甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【長野市】善光寺 大勧進と大本願

今回も長野県長野市の善光寺について。

 

当記事では善光寺塔頭の大勧進と大本願について述べます。

善光寺の主要な境内伽藍やアクセス情報については、当該記事をご参照ください。

 

大本願

所在地:〒380-0851長野県長野市長野500(地図)

 

善光寺大本願(だいほんがん)は、善光寺の塔頭のひとつで、浄土宗の尼寺です。後述の大勧進とともに善光寺を護持しています。

境内入口は表参道の左手(西)に東面し、すぐ近くに善光寺仁王門があります。

 

大本願の唐門は、一間一戸、切妻、正面背面軒唐破風付、銅板葺。

2本の主柱だけで屋根を支える形式の門。この建築様式は、どう呼称したらいいのか私には分かりません...

扁額は「大本願」。

 

柱の側面には唐獅子の木鼻。

前方に男梁(腕木)が持ち出され、その先端と左右は象鼻になっています。男梁の下には女梁(肘木)が添えられ、女梁の下は木鼻と巻斗で持ち送りされています。

 

唐破風の兎毛通は、松に鶴。

写真左下の小壁には大瓶束。

 

切妻破風の拝みには鰭付きの懸魚。

桁の木口は銅板でカバーされています。桁と棟の距離が近いため、懸魚の鰭が桁の木口にかかっています。

 

内部。

ほぼ前後対称の造りとなっています。

写真左下は、門扉の桟唐戸。格狭間が入っています。

 

背面。

こちらも軒に唐破風が設けられています。

 

境内の北側には、位牌堂と水子地蔵。

塀の向こうには善光寺仁王門が見えます。

 

境内の中央部には本堂が東面しています。

入母屋、向拝3間、銅板葺。

 

垂れ幕で見づらいですが、向拝柱は大面取り角柱。

組物は連三斗。

虹梁中備えは蟇股。彫刻は花と若葉で、やや古風な造形。

 

母屋柱は円柱。柱間は蔀戸と火灯窓。

組物は出三斗。中備えの蟇股は、向拝のものと似た造形。

 

本堂の向かいには文殊堂が西面しています。写真右が正面。

梁間正面1間・背面2間・桁行2間、入母屋(妻入)、銅板葺。

1988年造営。

 

扉の上の蟇股は、シンプルかつ幾何学的でかなり古風な造形。

蟇股の上は通し肘木になっていて、柱上の出三斗と共有しています。

 

軸部は長押と頭貫で固定。頭貫には大仏様木鼻。

柱は円柱で、柱上の組物は出三斗。

 

背面は2間。

入母屋破風の拝みには猪目懸魚。

 

以上、善光寺大本願でした。

 

大勧進

所在地:〒380-0851長野県長野市長野492(地図)

 

善光寺大勧進(だいかんじん)は善光寺の塔頭のひとつ。宗派は天台宗。前述の大本願とともに善光寺を護持しています。

境内入口は善光寺山門の左手前(南西)の放生池の先にあり、東向きです。

大勧進の大門は、一間一戸、薬医門、切妻、本瓦葺。

1789年(寛政元年)造営。諏訪の宮大工・立川和四郎富棟(初代和四郎)*1の作

 

柱間に極太の冠木がわたされ、「大勧進」の扁額が掲げられています。

扁額の裏には竜。立川流の十八番といえる彫刻ですが、肝心の顔が扁額の陰になってしまっているのが残念。

 

前方(写真右)に突き出た腕木の先端は、波の篭彫り。

内部は、薬医門にしてはめずらしく天井が張られています。

門扉は板戸。

 

背面の柱は、面取り角柱。側面には象鼻、背面(写真手前)には拳鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。虹梁の上の組物と、肘木を共有しています。

 

左側面(南面)。

貫の上の彫刻は、波に亀。

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は波の意匠。

 

大門の先には萬善堂(本堂)。

入母屋、向拝3間 軒唐破風付、本瓦葺。

 

向拝の軒唐破風には、鶴に乗った仙人の彫刻。

 

向拝は3間。

向拝柱は几帳面取り。正面は唐獅子、側面は象の木鼻がついています。

虹梁は波が浮き彫りされています。両端の下部には波の意匠の持ち送り。虹梁中備えは蟇股。

唐破風の小壁には彫刻がありますが、金網がかかっているため題材がよく解らず。

 

向拝と母屋は、まっすぐな梁でつながれています。梁の向拝側(写真右)は、唐獅子の彫刻で持ち送りされています。

梁の中央には笈形付き大瓶束が立てられています。大瓶束の上から、小さな海老虹梁が伸び、母屋の組物に取り付いています。

 

母屋柱は円柱。柱上は出組。

隅の柱には唐獅子の木鼻がついています。

 

妻飾りは二重虹梁で、笈形付き大瓶束が多用されています。

 

萬善堂の右手前には手水舎。

入母屋、銅板葺。

虹梁木鼻は、波に千鳥の彫刻。

軒裏は扇垂木。

 

境内東側には地蔵堂。

八角円堂、本瓦葺。

興福寺北円堂(奈良市)のミニチュアといった感じの趣。

 

萬善堂のとなりには位牌堂と護摩堂。

 

以上、善光寺大勧進でした。

(訪問日2022/07/03)

*1:諏訪大社下社秋宮(下諏訪町)の幣拝殿などを造営した人物。