甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【山梨市】清白寺

今回は山梨県山梨市の清白寺(せいはくじ)について。

 

清白寺は笛吹川南岸の農園地帯に鎮座する臨済宗の寺院です。山号は海涌山。

創建は、1333年(正慶二年)または1351年(観応二年)とされます。『甲斐国志』(1814年成立)によると、足利尊氏によって開かれたとのこと。当初は建長寺(鎌倉市)の末寺でしたが、江戸初期に妙心寺(京都市)の末寺となっています。1682年には、火災で仏殿以外の伽藍すべてを焼失しました。

現在の境内は、門から本堂が一直線に並んだ禅宗式の伽藍配置となっており、仏殿が室町前期、そのほかの伽藍は江戸中期のものです。とくに仏殿は禅宗様建築の典型例として価値が高く、国宝に指定されています。また、庫裏は禅宗寺院の庫裏の遺構として貴重なため、国の重要文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒405-0011山梨県山梨市三ケ所620(地図)
アクセス 東山梨駅から徒歩5分
勝沼ICから車で15分
駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料 ※仏殿の内部拝観は要予約(300円)。
寺務所 あり(要予約)
公式サイト 国宝清白寺
所要時間 20分程度

 

境内

参道

清白寺参道

清白寺の境内は南向き。

参道の両脇は梅並木。その左右はブドウ畑で、この近辺は果樹園が一帯に広がっています。

 

梅並木の先には総門があります。

一間一戸、四脚門、切妻、桟瓦葺。

1731年(享保十六年)造営。

 

扁額は山号「海涌山」。

四脚門は前後の柱を角柱にするのがふつうですが、この総門はすべてを円柱にしています。柱は上端が絞られ、粽になっています。

頭貫には木鼻が付き、側面(写真左)に出た木鼻には、台輪木鼻が添えられています。

軒裏は一重のまばら垂木で、化粧屋根裏。内部は天井がありません。

 

妻面。写真右が正面側です。

主柱(写真中央)は棟のすぐ下まで伸び、台輪と組物を介して棟木を受けています。

主柱の前後には海老虹梁がわたされ、控柱の上の軒桁の位置に降りています。前方と後方とで海老虹梁の出る位置が異なり、高低差がついていて、独特な構造です。

 

清白寺鐘楼門

総門の先には鐘楼門。

一間一戸、楼門、入母屋、桟瓦葺。

側面は2間。柱は下層が円柱、上層が角柱となっています。

 

鐘楼門2階

上層には梵鐘が吊るされています。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

仏殿

清白寺仏殿

境内の中心部には仏殿が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、一重、裳階付、入母屋、檜皮葺。

1415年(応永二十二年)の造営*1

国宝に指定されています。山梨県の国宝(全5件)のうち、建造物は大善寺本堂とこの仏殿の2件のみです*2

 

建築様式は、手短に書くと方三間裳階付(ほうさんけん もこしつき)というもの。禅宗様建築でよく見られる様式で、功山寺仏殿(下関市)、円覚寺舎利殿(鎌倉市)、正福寺地蔵堂などが同様式の代表例です。

各所の意匠も禅宗様に則ったものとなっており、この堂は禅宗様建築の典型例といえます。

 

下層。

屋根は二重になっていますが、下層の屋根は厳密には屋根ではなく、裳階(もこし)という庇です。正面側面3間の周囲1間に裳階が付いたため、下層(裳階の下)は正面側面5間となります。

正面の5間のうち、中央は桟唐戸、左右の各2間は火灯窓が設けられています。

 

中央の桟唐戸。戸の上部は斜めの格子が入り、格子は矢印型の花狭間で飾られています。扉の軸は、頭貫に取り付けられた藁座で受けています。

頭貫の上の欄間は、波状に彫られた弓欄間が入り、中央部には宝珠の意匠。

いずれも禅宗様の典型的な意匠です。

 

隅の柱。

柱は上層下層ともに円柱が使われ、上端が丸く絞られた粽です。

頭貫には拳鼻(禅宗様木鼻)。

下層の組物は出三斗が使われています。

 

左側面(西面)。

前方(写真右)の1間は桟唐戸、中央の3間は連子窓、後方の1間は縦板壁。

後方の4間には、腰貫(窓の下の貫)が通っています。

 

柱は、そろばん珠のような形状の礎盤の上に立てられ、その下には四角い礎石があります。

 

下層の軒裏は、平行に伸びた一重まばら垂木。

上層の軒裏は、放射状(扇垂木)に伸びた二軒繁垂木。

禅宗様建築は軒裏を扇垂木にするのが大きな特徴ですが、このような二層の建築の場合、下層は平行垂木とするのが通例です。

 

上層は正面側面ともに3間。

下層と同様に、上端が絞られた円柱が使われています。

 

柱の上部には頭貫が通り、その上には台輪がわたされています。頭貫と台輪の両方に木鼻が付き、典型的な禅宗様木鼻です。

柱上の組物は出組。柱上だけでなく、柱間の中備えにも組物が置かれています(詰組という)。

 

上層側面。こちらも詰組があります。

懸魚の影になってしまって見づらいですが、入母屋破風の奥の妻飾りは、虹梁と大瓶束。

 

破風板の拝みには蕪懸魚。

 

仏殿については以上。

内部は桟唐戸の隙間からのぞき込めますが、撮影禁止。内部の柱や鏡天井などの重要な部分は公式サイトに写真が掲載されています。

 

本堂と庫裏

仏殿の裏には本堂。扁額は「大雄寶殿」。

入母屋、桟瓦葺。

 

本堂の玄関部分。

向唐破風の屋根の下に、庇がついています。

大棟鬼瓦の紋は、丸に二つ引き。足利将軍家の紋です。

 

唐破風の妻飾りには、笈形付き大瓶束があります。笈形は波の意匠。

 

境内の北東には庫裏があります。

切妻(妻入)、茅葺。

元禄年間(1690年頃)の再建国指定重要文化財*3

江戸中期の建築というのはさほど古いものではないですが、禅宗寺院の庫裏(僧侶の住居)が現存している例は貴重なようです。

 

正面の切妻破風。

梁と束を組み合わせて構成した、和風の小屋組です。中央部には、組物、蟇股、花肘木などの意匠が使われています。

 

以上、清白寺でした。

(訪問日2020/05/24,2023/04/22)

*1:組物の墨書銘より

*2:2022年現在

*3:附:棟札1枚