甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【駒ヶ根市】大御食神社

今回は長野県駒ケ根市の大御食神社(おおみけ-)について。

 

大御食神社は赤穂の集落に鎮座しています。

創建は不明。「神代文字社伝記」なるものが伝わっていますが、偽書の可能性が指摘されています。その社伝によると、西暦129年(景行天皇五十八年)にヤマトタケルを祀ったのが当社の始まりとのこと。

現在の境内は江戸時代後期以降のもので、「美女ヶ森」と呼ばれる社叢に覆われています。本殿は立川流の宮大工の作で多数の彫刻が配され、市の文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒399-4117長野県駒ヶ根市赤穂市場割11475(地図)
アクセス 小町屋駅から徒歩20分
駒ヶ根ICから車で10分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道

大御食神社の境内は南西向き。

社頭の向かいに駐車場があり、周辺は集落と畑地が広がっています。

 

入口には石造の明神鳥居。

右の社号標は「大御食神社」、左は「美女ヶ森」。

 

参道右手には手水舎。

切妻、銅板葺。

 

拝殿

拝殿は、入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

1923年再建。

棟梁および彫刻は大隅流の小口平助が手がけたとのこと(境内案内板より)。

 

向拝。

しめ縄のかかった虹梁は、唐草が浮き彫りになっています。

唐破風の小壁には大瓶束。

破風板の兎毛通は蕪懸魚。

 

向拝柱は几帳面取り。

側面には木鼻がついています。

 

母屋柱は円柱。

頭貫には木鼻。柱上に台輪が通っています。

組物は出三斗と平三斗。中備えは蟇股。

 

側面。

柱間は桟唐戸が多用され、やや寺院風の趣。

 

背面。

向かって左奥(写真では右奥)には回廊の屋根がつづいています。

 

拝殿向かって右には神楽殿。

切妻、銅板葺。

2009年改築。1920年に旧拝殿を神楽殿に改造したとのこと。

 

本殿

拝殿の後方には透かし塀に囲われた本殿が鎮座しています。

本殿は市指定有形文化財。

祭神はヤマトタケル、宮簀姫、誉田別命。

 

桁行3間・梁間1間、三間社流造、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

棟札より、1863年(元治元年)再建。冒頭で述べた社伝記ではなく棟札による記録のため、信憑性は高いです。

案内板(駒ケ根市教育委員会)によると、棟梁は立川和四郎富昌(2代目和四郎)の一番弟子である斉藤常吉、彫刻は同じく弟子の立木音四郎が担当したとのこと。

 

向拝は1間で、横に広くなっています。

向拝柱は几帳面取り角柱。前面には唐獅子、側面には象の木鼻。

虹梁の中備えには多数の彫刻が配されていますが、塀の外から本殿まで距離があるため、細部の観察はむずかしいです。

 

向拝の軒下には5段の階段。階段の手前下の羽目にも彫刻があります。

階段の下には浜床が張られ、擬宝珠付きの欄干が立てられています。

 

向拝と母屋をつなぐ海老虹梁には、竜が彫刻されています。こちらは昇り竜、反対側は降り竜です。

軒裏を受ける手挟は、菊の篭彫り。

母屋には3つの扁額がかかげられ、向かって右(写真手前)には「八幡」の字が見えます。よって3つの扉の祭神は、右が誉田別命(八幡神)、中央がヤマトタケル、左が宮簀姫です。

 

右側面(南東面)。

縁側が非常に高く、縁束は1.5メートルほどの高さがあります。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。脇障子はありません。

 

母屋柱は円柱。

軸部は長押と頭貫で固定され、頭貫には木鼻が使われています。

中備えの蟇股の彫刻は、樹木が題材と思われます。

組物は出組。支輪板には波の彫刻。

 

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。桁隠しはありません。

 

背面は3間。

軒裏は二軒繁垂木。

 

以上、大御食神社でした。

(訪問日2022/06/18)