世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【書評】『神社の本殿 建築にみる神の空間』三浦正幸 著

今回は書評ということで、『神社の本殿 建築にみる神の空間』について紹介いたします。

 

寺社巡りをしていると、案内板があって建築物の解説が書かれていることが多々ありますが、専門用語ばかりで何を言っているのか解らない...ということはないでしょうか?

また、寺社にまつわる書籍を探しても、神話・法話や御利益・パワースポット関連のものばかりで、建築について体系的に説明している書籍はなかなか見つからないと思います。

 

そういった人に、寺社建築(おもに神社)の基礎知識として読んで欲しいのが『神社の本殿 建築にみる神の空間』です。

寺社について建築の観点から考察した本は数えられるほどしかなく、本書は寺社建築を語る上では必読と言って過言でない書籍です。内容は神社のほうに比重が置かれていますが、本書の知識は寺院建築にも応用することができます。

 

 

概要

著者

三浦正幸(みうら まさゆき)

  • 1954年、名古屋市生まれ
  • 1977年、東京大学工学部建築科卒業、工学博士、広島大学大学院文学研究科教授

主な著書に『城の鑑賞基礎知識』(至文堂 1999年)、『平清盛と宮島』(南々社 2011年)など。

 

書籍情報

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タイトル 神社の本殿 建築にみる神の空間
著者 三浦正幸
出版社 吉川弘文館
サイズ B6版 239ページ ソフトカバー
定価 1,800円+税

 

内容

前半では神社建築を語る上で必須の専門用語について説明し、後半は各種の建築様式の特徴や神社本殿の歴史について語る構成になっています。本書の内容を箇条書きすると下記のとおりです。

  • 神社本殿の構造と意匠について
  • 神社本殿と寺院本堂の相違点
  • 神社本殿の各種様式について
  • 神社本殿の起源と、発展の歴史

冒頭の約50ページで神社建築を構成する各種の要素について詳細に解説されており、ここは神社建築を鑑賞するうえで絶対に押さえておきたいエッセンスが凝縮されています。ここを読むだけでも、今まで漠然と全体を眺めていただけの神社を、細部まで見る目を養うことができるはず。

なお、当ブログのメインコンテンツである寺社の解説記事の大半は、本書のこの部分の情報を根拠に執筆していたりします。

 

後半の章は、神社本殿の起源についての考察や、本殿がどのような歴史を経て発展したのかについての内容になります。冒頭と比べると歴史的・建築論的な切り口がメインとなって少々難しくなってきますが、寺社建築をより深く楽しむためのヒントとなる考え方が述べられています。

様式から建物の年代を推定したり、案内板の解説がない寺社をじっくりと鑑賞したり、複数の寺社の関連性を考察したりするのなら、後半の内容も必見と言えるかと思います。

 

良い点、悪い点

読んでみて良かった点と悪かった点を下記に箇条書きします。

良い点

  • 体系的にまとめられていて、この一冊でひととおりの知識が身につく
  • 建築の観点から神社を語った書籍は貴重
  • 基本的な用語さえ理解できれば非常に読みやすい
  • 神社だけでなく、寺院にも応用できる普遍的な内容

悪い点

  • 図解にキャプションがなく、どの部分のことを言っているのか解りにくい箇所がある
  • 桁、梁、垂木といった基礎用語の説明はなく、建築について読者がある程度知っていることを前提に書かれている
  • 索引がなく、辞書・辞典としての利用はやや難あり

 

総評

再三になりますが寺社建築の観点に特化した書籍は希少なので、この分野に興味があるならそれだけでも読む価値があります。著者は工学系の人物であるため、宗教・スピリチュアル的な観点ははっきりと分別をつけて語っている点も良いと思います。

解説は神社の外観だけに留まらず、歴史的な側面からの考察もされており、非常にディープで濃厚な内容にまとまっています。本書を読むことで、寺社建築のどこに注目すればいいかが解るので、読む前と後とでは寺社の見方ががらりと変わり、寺社巡りの楽しみも大幅に増えることでしょう。

 

すばらしい書籍ではありますが、「良い点、悪い点」の項目で書いたように図解や建築用語についての説明にやや不親切な点があり、工学系・建築系の人間でないととっつきにくいと思われる箇所が散見されます。この点では、ちょっと読む人を選ぶ書籍かもしれません。

 

以上、『神社の本殿 建築にみる神の空間』の書評でした。