今回は山梨県都留市の八王子神社(はちおうじ-)について。
八王子神社は都留市外の北部に鎮座しています。
この地域では入母屋の本殿がとても多いのに対し、八王子神社の本殿は流造。細部の意匠を見ても、近辺の神社本殿とは時代や作風がちがっていて若干古いものである(と思われる)点が興味深いです。
現地情報
所在地 | 〒402-0004山梨県都留市古川渡891(地図) |
アクセス | 禾生駅から徒歩5分 都留ICから車で5分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
鳥居と拝殿
八王子神社の境内は北西向き。珍しい方角を向いています。
鳥居は赤い両部鳥居で、前後の柱もやや内側に傾いています。扁額はなし。
拝殿は鉄板葺の切妻(平入)。向拝1間。
後方に見える屋根は本殿の覆い。写真右端の紙垂のかかった大木はイチョウ。
本殿
拝殿の裏には覆いがかかった本殿があります。
本殿は鉄板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。
造営年代は不明。山梨県神社庁によると“宝暦九年五月現在地に社殿を造営遷宮せり”とのことで、この本殿の作風を見ても宝暦九年(1759年)のものと判断してよさそうです。
祭神については、八王子神社なのでスサノオの子の八柱が祀られているとのこと。
虹梁(こうりょう)の上には内部がくり抜かれた蟇股(かえるまた)。両端の木鼻の彫刻は唐獅子と獏ですが、あまりエッジの立っていないゆるめの造形と赤をベースとした配色のせいで、なんとなく会津の「赤べこ」のような雰囲気。
獏と獅子の上では、木鼻のついた出三斗(でみつど)の組物が軒を受けています。手挟(たばさみ)には赤と緑に塗り分けられた牡丹が籠彫(かごほり)で造形されています。
母屋の正面。
黒い板戸の両脇には、昇り龍・下り龍の彫刻。長押の上の蟇股には青い波と謎の人物像がついていました。
向拝を右から見た図。
写真左上に写っている破風板の桁隠しは、手挟と同様に赤と緑に塗装された牡丹の意匠。
屋根裏の垂木は、正面側だけ三重の三軒(みのき)になっています。
向拝柱と母屋柱をつなぐ海老虹梁(えびこうりょう)は、高低差のほぼないところをつないでいるためかカーブは非常にゆるやかで、あまり“海老”という感じがしません。
縁側は正面と左右の計3面にまわされ、背面側は脇障子でふさがれています。欄干は擬宝珠付き、床板は壁面と直交の切目縁。
縁側の床下は木鼻のついた三手先の出組で受けられています。母屋の柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」という定番の手抜き工作がなされていました。
右側面の妻壁。
頭貫の上の蟇股(かえるまた)には題材不明の人物像があります。
組物は二手先の出組で、斜めに突き出た尾垂木は途中で下向きに折れるように曲がっています。尾垂木は曲線状に曲がっているのが普通ですが、こんな角張った曲がりかたをしているのはちょっと変わっています。
組物で持ち出された太い梁の下は、赤と黒に塗り分けられた支輪。梁の上では大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。大瓶束の両脇には、雲の意匠の笈形(おいがた)が添えられています。
背面の蟇股にも人物像が彫刻されています。
大棟を見ると、なぜか鬼の面が2つ取り付けられています。山梨県の神社本殿は鬼板に鬼面をつけることが多く、この本殿もそれに該当しますが、大棟の平の面に鬼面を付けるのは珍しいと思います。
大棟の両端にはちょっと大げさなサイズの鬼板があり、鬼板には鬼面が取り付けられています。
鬼板も鬼面も屋根も破風板もすべて赤色なので、変化が少なくやや単調な感がなきにしもあらず。
最後に本殿の左奥(南側)にあった境内社。
母屋が4つに区切られている四間社(よんけんしゃ)というちょっとめずらしい造り。
破風板と垂木、縁側などの意匠があり、小祠にしては手が込んでいました。
以上、八王子神社でした。
(訪問日2020/01/24)