甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【静岡市】静岡浅間神社 その2(楼門)

今回も静岡県静岡市の静岡浅間神社について。

 

その1では、総門について述べました。

当記事では、楼門や南回廊、北回廊などについて述べます。

 

楼門

総門の先には楼門が鎮座しています。

 

三間一戸、楼門、入母屋、銅瓦葺。

1816年(文化十三年)造営。「神部神社浅間神社」23棟として国指定重要文化財(国重文)*1

 

下層は3間。

中央の通路部の柱間は広く取られ、左右の柱間には随神像が置かれています。

 

正面中央の柱間。

柱は円柱が使われ、頭貫にしめ縄がかかっています。

飛貫の手前と内側には、金色に彩色された唐獅子の木鼻があります。

 

木鼻の詳細。

通路側に出た唐獅子(写真右)は、頭上に力神が乗っていて、頭貫を持ち送りしています。

楼門の各所に配された彫刻は、諏訪の立川流の工匠らによる作。2020年の修復工事で漆塗りや彩色の塗り直しが行われたため、きらびやかな彩色が維持されています。

 

向かって左の柱間。

飛貫と頭貫のあいだの欄間の彫刻は、虎の子渡し。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は三手先。台輪の上の中備えにも詰組が配されています。

 

下層左側面(南面)。

側面の欄間は、波の彫刻。

 

内部の通路上には、大きな竜の彫刻が置かれています。

竜の彫刻の上には虹梁がわたされ、大瓶束の左右にも精緻な彫刻があります。彫刻の題材は牡丹に唐獅子。

 

内部向かって右側(北側)。写真右が正面方向です。

こちらも飛貫と頭貫のあいだに欄間彫刻があります。左は鳳凰、右は雲間に立つ麒麟。

台輪の上の中備えには蟇股。網がかかっていて見づらいですが、兎などの鳥獣が彫られています。

 

下層背面。

欄間彫刻は、竹に虎。

 

つづいて上層。扁額は「當國總社(当国総社) 冨士新宮」。

上層も正面3間。柱間は、中央が板戸、左右は格狭間のついた連子窓。

 

向かって左。

柱は円柱で、長押と貫で固められています。頭貫には唐獅子の木鼻。

柱上の組物は尾垂木三手先。柱間にも詰組が並んでいます。組物の上部には、拳鼻ではなく彩色された牡丹の彫刻がついています。

 

左側面。

連子窓の格狭間には、唐獅子の彫刻。正面や背面の窓も、同様に唐獅子です。

 

入母屋破風には、波の彫刻があります。その上は、見づらいですが虹梁と大瓶束があります。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

飾り金具や鬼板には、三つ巴の紋。

 

背面。

柱間や軒下などの意匠は、正面と同様です。

 

背面全体図。

上層の軒裏は二軒繁垂木。垂木を放射状に配した扇垂木で、禅宗様の技法です。

 

楼門の左右にはこのような3間の袖塀がつながっていて、この塀も楼門の一部というあつかいのようです。こちらは向かって左(南側)のものを正面から見た図。

柱は角柱、軸部は長押で固定されています。腰壁には格狭間、その上は緑色の連子窓。

 

南回廊と北回廊

楼門と袖塀の左右には、回廊がつながっています。上の写真は楼門向かって左にある南回廊。

折曲り延長28間・梁間2間、入母屋、西端西の間に接続、北端切妻、銅瓦葺。

1813年(文化十年)造営。「神部神社浅間神社」23棟として国重文*2

 

入母屋破風。

破風板の飾り金具の文様は、紗綾形(卍繋ぎ)。拝みには蕪懸魚が下がり、鰭は若葉の意匠。

妻飾りは豕扠首。

 

楼門側の妻面(北面)。

梁間は2間。

柱は円柱が使われ、頭貫には拳鼻、柱上は舟肘木です。

妻飾りは二重虹梁。大瓶束で棟木を受けています。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。桁隠しは雲の彫刻。

 

反対側、楼門向かって右(北側)には北回廊。

折曲り延長29間、梁間2間、入母屋、西端直会所に接続、南端切妻、銅瓦葺。

南回廊と同様に1813年造営で、国重文

 

細部意匠は南回廊とほぼ同じ。柱間は、横板壁、連子窓、舞良戸が使われています。

 

手水舎

楼門をくぐると、参道の左右に手水舎があります。こちらは右側(楼門の北西)にあるもの。

切妻、銅瓦葺。

造営年不明。江戸後期以降のものと思われますが、この手水舎は文化財指定されていないようです。

 

柱は几帳面取り角柱。頭貫の拳鼻には、渦状の若葉が彫られています。

柱上は、大斗に舟肘木を組んだものが使われています。

 

正面の貫の上の中備え。

笹のような植物に雀がとまっています。

 

東面。

こちらも中備えに蟇股があります。彫刻は梅と思われますが、退色して題材がよくわからず。

妻虹梁の絵様は、牡丹の花と葉を渦状にアレンジした意匠。

妻飾りは大瓶束のようなものが立てられ、その左右には波に鯉の彫刻。

 

参道左側(楼門南西)にも同様の手水舎があります。

蟇股に雀の彫刻がある点は、前述の手水舎と同様です。

 

構造は楼門北西のものと同じですが、細部意匠がわずかに異なります。

貫の上の中備えは、水仙の彫刻。

妻虹梁の絵様は、菊の花に青い渦の意匠を取り入れています。

大瓶束の結綿は桜の花のような意匠。その左右は波に鯉。

 

破風板の拝みには蕪懸魚。鰭は雲と花の意匠。

 

楼門や南回廊、北回廊などについては以上。

その3では舞殿、拝殿、本殿などについて述べます。

*1:附:棟札1枚

*2:附:棟札1枚、絵図1枚