甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲州市】諏訪神社(初鹿野)

今回は山梨県甲州市初鹿野(はじかの)の諏訪神社(すわ-)について。

 

諏訪神社は国道20号沿線にある旧大和村の集落に鎮座しています。

創建は1793年(寛政五年)とのこと。初鹿野の地名は、当社の祭神タケミナカタが当地で狩をした伝説に由来するようです。

現在の社殿は江戸期以降のもの。とくに本殿は身延の下山大工・土橋文蔵の作で、多数の彫刻が配された豪華な造りとなっています。また、境内のホオノキや大杉でも知られているようです。

 

現地情報

所在地 〒409-1203山梨県甲州市大和町初鹿野1684(地図)
アクセス 甲斐大和駅から徒歩5分
勝沼ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

随神門

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諏訪神社の境内は南向き。入口は国道20号線と並行する脇道に面しています。

鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「諏訪宮」。鳥居にしてはかなり小さく、上半身をかがめないとくぐれません。

 

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鳥居の先には随神門。

三間一戸、八脚門、切妻、銅板葺。

前方の1間は建具がなく、吹き放ちの空間になっています。

 

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柱はいずれも円柱。頭貫には象鼻。

柱上の組物は、木鼻のついた出組。持ち出された桁の下には軒支輪があります。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

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背面も同様。ただしこちらは柱間に横板壁が張られています。

 

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右側面(東面)の妻壁。

妻虹梁には渦状の唐草が彫られています。

妻飾りは大瓶束。上部の左右には木鼻が付いています。

見切れてしまっていますが、破風板の拝みには蕪懸魚が下がっています。

 

拝殿

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随神門の先には拝殿があります。

寄棟、向拝1間、鉄板葺。

大棟には諏訪神の紋「梶の葉」が黄色く描かれています。

 

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向拝柱は角面取り。前面と側面に拳鼻が付いています。

柱上の組物は連三斗。側面の木鼻が巻斗を介して持ち送りしています。

虹梁中備えは蟇股。

向拝柱と母屋は海老虹梁でつながれています。

 

本殿

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拝殿の後方には、塀と鉄骨に囲われた本殿が鎮座しています。

桁行1間・梁間1間、一間社入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間・軒唐破風付。

甲州流の下山大工・土橋文蔵茂祇によって1793年(寛政5年)再建(山梨県教育委員会の案内板より)。県指定文化財。

祭神はタケミナカタなどの諏訪神。

 

本殿を覆う鉄骨は、おそらく文化財保護のためと思われます。隣接する大月市の周辺では本殿の保護のため覆いの屋根を設けることが多々ありますが、このように屋根がない例は見たことがありません。

宮大工の土橋文蔵は、すぐ近くにある大善寺の山門も造営した人物です。

 

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向拝は1間。

軒下や母屋壁面、それから縁の下にまで大量の彫刻が配され、非常に豪華な本殿です。

 

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上の写真では虹梁中備えや唐破風の軒下の彫刻がよく見えませんが、案内板の解説によると下記のとおりです。

 向拝の柱は几帳面つきの角柱、柱上に頭貫を通し、両端に獅子彫り木鼻をつけ、柱上に皿斗つきの大斗をおき、通肘木のついた連三斗で軒唐破風の虹梁を支える。頭貫と虹梁間の全体に数頭の唐獅子を配刻し、虹梁と、茨棰の間は獏を追う老若男子の彫刻で埋める。兎毛通しには怪鳥を懸け、母屋を繋ぐ手挟は籠彫りの牡丹とする。昇り高欄つき木階五級を設け、前面に浜床を張る。また、虹梁・長押・菖蒲桁・縁葛・木階等に至るまで、卍繋ぎ、麻葉繋ぎ、市松模様その他の幾何学的文様を彫り出し装飾としている。

(「山梨県教育委員会 大和村教育委員会」の案内板より抜粋)

 

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母屋は内部にも彫刻があります。

組物は三手先で、詰組(柱間にも組物を置くこと)になっています。組物の木鼻は竜や鳳凰の頭が彫られ、組物あいだの中備えにも彫刻が入り、隙間なく彫刻で埋め尽くされています。

詳細な解説は下記のとおり。

 身舎は円柱、四面に切目長押・腰長押・内法長押をめぐらし、側背三面の柱間板壁を中国古伝の厚肉彫刻で飾り、外陣の内側面にも竹に鶴の彫刻をはめる。頭貫の先端は象頭および獅子頭の木鼻とし、斗栱は和様三手先、詰組、実肘木で丸桁を受ける。隅菊斗を入れ、尾棰を出し、その木鼻を亀頭および瑞鳥頭とする。軒鏡小天井を張り、支輪は雲彫刻つき、琵琶板間の各面に鳥獣の彫刻を配する。

(「山梨県教育委員会 大和村教育委員会」の案内板より抜粋)

 

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左側面(西面)。

壁面の羽目板彫刻は、竹林の七賢人が題材。

 

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脇障子の羽目には鬼が彫られています。

脇障子の上には昇り竜がからみついています。反対側(右側面)の脇障子は降り竜になっていました。

 

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背面。彫刻はこちらも竹林の七賢人です。

切目縁は4面にまわされていますが、背面側は欄干が途切れています。

 

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屋根は入母屋で、正面に千鳥破風と軒唐破風がついています。当初の屋根は檜皮葺だったようですが、現在は銅板葺に改められています。

棟は山梨県でよく見られる箱棟で、箱棟の上に小さな切妻屋根がついています。

棟には梶の葉の紋が描かれ、千鳥破風には鬼面がついています。

 

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右側面(東面)の妻面。

破風板の拝みには猪目懸魚、破風の内部は木連格子。

大棟鬼板には鬼面が見えます。

 

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縁の下は四手先の腰組で支えられています。腰組の木鼻には、獣(おそらく牛)の頭が彫刻されています。

組物の下の木鼻や羽目にも動植物の彫刻が入っています。

 

御神木と大杉跡

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本殿の後方には、縄のかかったホオノキ(朴)が生育しており、これが御神木のようです。

ヤマトタケルがこの地に突き立てた杖が根を張って成長したものだと言われているらしいです。案内板(大和村教育委員会)によると“古来からこの神木を疎かにすると、不詳の事件が起きると信じられているので、神意に逆らわないようにしている”とのこと。

 

ウェブ上ではこの御神木にまつわる祟り云々の噂話が転がっているようですが、率直に言ってあまりこの木との関連性は感じられません。

 

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こちらは境内東側にある切り株、「初鹿野の大杉跡」。

“ここにあった大杉は笹子峠の矢立杉(北都留郡大月市笹子町)、甲斐奈神社橋立の大杉(東八代郡一宮町)と共に甲州街道の三本杉といわれた巨木である”とのこと(大和村教育委員会の案内板より)。1903年(明治三十六年)に鉄道が開通し境内裏手を蒸気機関車が往来するようになると、樹勢が衰え枯死してしまい、伐採されました。

 

切り株だけになってしまった痛ましい姿を思うと、前述のホオノキよりもこちらの大杉のほうがよっぽど祟りそうな気がしますが、とくにそういった噂話はないようです。

 

以上、諏訪神社でした。

(訪問日2019/04/27,2021/01/23)