)は平林神社のある集落を少し奥に入った先に鎮座しています。
境内には大型の観音堂があり、観音堂は規模の大きさだけでなく細部の意匠も見ごたえがあります。
境内
千手院の境内は南西向き。境内の入口には仁王門があります。
仁王門は桟瓦葺の切妻。三間一戸の八脚門。柱はいずれも角柱。
扁額の字は「観世音」、ちょうちんには「大悲観世音」とあります。
仁王門内部は天井がなく、化粧屋根裏。
梁や貫が複雑に渡されています。妙な構造になっているので、増改築によってこのような造りになったように見えます。
仁王門の向かって左には、本堂に通じる通用門があります。
通用門は桟瓦葺の切妻。本堂は銅板葺の入母屋、向唐破風の向拝1間。
仁王門をくぐって参道を進むと、観音堂が鎮座しています。
観音堂は鉄板葺の入母屋(平入)。正面5間・側面4間、向拝1間。
造営年代は不明ですが、江戸初期かそれ以降でしょう。
向拝柱はC面が大きく取られた角柱。
2本の向拝柱をつなぐ虹梁(こうりょう)の中備えには組物が置かれており、その両脇は蟇股(かえるまた)。虹梁の両端の木鼻は、正面側が唐獅子、側面側が象。鰐口は虹梁から吊るされています。
向拝を右側面から見た図。
向拝柱と母屋柱はまっすぐな梁でつながれていますが、この周辺はなかなか面白いレイアウトになっています。
梁の下部は、木鼻の上に乗った斗(ます)によって持ち送り。垂木を受ける手挟(たばさみ)は牡丹が立体的に彫られていますが、斗を介して梁の上に乗っています。
梁の中央に立つ大瓶束の上では、湾曲した海老虹梁が母屋へとつながっています。この海老虹梁そのものはべつだん珍しくないのですが、木鼻が付けられているのが独特。
右側面の破風。
大棟の鬼板には鬼の面。破風板からは懸魚が垂れ、妻壁の梁の中央には蟇股が置かれています。
母屋の柱は円柱、頭貫には木鼻。組物は木鼻のついた出組。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。
縁側は、壁面と直交に板を張った切目縁(きれめえん)がまわされています。欄干は擬宝珠付き。
堂内は外陣と内陣に分けられており、外陣までなら入ることができます。
母屋正面の扉は桟唐戸。内部の柱はもちろん円柱で、梁の持ち送りに挿肘木(さしひじき)の組物が使われています。
向拝の意匠が立派でしたが、外陣にも欄間に凝った彫刻があり、見応えと有難みのある造り。
観音堂の左手には鐘楼。鉄板葺の寄棟。内部には梵鐘があります。
天井板を軒先まで伸ばしたような構造になっており、軒裏の垂木は見えません。
部材が現代的であまり古さは感じないものの、建物のシルエットや火灯窓のおかげで、内部を見ずとも遠目にでも鐘楼だとわかります。
以上、千手院でした。
(訪問日2020/02/23)