今回は山梨県のマイナー観光地ということで、甲州市の初鹿野(はじかの)にある諏訪神社(すわ-)について。
地図やナビには“諏訪神社”とだけ書かれていますが、旧大和村には他にも諏訪神社があるようなので、区別のため当記事では初鹿野の地名を付しておきます。
この神社は、当初の予定では訪問するつもりはなかったのですが、自転車移動の小休止のために立ち寄ったところ立派な社殿があったので、取り上げさせてもらうことに相成りました。
彫刻で満たされた派手な本殿をじっくりと鑑賞し、満足な気分で次の目的地へ向かったのですが、帰宅後に当記事を書くため何気なくウェブ検索してみたところ、ここはちょっとした心霊スポットだったみたいです。マイナーな神社や城跡を巡っていると割とよくあることですね。
現地情報
所在地 | 〒409-1203山梨県甲州市大和町初鹿野1684(地図) |
アクセス |
甲斐大和駅から徒歩5分 勝沼ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
鳥居をくぐった先にある随神門。
村の鎮守といった趣の神社ですが、随神門があるのはなかなかすごいです。この時点で、これは期待していいかも、という予感が湧いてきました。
拝殿はトタン屋根。寄棟造りで向拝がついています。
本殿
そしてこちらが本殿。一間社の入母屋で、向拝は唐破風。屋根は檜皮らしいですが、銅で覆われています。
屋根の形状を見て、「まさか、撞木造(しゅもくづくり)...?!」と思ったのですが、案内板によると正面の破風は千鳥破風とのこと。よって、平入の入母屋であり、撞木造ではございません。
ちなみに、ここの案内板の解説は非常に詳細な説明が書かれていて、内容はちょっと難しいですが勉強になりました。訪問の際は、よく読んでおくことをお勧めします。
ところで、本殿を覆っている謎の鉄骨は何なのでしょう? どの案内板にも一切それらしい説明がないのが気になります。
拝殿と本殿の間には橋がありました。昔はここに小川があったのでしょうか?
そして本殿は、木階(きざはし:角材の階段のこと)の下にも床があり、その床下にまで彫刻が施されているという凝りよう。巧拙は私には判断できないですが、凄まじい力作であるのは間違いないです。
彫刻だけでなく組物も凝っており、軒下は三手先、縁の下は四手先。
斜め後方から見た図。
組物は通常なら柱の真上に配置されるものですが、よく見ると梁の上にも組物が配置されています。これを詰組(つめぐみ)と言い、禅宗様の建築の特徴の1つです。禅宗様の建築についての解説は、安楽寺八角三重塔(上田市)の記事でざっくりと語っているので、ここでは割愛します。
神社建築は基本的に和様(わよう)であり、この本殿もどう見ても和様です。しかし詰組を使っているあたりから察するに、純粋な和様ではなく禅宗様も取り込み、いいとこ取りを狙ったのかもしれません。
彫刻についてはよく解らないのでノーコメント。中国の故事を題材にしているみたいです。
ただ、1つ気になったのは、脇障子の上にある竜の彫刻です。ここにまで彫刻を施しているのは初めて見ました。軒下と壁と縁の下と脇障子に彫刻して、それでもまだ満足できなかったのでしょうか...?
斜め前から見た図。
間口1間、奥行1間の小規模な母屋に対し、唐破風が大きく突き出しています。このシルエットを造形美と捉えるか、アンバランスと感じるかは見る人の感性次第です。
この本殿は江戸中期、1793年のものとのこと。ちなみに、このように彫刻で満たされた社殿は、ほぼ全てが江戸時代以降のものです。江戸時代の寺社建築は、目の肥えた方々からは評判がよろしくないみたいですが、素人の私としては見ていて楽しければ細かいことは別に気にならないです。
最後に余談になりますが、この神社が心霊スポットとされている由縁は本殿の後ろにある神木のホオノキ(朴)で、上に掲載した写真にも写り込んでいます。本殿の後ろには数本の木があり、その中に混じっている広葉樹が件の神木です。
ウェブ検索してみると、“このホオノキを伐ろうとしたところ死亡事故が起きた”という話がありましたが、事故についての情報源や出典がなかったり因果関係が希薄だったりと、神木の祟りと言ってしまうには裏付けに乏しいです。
また、境内には“甲州街道の三本杉”に数えられた杉が切り株だけ残っています。すぐそばを走る中央本線の汽車の煙のせいで枯死してしまったため伐られたようですが、こちらは祟らなかったのでしょうか?
神木の祟りについての真相はどうであれ、諏訪神社の本殿は一見する価値のある素晴らしいものです。国道20号線から程近く、近辺には大善寺(ぶどう薬師)や景徳院などの名刹もあるので、時間に余裕があるならこの諏訪神社も寄ってみることをお勧めします。
以上、諏訪神社(初鹿野)でした。
(訪問日2019/04/27)