甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【中央市】八幡穂見神社

今回は山梨県中央市の八幡穂見神社(はちまんほみ-)について。

 

八幡穂見神社は布施地区の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。『延喜式』に記載された「穂見神社」に比定される論社のひとつ。『甲斐国志』(1814年編纂)によると仁安元年(1166年)の造営の棟札があったらしく、平安後期には確立されていた可能性があります。1449年(文安二年)には、地頭の穂坂小次郎光重という人物によって社殿が再建されたとのこと。

現在の本殿は江戸前期に再建されたもので、安土桃山風のやや古風な技法で造られているだけでなく、正面の間口が2間ある「二間社」というめずらしい様式です。屋根は桧皮葺が維持され、甲府盆地西部では希少な建築であるため、県指定の文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒409-3841山梨県中央市布施2034(地図)
アクセス 常永駅または小井川駅から徒歩15分
甲府昭和ICまたは甲府南ICから車で15分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道と社殿

八幡穂見神社の入口

八幡穂見神社の境内は南向き。

鳥居は石製の明神鳥居で、笠木が大きく反ったシルエット。扁額は判読不能。

鳥居の左手前には、鉄板葺の切妻の手水舎があります。

 

八幡穂見神社の随神門

随神門は鉄板葺の入母屋(平入)で、三間一戸。柱は角柱。

側面は2間ありますが、正面側の1間は壁のない吹き放ち。こういった構造の門は甲府盆地の寺社でしばしば見かけます。

虹梁(こうりょう)の上には蟇股(かえるまた)が3つ置かれています。

大棟に描かれている紋は三つ巴。

 

八幡穂見神社の拝殿

拝殿は鉄板葺の切妻。向拝1間。

特にこれといった意匠はありません。

 

本殿

八幡穂見神社本殿

拝殿の裏にはまばらな塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神は誉田別命(八幡宮)と保食神(ウカノミタマ、穂見神社)。

 

桁行2間・梁間2間、二間社流造、向拝2間、檜皮葺。

1671年(寛文十一年)再建*1。案内板によると、1729年、1848年、1890年、1923年に修理が行われたとのこと。

様式についての解説は下記のとおり。

 本殿の建築は向拝付二間社流造、檜皮葺で随所に和様、宋様、天竺様等各種の手法が混用された折衷様式で、その建立は古く、今なお細部に室町あるいは桃山的な古風を残している。

 

八幡穂見神社本殿の左正面

写真奥の母屋(建物の本体)は正面の間口が2間ある「二間社流造」(にけんしゃ ながれづくり)という様式。神社の本殿は一間社と三間社が9割以上を占めるため、二間社はとてもめずらしいです。

 

母屋の正面には板戸の扉が2組ついており、それぞれに扁額が掛けられています。右側の扉の上の扁額はかなり退色していましたが辛うじて「八幡宮」と判読できました。左側は判読できなかったですが、穂見神社が祀られているのでしょう。

 

写真手前の階段の下に立つ向拝柱は3本立っているため、向拝2間となっています。二間社は向拝1間であることが多いので、「母屋も向拝も2間」というのは珍しいです。

向拝柱をつなぐ虹梁は、中間の中備えに蟇股が配置されています。向拝柱の上では木鼻のついた組物が丸桁(がぎょう)を受けています。

 

八幡穂見神社本殿の屋根

左正面から屋根を見上げた図。

屋根は正面側が長く伸びており、こちら側から見ると破風板(はふいた)がひらがなの「へ」の字を描くのが流造の特徴。破風板からは懸魚(げぎょ)が4つ垂れ下がっています。

屋根に使われているのは檜皮(ひわだ:ヒノキの樹皮)で、神社建築の屋根葺きとして最上の格があります。檜皮の柔軟性を生かしたやわらかな曲面が美しいです。

 

八幡穂見神社本殿の向拝の軒下

向拝の軒下を左側面から見た図。

これといって目立つ彫刻は使われていません。江戸初期の造営で案内板いわく“室町あるいは桃山的な古風”とのことですが、どちらかと言えば安土桃山よりも室町の作風が色濃いように思えます。

母屋と向拝柱をつなぐ部材はなし。屋根裏の垂木は、正面側は三重になっています。

 

八幡穂見神社本殿の妻壁

左側面の妻壁。

側面は2間で、柱をつなぐ頭貫にはシンプルな木鼻が付けられています。

木鼻は今日の神社建築では当たり前に使われる部材ですが、平安以前の神社では使われておらず、鎌倉期に禅宗様(唐様、宋様ともいう)が伝来したことで神社にも普及したとされています。なので、案内板の言う“宋様”はこの木鼻のことを指していると思われます。

 

頭貫の上には台輪を介して組物が置かれており、妻の虹梁は一手先の出組で持出しされています。虹梁の下には蛇腹状の支輪が見えます。

梁の上では木鼻のついた大瓶束(たいへいづか)が、組物を介して棟を受けています。

 

八幡穂見神社本殿の背面

背面には、柱の軸上だけでなく柱間にまで組物が配置されています。これは詰組(つめぐみ)と言い、禅宗様の典型的かつ特徴的な意匠。ふつうなら神社には使わないのですが、なぜか山梨県の神社本殿には詰組を採用した例がしばしば見受けられます

 

八幡穂見神社本殿の床下

母屋柱は床下も円柱になっています。

縁側は3面にまわされているため、背面にはありません。背面側は彫刻のないプレーンな脇障子でふさがれています。この写真ではわからないですが、縁側は欄干に擬宝珠が付いた切目縁でした。

 

以上、八幡穂見神社でした。

(訪問日2020/01/24)

*1:案内板(中央市教育委員会による設置)より